・東京地判平成11年10月29日判決速報295号9086  高校数学テキスト事件:第一審。  被告(反訴原告・株式会社ヴェリタス)は学習塾を経営する株式会社であり、原告(反 訴被告)は、被告の取締役かつ被告の塾の数学科の講師として被告に在籍中に、本件原告 各テキストを執筆した。被告は、原告各テキストを印刷、製本し、数学科のテキストとし て使用しているところ、原告が被告に対し、「原告各テキストの著作権はいずれも原告に 帰属しているところ、被告は、これを無断で複製し、テキストとして使用しているから、 原告の複製権を侵害するものである」と主張して、原告各テキストの複製等の禁止等、な らびに右複製権侵害による損害賠償を求めるとともに、給与等の支払を求めるものである。 反訴請求は、被告が原告に対し、「本件各テキストの著作権はいずれも被告に帰属してい るところ、原告は、これを無断で複製し、原告の経営する学習塾で使用しているから、被 告の複製権を侵害するものである」と主張して、本件各テキストの複製等の禁止等を求め た事案である。  判決は、法人著作の成立を認めたうえで、「本件各テキストの著作者は、被告であり、 その著作権はいずれも被告に帰属するものと認められる」として、被告の反訴請求を認容 し、原告(反訴被告)に対して、各教材の印刷、製本、販売、頒布の差止め、および教材 の破棄を命じた。 (控訴審:東京高判平成12年10月26日) ■争 点 1 著作権帰属に関する合意の有無 2 法人著作に当たるかどうか 3 著作権の無償譲渡の慣習の有無 4 使用許諾の有無 5 損害の発生、額 6 給与債権等の発生及び支払の有無 7 本件テキスト七の複製の有無 ■判決文 第四 争点に対する判断 一 争点2について 1 証拠(甲一ないし九、一二の一、甲一六ないし二〇、二九ないし三三、四一ないし四 四、乙三の二、乙四の一、乙六ないし一二、乙一五の一ないし四、乙二一ないし二三、原 告本人、被告代表者、証人浅海芳夫、同藤沼賢、同高澤豊)と弁論の全趣旨によると、次 の事実が認められる。 (一) 渡邉は、原告、大川、花田らと、平成三年一二月ころから平成四年三月ころにかけ て、被告の塾の開設に向け、その運営方針等を協議し、塾の運営は、塾講師の経験のある 原告、大川、花田が行うこと、塾の授業で用いるテキストは当該授業の担当講師がこれを 作成すること、担当講師がテキストを作成してそれを塾の授業で使用した場合、被告は、 担当講師に、講義料とは別に金員を支払うことなどを定めた。テキストに関して右金員を 支払うことになったのは、原告らが、テキスト作成に労力を要することを渡邉に説明した からであった。 (二) 被告の講師は、担当する授業で用いるテキストを事前に作成し、作成したテキスト に沿って授業を行った。講師がテキストの作成を遅滞した場合、罰金が課せられた。  被告の新人研修において、テキストの作成は新人講師にもできる仕事であり、テキスト 作成作業に全く従事しない場合は昇級はありえないとの説明がされた。  被告の講師が作成したテキストは、被告の講座で繰り返し用いられ、それ以外の塾等で 使用されることは、原告が現在その経営する塾で使用している以外にはなかった。 (三) 被告のテキストは、被告の講師がパソコン又はワープロで作成し印刷したものを製 本した簡易な作りで、奥付はなく、表紙の中央に講座名が記載され、表紙の下部に横書き で小さく「教育研究会VERITAS数学科」と記載されており、本件テキスト一ないし 四、七ないし九は、テキストの各ページの上部にも「教育研究会VERITAS」と記載 されている。また、表紙の表題の下に横書きで小さく「VERITAS数学科」と記載さ れている。  被告のテキストには、従前は、テキストの執筆者の記載はなかったが、執筆者について の父兄の問い合わせが多くなったことや、多数の講師がテキストを執筆するようになり、 執筆者を一見してわかるようにする必要が生じたことから、原告の指示により、平成六年 四月ころから、テキストの表紙に執筆者名が記載されるようになった。この表示の変更は、 原告が独断で行ったもので、渡邉に説明して承諾を得たものではなかった。執筆者名は、 表紙の表題の下の「VERITAS数学科」の下に記載され、原告各テキストでは、「野口 修著」、本件テキスト八及び九では、「藤沼賢著」と記載されている。なお、本件テキスト 七は、金子が被告に在籍していたころは、表紙に「金子武弘著」との記載があったが、金 子が平成八年五月ころ被告を退社した後、右記載が原告により削除され、執筆者の記載が ないまま被告の講座で使用された。 (四) 被告の講師の給与は、被告の各教科の主任講師の作成する科目別給与明細表に従っ て、被告の経理担当者である浅海芳夫(以下「浅海」という。)が支払っていたが、右明細 表における講義代等の単価や計算方法は、原告ら講師によって頻繁に変更された。  講師が作成したテキストが授業で使用された場合、当初は、「教材費」の名目で、給与の 一部として、当該講師に一講座につき一か月数万円の金員が支払われていたが、平成六年 四月ころ、原告が、右金員の名目を、渡邉に無断で、「テキスト使用料」に変更した。名目 変更後も、給与の一部として支払われることや基本的な金額算定方法は変わらなかった。 (五) 渡邉は、「教材費」を原告らのテキスト作成の労力に報いるものであると考えていた ため、開塾後二年以上経過すれば、新たなテキストが作成されることも少なくなり、その 支払額が減るものと考えていたが、その支払額が減らず、それが被告の経営を圧迫してい たため、渡邉及び浅海は、同年六月ころ、東京都内の「山の上ホテル」において、原告ら と会合を行い、その際、渡邉が原告に対し、「テキスト使用料」の支払額が平成六年になっ ても減らない理由を尋ねたところ、原告は、同年に入って中学一年生及び二年生のクラス を設けたため、そのためのテキストの作成が必要になったこと、従来のテキストの大幅な 改訂が必要となったことなどを述べた。 (六) 渡邉は、平成七年二月ころ、被告の経営状況がおもわしくないことから、被告の講 師の給与を削減したところ、原告ら講師は、これに反発し、同年三月ころに行われたミー ティングで、渡邉に対し、給与を従前のとおり支払うこと、「テキスト使用料」も従前のと おり継続して支払うことを申し入れ、原告らの集団辞職を恐れた渡邉は、これを了承し、 その後も、講師に対する「テキスト使用料」の支払が続けられた。 (七) 本件各テキストは、いずれも、例題と宿題で構成されている。  本件テキスト三には、右テキストを用いる被告の講座の内容、受講上の注意が記載され、 本件テキスト六には、右テキストを用いる被告の講座の説明や、右テキストの「例題」が 授業で解説する問題、「宿題」が例題の理解をみるための問題であることなどが記載されて いる。 (八) 原告は、被告から、平成四年度においては、一五〇万円以上、平成五年度と平成六 年度においては、各四〇〇万円以上、平成七年度においては、五〇〇万円以上、平成八年 度においては、六〇〇万円以上の「教材費」又は「テキスト使用料」の支払を受けた。 2 右1で認定した事実及び前記第二の一3及び4の事実によると、渡邉は、原告、大川、 花田らと、平成三年一二月ころから平成四年三月ころにかけて、被告の塾の運営方針等を 協議した際に、被告の塾においては、授業で用いるテキストは講師が事前に作成するもの と決定したこと、本件各テキストは、被告の取締役である原告並びに被告の従業員である 金子及び藤沼が、被告の授業で使用するために作成したもので、右1(二)のとおり使用さ れてきており、右(七)のような内容であったこと、以上の事実が認められるから、本件各 テキストは、被告の発意に基づき、被告の業務に従事する原告らが職務上作成したものと 認められる。 3(一) 右1で認定したとおり、本件各テキストには、表紙に「教育研究会VERITA S数学科」及び「VERITAS数学科」の記載があり、本件テキスト一ないし四、七な いし九には、テキストの各ページの上部に「教育研究会VERITAS」の記載がある。  証拠(甲一五の二ないし四、甲二四、二六、三〇、甲四五の一ないし七二、乙六)と弁 論の全趣旨によると、「教育研究会VERITAS」は、被告が経営する塾の名称であり、 「教育研究会VERITAS数学科」及び「VERITAS数学科」は、被告が経営する 塾における数学を教授する部門を指すものと認められる。  原告は、「教育研究会VERITAS数学科」は、被告の数学科の講師グループの名称の 記載であると主張する。被告の講師のグループは、被告に属する従業員のグループである から、被告から独立した団体ではなく、被告が経営する塾における数学を教授する部門に 含まれるものである。  以上の事実によると、「教育研究会VERITAS」、「教育研究会VERITAS数学 科」及び「VERITAS数学科」の各記載は、被告名義の表示であると認められる。 (二) 証拠(甲二九、三二)及び弁論の全趣旨によると、本件テキスト二、七ないし九は、 平成六年四月より前に作成されたことが認められるが、前記認定のとおり、被告において テキストの表紙に著者名を記載するようになったのは、右同月ころからであるから、右各 テキストには、作成当初、著者名の記載がなかったものと認められる。  そうすると、本件テキスト二、七ないし九については、作成当初、テキストには、右(一) 認定のような被告名義の表示しかなかったのであるから、被告の著作の名義で公表される ものということができる。 (三) 証拠(甲二九、三二)及び弁論の全趣旨によると、本件テキスト一、三ないし六は、 平成六年四月より後に作成されたことが認められるが、前記認定のとおり、被告において テキストの表紙に著者名を記載するようになったのは、右同月ころからであるから、右各 テキストの表紙には、作成当初から、「野口修著」との記載があったものと認められる。 しかしながら、右1(三)で認定したとおり、(1)右各テキストは、表紙の中央に被告の塾の 講座名、表紙の下部に「教育研究会VERITAS数学科」と表示され、右講座名の右下 の「VERITAS数学科」の下に「野口修著」と記載されており、本件テキスト一、三 及び四には、表紙のみならず、テキストの各ページの上部にも「教育研究会VERITA S」と記載されていること、(2)被告のテキストには従前は執筆者名の記載がなかったとこ ろ、右1(三)認定のような経緯で被告のテキストに執筆者名を記載するようになったこと や、右1(三)認定のとおり、金子が退社した後、本件テキスト七の「金子武弘著」との記 載が原告により削除され、被告において右記載のないものが使用されていたことからする と、執筆者名の記載は著作名義の表示ではなく、講座担当者の表示であると原告自身及び 被告の社内において認識されていたと見るのが自然であること、(3)右1認定のテキストの 内容や使用状況に照らすと、「野口修著」の記載は、その上にある「VERITAS数学科」 との記載と一連のものとして、当該テキストの執筆を被告の数学科の講師である原告が担 当したことを表示したものと認められる。  そうすると、右各テキストについても、被告の著作の名義で公表されるものと認めるの が相当である。  また、仮に、右「野口修著」の記載が著作名義の表示であるとしても、右表示は、右1(三) 認定のとおり、原告が被告代表者の承諾を得ることなく従前は存しなかった表示をしたも のであり、右1認定のテキストの内容や使用状況を併せて考えると、右各テキストは、被 告名義で公表することが予定されていたものというべきであるから、被告の著作の名義で 公表されるものということができる。 4(一) 原告は、渡邉は、原告、大川、花田及び高澤との間で、平成四年三月、被告のテ キストの著作権が講師に帰属すること及びその使用料を被告が講師に支払うことを合意し たと主張し、原告及び高澤の尋問における供述及び同人らの陳述書(甲一四の一、甲一六 ないし一八、甲四一)には、同趣旨の供述及び記載がある。また、甲一三(大川の陳述書) 及び甲二五の三(花田の葉書)にも、同趣旨の記載がある。  しかしながら、高澤は、証人尋問において、右協議の際、著作権という言葉が用いられ たかについては記憶がないなどと供述しており、その内容はあいまいで、甲一四の一及び 甲四一(同人の陳述書)の記載とは大きく異なっている。また、原告も、本人尋問におい て、右協議の際に、原告らが著作権を持つ旨確認したと供述するのみで、その具体的なや り取りまで供述しておらず、甲一六ないし一八(原告の陳述書)の記載も同様であるから、 原告の右供述や陳述書における記載の信用性が高いとはいえない。さらに、甲一三(大川 の陳述書)及び甲二五の三(花田の葉書)には、原告の右主張に沿う結論が記載されてい るのみである。これに対し、渡邉は、代表者尋問において、右協議の際にテキストの著作 権についての話は出なかった旨供述をしており、同人の陳述書(乙二一)にも、同趣旨の 記載がある。そして、右1(五)認定のその後の渡邉の行動に照らすと、渡邉が、被告のテ キストの著作権が講師に帰属するとの認識を持っていなかったことは明らかである。  また、右1認定のとおり、テキストに関して支払われる金員の名目は、当初は「テキス ト使用料」ではなく、「教材費」であり、給与の一部として支払われていたものである。原 告が主張するような合意が成立したとすれば、被告から原告らに対して著作権料名目で給 料とは別に金員が支払われてしかるべきであると考えられるが、全くそのような扱いには なっていない。もっとも、右1認定のとおり、「教材費」は、一講座、一か月という単位で 支払われているが、このような支払方法から直ちに右「教材費」が原告らに著作権を認め た上で支払われる著作権料であるとまで認めることはできない。  以上述べたところに右1で認定したその余の事実を総合すると、原告の右主張に沿う右 の各証拠を直ちに信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。 (二) 原告は、被告との間で、平成七年三月ころ、被告のミーティングにおいて、テキス トの著作権はテキスト執筆者に帰属し、被告には帰属しないことを確認した旨主張し、原 告及び高澤の尋問における供述並びに同人らの陳述書(甲一四の一、甲一八、四一、甲四 三の一)には、口頭及び文書で右確認をした旨の供述及び記載がある。  証拠(原告本人)によると、右文書とは、右ミーティングに際し、原告らが作成した文 書(甲八の二)を指すものと認められるところ、この文書には、テキスト使用料を従前ど おり給与に含めて支払う旨の記載はあるが、著作権が講師に帰属する旨の記載があるとは 認められず、他に、右ミーティングに際して、テキストの著作権はテキスト執筆者に帰属 し、被告には帰属しないことを明示的に確認した文書の存在を認めるに足りる証拠はない。 次に、口頭の確認について判断するに、高澤は、証人尋問において、右ミーティングの際 に、渡邉に対して、著作権という言葉を出したが、それに対して渡邉がどのように言った かは覚えていないなどとあいまいな証言をしており、甲一四の一及び甲四一(同人の陳述 書)の記載とは異なっている。また、原告も、本人尋問の供述及び甲一八、甲四三の一(原 告の陳述書)の記載において、右ミーティングの際の具体的なやり取りまで供述及び記載 しておらず、原告の右供述や陳述書における記載の信用性が高いとはいえない。これに対 し、渡邉は、代表者尋問において、右ミーティングの際に、テキストの著作権について確 認したことはない旨供述をしており、同人の陳述書(乙二一)にも、同趣旨の記載がある。 また、右ミーティングの前後で、テキストに関して講師に支払われる金員について何らか の変更があったことを認めるに足りる証拠はない。以上述べたところに右1で認定したそ の余の事実を総合すると、原告の主張に沿う右の各証拠を直ちに信用することはできず、 右ミーティングの際に、著作権の帰属について明示的に確認されたと認めることはできな い。  右1(四)認定のとおり、「教材費」は、平成六年四月に、原告によって、「テキスト使用 料」に変更され、その後は「テキスト使用料」名目で被告の講師に金員が継続して支払わ れており、右ミーティングがされた当時も、「テキスト使用料」名目で支払われていたので あるが、右1(四)認定のとおり、右の名目の変更は、原告が被告代表者の承諾を得ること なく行ったものである。また、右1(四)認定のとおり、右金員が給与の一部として支払わ れることや基本的な金額算定方法は変わらなかったのであり、しかも、従前、渡邉が、原 告らが作成したテキストについて、原告らに著作権を認めた上で著作権料を支払うことを 了承していたとは認められないことは、右(一)で認定したとおりである。そうすると、渡 邉が、右ミーティングにおいて、「テキスト使用料」を従前のとおり継続して支払うことを 了承したからといって、原告らに著作権を認めた上で著作権料を支払うことを黙示的に確 認したとまで認めることはできない。そして、他に、右ミーティングの際に、著作権の帰 属について黙示的に確認されたというべき事情を認めるに足りる証拠はない。 (三) 証拠(甲二五の二、三、甲四三の二、乙一九の一、二、乙二〇の一、二、証人浅海 芳夫)によると、花田は、平成八年三月に被告を退職したが、その後も、平成九年六月ま で、被告から花田に対して毎月給与が支払われたことが認められる。証拠(甲二五の二、 甲二九、原告本人)によると、花田退職後も被告において花田作成に係るテキストを使用 していたことが認められるが、証拠(証人浅海芳夫)によると、花田は、被告の設立にか かわった功労者であったので、右給与の支払には、その功労に報いる趣旨が含まれていた ものと認められる(右1(三)認定のとおり、金子が退職した後、金子の執筆したテキスト は、その執筆者名を削除された上、被告の講座で使用されたが、それに対する使用料が金 子に支払われたことを認めるに足りる証拠はなく、この金子の例との対比からしても、花 田に対する右給与の支払に功労に報いる趣旨が含まれていたことは明らかである。)から、 花田に対する右給与の支払は、必ずしもテキストを使用していたことのみに基づいてされ たものではなく、直ちに著作権料の支払であると考えることはできない。したがって、右 支払の事実は、右(一)、(二)の認定を左右するものではない。  また、証拠(甲二一ないし二三、証人藤沼賢、同高澤豊)によると、被告の生物の講師 であった後藤謙元(以下「後藤」という。)は、自分が作成した被告の授業で用いるテキス ト等の表紙に「著作権は私個人に帰属する。」などの記載をしていたことが認められるが、 証拠(証人藤沼賢、同高澤豊)と弁論の全趣旨によると、これは、後藤が個人の考えに基 づいてしていたことで、他の講師はしていなかったことが認められるから、右(一)、(二) の認定を左右するものではない。  さらに、甲一四の二及び甲四四(福本敦子の陳述書)には、被告の従業員であった福本 敦子(以下「福本」という。)は、平成八年三月に、原告との間で、福本の作成したテキス トの著作権は福本にあることを確認したこと及び平成八年一月に、原告が、数学科の講師 に対して、テキストの著作権は講師にある旨を説明したことの記載があり、それが真実で あるとしても、原告が他の従業員に自己の認識を述べたことが認められるにすぎず、右(一)、 (二)の認定を左右するものではない。  (四) 他に、本件各テキストの著作権を執筆者に帰属させる旨の就業規則、契約等が存在 したことを認めるに足りる証拠はない。 5 以上によると、本件各テキストの著作者は、被告であり、その著作権はいずれも被告 に帰属するものと認められる。 二 争点6について  被告は、原告がその経営する学習塾で本件テキスト七を印刷、製本していると主張する が、右主張を認めるに足りる証拠はない。 三 右一で認定した事実と弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件各テキストの著作権 がいずれも被告に帰属していることを知っていたとまでは認められないが、本件判決の言 渡し後間もなく確実に行われる送達によって、未確定とはいえ、裁判所の判決による、本 件各テキストの原告による複製が被告の著作権の侵害であるとの判断を知り、これによっ て、本件各テキストの複製物が被告の著作権を侵害するものであるとの情を知ることにな る。  そうすると、本件反訴請求のうち、本件テキスト一ないし六、八、九の販売及び頒布の 差止め請求については、本件判決送達時以後の将来請求の限度で理由がある。 四 争点7について 1 平成九年三月に行われた春期講習の授業についての原告の報酬が一六万円であること は当事者間に争いがないところ、証拠(甲二九、乙一六の二)及び弁論の全趣旨によると、 被告は、原告に対し、右報酬を全額支払ったことが認められる。 2 弁論の全趣旨によると、被告は、原告に対し、同年三月の補講の授業についての報酬 として四万円を支払ったことが認められる。  原告は、右報酬が八万円であると主張するが、右報酬が四万円より高額であることを認 めるに足りる証拠はない。 3 前記認定のとおり、被告においては、講師にテキスト使用料が支払われていたが、証 拠(甲七ないし九、一二、二九、三二、乙一五の一ないし二八、乙二二)及び弁論の全趣 旨によると、右使用料の支払基準は頻繁に改定され、また、使用するテキストの種類、数、 当該テキストを使用するクラスの数、授業形態などにより使用料の額が異なっていたこと が認められる。しかるに、原告は、同年三月及び同年の春期講習におけるテキスト使用料 の支払基準並びに使用したテキストの数、種類、授業形態等テキスト使用料の金額の根拠 となる事実を何ら主張立証しない。  したがって、本訴請求のうちテキスト使用料の請求はいずれもこれを認めることができ ない。 五 したがって、本訴請求はいずれも理由がないが、反訴請求は主文掲記の限度で理由が ある。 東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官 森  義之    裁判官 榎戸 道也    裁判官 岡口 基一 ■別紙教材目録 一 高校数学系統講義テキスト 数と式U 二 高校数学系統講義テキスト 一次変換U 三 大学入試基本演習Xー解答作成演習 四 高校数学重点講義テキスト 連立1次方程式と行列 五 高校数学重点講義T(第一分冊) 六 高校数学重点講義W(第一分冊) 七 中学数学系統講義 幾何 八 大学入試基本演習T HOMEWORK・第1講 数と式 九 大学入試基本演習T HOMEWORK・第2講 2次方程式・2次不等式・2次 関数