・東京地判平成11年8月30日判時1696号145頁  ときめきメモリアル藤崎詩織事件。  被告が、原告(コナミ)が製造販売するゲームソフト「ときめきメモリアル」に登場す るキャラクターである藤崎詩織と類似する女子高生が登場するビデオ「どぎまぎイマジネ ーション」を製造販売したことについて、差止めおよび損害賠償等を請求した事例。  判決は、被告ビデオにおける女子高生と原告ゲームにおける藤崎詩織は、容姿、髪型、 制服などの特徴が共通しており、著作権侵害を認めるとともに、原告ゲームの藤崎詩織は 清純でさわやかな印象であるのに対して、被告ビデオでは、その性格付けが大きく改変さ れている点などを考慮して、差止めおよび227万5000円の損害賠償請求を認容した。 (裁判長裁判官:飯村敏明) ◆著作権および著作者人格権侵害  まず、著作権侵害については、下記のように述べた。  「本件ビデオに登場する女子高校生の図柄は、本件藤崎の図柄を対比すると、その容貌、 髪型、制服等において、その特徴は共通しているので、本件藤崎の図柄と実質的に同一の ものであり、本件藤崎の図柄を複製ないし翻案したものと認められる。  したがって、被告が本件ビデオを制作した行為は、本件ゲームソフトにおける本件藤崎 の図柄に係る原告の著作権を侵害する。」  また、同一性保持権侵害については、下記のように述べた。  「2 同一性保持権侵害について  前記第二、一2の事実、証拠(検甲一)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフト は、前記のとおり、架空の高校『きらめき高校』における恋愛シミュレーションゲームで あるが、登場人物である藤崎詩織は、優等生的で、清純な、さわやかな印象を与える性格 付けがされている。本件ゲームソフトにおいては、ゲームプレイヤーの操作する男子生徒 は、学園生活や日常生活を通して、登場人物である藤崎詩織などと恋愛関係を形成する設 定がされているが、藤崎詩織が性的行為を行うような場面は存在しない。  他方、証拠(検甲二)及び弁論の全趣旨によれば、本件ビデオは、本件ゲームソフトに おいて、男子生徒が藤崎詩織から愛の告白を受けた最終場面の続編として設定され、清純 な女子高校生と性格付けられていた登場人物の藤崎詩織が、伝説の樹の下で、男子生徒と の性行為を繰り返し行うという、露骨な性描写を内容とする、一〇分程度の成人向けのア ニメーションビデオとして制作されている。  確かに、本件ビデオにおいては、藤崎詩織の名前が用いられていないが、@本件ビデオ のパッケージにおける女子高校生の図柄と、本件ゲームソフトのパッケージにおける藤崎 詩織の図柄とを対比すると、前記認定した共通の類似点がある他、さらに、後髪を向かっ て左側になびかせている点、首をやや左側に傾けている点、頭頂部に極く短い髪を描いて いる点、髪の毛に白色のハイライトを付けている点など細部に至るまで酷似していること、 A本件ビデオのパッケージにおける『どぎまぎイマジネーション』というタイトルの選択、 各文字のデザイン及び色彩、青い波形の背景デザインなど、本件ゲームソフトのパッケー ジにおける各部分と類似していること、B本件ビデオにおいて、『本当の気持ち、告白し ます。』と表記され、本件ゲームソフトとの関連性を連想させる説明がされていること等 の事実から、本件ビデオの購入者は、右ビデオにおける女子高校生を藤崎詩織であると認 識するものと解するのが相当である(甲一)。  以上によると、被告は、本件ビデオにおいて、本件藤崎の図柄を、性行為を行う姿に改 変しているというべきであり、原告の有する、本件藤崎の図柄に係る同一性保持権を侵害 している。」 ◆損害額  「1 著作権侵害による損害 証拠(甲一三、一四、乙一七ないし二二)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件ビデ オを販売用に五〇〇本制作し、一本当たり一四〇〇円の卸価格で小売店に販売したので、 販売総額は七〇万円となること、被告は、動画、原画、彩色の各担当者、声優及び監督へ 人件費として二〇万円、複製費用として一七万五〇〇〇円(一本当たり三五〇円)、包装 等の諸雑費として五万円の合計四二万五〇〇〇円を支出したことが認められ、したがって 被告が本件ビデオを販売することにより得た利益額は二七万五〇〇〇円になる。被告は、 本件ビデオを制作するために、パソコンを増設したり、アニメーション制作用のソフトを 購入する必要があった旨主張するが、右費用は、本件ビデオ制作のためだけの費用と解す ることはできないので、控除するのは相当でない。  以上のとおり、原告に生じた損害額は、被告が本件ビデオ販売により得た利益額二七万 五〇〇〇円と同額と推定できる。  2 同一性保持権侵害による損害  証拠(甲三、四、六ないし一三、枝番号の記載は省略する。)及び弁論の全趣旨によれ ば、本件ゲームソフトは平成一〇年三月に一二〇万本の販売実績を上げ、ヒット商品とし て好評を博したこと、原告は、平成七年に、本件ゲームソフトにより、日本ソフトウェア 大賞のエンターテイメントソフト部門優秀賞やその他の賞を多数獲得したこと、登場人物 である藤崎詩織に対する人気も高まり、平成七年ころのコンピュータゲーム誌上における ゲームキャラクター人気投票で、藤崎詩織が一位に選ばれたこと、二次的著作物として、 藤崎詩織を仮想アイドル歌手としたCDが発売されたり、登場人物のイラスト集やその他 の関連商品が販売されたり、実写映画が上映されたり、小説が刊行されたりしたことが認 められ、右経緯に照らすと、本件ゲームソフトにおいては、登場人物である藤崎詩織の優 等生的で、清純な、さわやかな印象を与える性格付けが、本件ゲームソフト及び関連商品 の売上げ及び人気の向上に大きく寄与していると解するのが相当である。  ところで、被告の同一性保持権侵害行為の態様は、前記のとおり、清純な女子高校生と 性格付けられていた登場人物の藤崎詩織と分かる女子高校生が男子生徒との性行為を繰り 返し行うという、露骨な性描写を内容とする、成人向けのアニメーションビデオに改変、 制作したというものであり、被告の行為は、原告が本件ゲームソフトを著作し、その登場 人物である藤崎詩織の性格付けに対する創作意図ないし目的を著しくゆがめる、極めて悪 質な行為であるということができる。  そうすると、本件ゲームソフトの内容及び被告の行為の態様が前記認定のとおりである こと、被告の行為によって受けた原告の信用毀損は少なくないと解されること等一切の事 情を総合考慮すると、被告の改変行為により生じた原告の無形損害を金銭に評価した額は、 二〇〇万円と解するのが相当である。  3 以上によれば、原告に生じた損害は、合計二二七万五〇〇〇円となる。」