・東京地判平成12年8月29日  ケロケロケロッピ事件:第一審。  原告(Y.D.)は、昭和四七年ころから、カエルをモチーフにしたイラストレーショ ンを描き始めていたところ、被告(株式会社サンリオ)は、昭和六三年から、被告図柄を 制作し、これを「ケロケロケロッピ」の名称で、グリーティングカードをはじめとするギ フト商品に使用し、また、メーカー等に対して被告図柄を衣類、履物、菓子、寝具、台所 用品、文房具等に使用することを許諾するなどしている。本件は、原告が、被告図柄は本 件著作物を複製または翻案したものであって、被告は、被告図柄の使用によって、原告が 本件著作物および本件著作物の二次的著作物について有する複製権、翻案権、上演権、放 送権、展示権、上映権、頒布権、貸与権を侵害しているほか、原告が本件著作物について 有する同一性保持権、公表権、氏名表示権を侵害していると主張して、損害賠償を請求し、 併せて原告が被告図柄の著作権を有することの確認等を求めた事案である。判決は、「本 件著作物と被告図柄の間の共通点は少なく、全体として受ける印象もかなり異なっている ということができるから、本件著作物と被告図柄の同一性を認めることはできないし、被 告図柄から本件著作物の表現形式上の特徴を直接感得することもできない」と述べて請求 棄却した。 (控訴審:東京高判平成13年1月23日) ■争 点 1 被告図柄による原告の著作権侵害の有無 2 損害の発生及び額 ■判決文 第四 当裁判所の判断 一 被告図柄が本件著作物を複製又は翻案したものといえるかどうかについて以下判断す る。 1 被告図柄と本件著作物を対比すると、次の事実が認められる。 (一) 顔の輪郭  本件著作物と被告図柄は、いずれも横長の楕円とそれに交差する目を表す二つの真円で 顔の輪郭を形作っている。  しかし、本件著作物では目を表す二つの真円が離れており、その間にも顔の輪郭線が描 かれているのに対し、被告図柄では二つの円が隙間なく接している。 (二) 鼻  本件著作物は、顔の中央部に二つの点からなる鼻が描かれているのに対し、被告図柄に は、鼻が描かれていない。 (三) 目  本件著作物の目は、三重の真円で描かれ、最も内側の円と内側から二番目の円の間(黒 目に相当する部分)が青又は青紫色に彩色され、最も内側の円の内部(瞳孔に相当する部 分)が白く描かれているもの(本件著作物(1)、(2)、(3)@ないしC、(4)@A)と、逆U 字型のもの(本件著作物(3)DE)がある。これに対し、被告図柄の目は、二重の真円で 描かれ、黒目に相当する中央の円が黒く塗りつぶされているもの(被告図柄@の左目、A BDFG)、逆くの字型のもの(被告図柄@の右目)、逆U字型のもの(被告図柄C)、 目が三重の真円で描かれ、最も内側の円と内側から二番目の円の間が黒色に彩色され、最 も内側の円の内部が白く描かれているもの(被告図柄E)、渦巻き状のもの(被告図柄H)、 二重の楕円で描かれ、黒目に相当する中央の円が黒く塗りつぶされているもの(被告図柄 I)がある。  右の被告図柄@ないしB、D、FないしIの目が本件著作物の目と異なることは明らか である。  右の被告図柄Eの目は、目が三重の真円で描かれ、最も内側の円と内側から二番目の円 の間が彩色され、最も内側の円の内部が白く描かれている点において、本件著作物の目と 共通するが、本件著作物の目が青又は青紫色に彩色されているのに対し、被告図柄Eの目 は、黒色に採色されているうえ、最も外側の円の中における内側の二つの円の大きさや配 置が、本件著作物の目とは異なっている。また、被告図柄Eの目には、最も外側の円に左 右二本ずつの睫毛が描かれているが、本件著作物には睫毛がなく、この点でも異なる。  右の被告図柄Cの目は、逆U字型である点において、本件著作物の目と共通するが、目 の細かい形や配置は、本件著作物の目とは異なる。 (四) 頬  被告図柄は、左右の頬の部分にピンク色又は赤色に彩色された真円が描かれているもの (被告図柄@、CないしF、HI)があるが、本件著作物には、これに相当するものはな い。 (五) 口 (1) 本件著作物の口は、閉じている場合にはU字型(本件著作物(2)、(4)@A)又は逆U 字型(本件著作物(1))に輪郭線で描かれており、U字型の場合は、口の両端が線で止めら れている。これに対し、被告図柄の口は、輪郭線で描かれており、V字型に描かれている もの(被告図柄@BDEH)、U字型に描かれているもの(被告図柄ACI)、波線で描 かれているもの(被告図柄F)、横に直線で描かれているもの(被告図柄G)がある。  右の被告図柄@BDないしHの口が、本件著作物の閉じている口と異なることは明らか である。  右の被告図柄ACIの口は、U字型に輪郭線で描かれているが、口の両端を止める線は なく、U字の形も本件著作物とは異なる。 (2) 本件著作物の口の中には、大きく開かれているものがあり(本件著作物(3)AないしE) 、開いた口の中央には、すべて濃いピンク色に彩色された小さなハート型が描かれている。 また、正面を向いている図柄の場合、口は横方向に顔いっぱいに大きく開かれ、その形は ひょうたん型で、内部が薄いピンク色に彩色されている(本件著作物(3)BDE)。これ に対して、被告図柄の口は閉じられている。  なお、甲第二二号証の一ないし三によると、ケロケロケロッピと称されるキャラクター の一部には、口を開けたものも存するが、その場合の口は縦長又は横長の小さな楕円であ り、最も大きい場合でも片目の円より小さく描かれ、口の内部には何も描かれていないこ とが認められる。 (六) 手  本件著作物の手は、腕に相当する細い部分があり、その先端に二又の手袋状の手が描か れているのに対し、被告図柄の手は、腕に相当する部分がなく、胴体から直接、三又の手 が出ているように描かれている。 (七) 足  本件著作物の足は、脚に相当する細長い部分があり、その先端にピンク色の靴を履いて いるのに対し、被告図柄の足は、脚に相当する部分がなく、胴体から直接、三又の足が出 ているように描かれている。また、被告図柄の足は短く、靴も履いていない。 (八) 頭と身体のバランス  本件著作物は、頭(顔)部分よりも身体部分の方が長く、甲第一八号証の一、二による と、その割合は必ずしも一定しておらず、平均すると約二頭身になるものと認められる。 これに対し、被告図柄は、頭(顔)部分が身体部分より長く、同号証によると、被告図柄 Iを除いて、その割合はほぼ一定しており、約一・五頭身であると認められる。 (九) 色  本件著作物は、顔、腕、手及び脚が青緑色(本件著作物(1)(2))又は緑色(本件著作物 (3)@ないしE、(4)@A)に彩色されているのに対し、被告図柄は、顔、手及び足が薄い 黄緑色(被告図柄@ないしD、F)、薄い緑色(被告図柄EI)又は黄緑色(被告図柄GH) に彩色されている。 2 右1認定の事実によると、本件著作物と被告図柄の間には、顔の輪郭が横長の楕円と それに交差する目を表す二つの真円で形作られているという共通点があるが、顔の輪郭に ついて右1(一)認定の、顔を構成する主要な要素である鼻、目、頬及び口について右1(二) ないし(五)認定の、手、足及び頭と身体のバランスについて右1(六)ないし(八)認定の、 色について右1(九)認定の各相違点が存することが認められる。  なお、右1認定の事実によると、本件著作物の各著作物と被告図柄の各図柄を個々に比 べた場合には、目及び口について部分的に共通する点があるが、その場合でも、共通する 部分の細部は異なっているし、共通する部分以外の部分には大きな相違が存することが認 められる。  したがって、本件著作物と被告図柄の間の共通点は少なく、全体として受ける印象もか なり異なっているということができるから、本件著作物と被告図柄の同一性を認めること はできないし、被告図柄から本件著作物の表現形式上の特徴を直接感得することもできな い。 3 よって、その余の点について判断するまでもなく、被告図柄が本件著作物を複製又は 翻案したものということはできない。 二 右一で述べたところによると、原告の請求一、四は、理由がない。  請求二、三については、請求の根拠を欠くから、理由がない。 三 以上の次第で、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官 森 義之    裁判官 岡口基一    裁判官 男澤聡子