・東京地判平成12年5月30日  「ユーザー車検」商品等表示事件:第一審。  原告(ユーザー車検代行会全国総本部代表ことH.A.)は、「ユーザー車検代行会」 の名称で車検手続代行業務を行い、第三者に対して、そのノウハウを指導するなどした上、 地区代理店として「ユーザー車検代行会○○支部」の名称で営業を行うことを許諾すると ともに、特定の地区内において、地区代理店を設定する権限を与えるなどして、車検手続 代行業務をフランチャイズ展開しており、フランチャイザーとして「ユーザー車検代行会 全国総本部」を名乗っている。被告(矢野新商事株式会社)は、「ユーザー車検受付中」 及び「ユーザー車検¥15,000受付中」との看板を掲げて、営業を行っている。本件 は、原告が、被告が「ユーザー車検」を使用する行為は不正競争防止法2条1項1号に該 当すると主張して、不正競争防止法四条により、被告に対して、損害賠償を求めた事案で ある。  判決は、「「ユーザー車検」は、「ユーザー自らが車検場と呼ばれる運輸省の陸運支局 や自動車検査登録事務所へ出向いて継続検査を受けること」を意味する普通名詞であると 認められる」などと述べて、原告の請求を棄却した。 (控訴審:東京高判平成12年11月28日) ■争 点 1 被告が「ユーザー車検」を使用する行為は不正競争防止法二条一項一号に該当し、原 告に対して損害賠償責任を負うかどうか 2 原告の損害 ■判決文 第三 争点に対する判断 一 争点1について 1 証拠(甲五、乙二、三、乙四の一ないし六、乙五ないし八、一〇、一七ないし一九) と弁論の全趣旨によると、現代の用語について解説した事典には、「ユーザー車検」につ いて、「認定工場に車検の手続を委託することなく、ユーザー自らが車検場と呼ばれる運 輸省の陸運支局や自動車検査登録事務所へ出向いて継続検査を受けること」を意味する旨 の説明がされていること、「ユーザー車検」を題名に含む単行本が発行されているが、そ れでは、「ユーザー車検」を右事典と同趣旨に用いていること、新聞記事においても「ユ ーザー車検」を右事典と同趣旨に用いたものが存すること、電話帳の広告には、「ユーザ ー車検」を右事典と同趣旨に用いて、その代行をする旨のものが数多く存すること、運輸 省が発行している車検について説明したパンフレットには、「ユーザー車検」について、 右事典と同趣旨の説明がされている上、運輸省の陸運支局や自動車検査登録事務所には、 その受付事務を扱う「ユーザー車検」と記載された窓口が設けられていること、「ユーザ ー車検」を横書きにした商標の登録出願に対して、原告は、「ユーザー車検」は慣用句と なっているから出願は拒絶されるべきである旨述べて、右新聞記事を特許庁に提出したこ と、右商標登録出願は拒絶されたこと、以上の事実が認められ、これらの事実によると、 「ユーザー車検」は、「ユーザー自らが車検場と呼ばれる運輸省の陸運支局や自動車検査 登録事務所へ出向いて継続検査を受けること」を意味する普通名詞であると認められる。  「ユーザー車検」がもともと原告が創案した造語であるとしても、この事実は、右認定 を左右するものではない。  そうすると、「ユーザー車検」が原告の表示として識別力を有するとは認められないか ら、「ユーザー車検」が原告の商品等表示として需要者の間で広く認識されているとは認 められない。 2 次に、原告が原告の商品等表示として周知であると主張する「ユーザー車検代行会」 と被告が使用している「ユーザー車検」が類似しているかどうかについて判断するに、右 1で認定したとおり、「ユーザー車検」が普通名詞であって識別力を有するとは認められ ない以上、「ユーザー車検代行会」と「ユーザー車検」は、普通名詞であって識別力を有 しない部分を共通にするにすぎないから、これらが類似するとは認められない。 3 右1及び前記第二(事案の概要)一(前提となる事実)2の事実並びに証拠(甲二、 六)によると、被告は、ユーザー車検の代行を自己の業務として行っていること、右取扱 い業務の内容を示すものとして普通名詞である「ユーザー車検」を含む「ユーザー車検受 付中」及び「ユーザー車検¥15,000受付中」の看板を掲げていること、以上の事実 が認められる。そうすると、被告は、普通名称である「ユーザー車検」を普通に用いられ る方法で使用しているものと認められるから、被告の行為は、不正競争防止法一一条一項 一号に該当する。 二 以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由 がない。 裁判長裁判官 森  義之    裁判官 内藤 裕之    裁判官 杜下 弘記