・東京地判平成12年11月28日  「TANTANたぬき」カラオケ事件。  原告(日本音楽著作権協会)は、飲食店「TANTANたぬき」を開店し、従業員らが 来店した客に飲食を提供するとともに本件カラオケ関連機器を操作して、管理著作物を再 生し、また、伴奏音楽に合わせて客に歌唱させている被告に対して、差止め、損害賠償等 を請求した事案である。判決は、著作権侵害を認めて差止等請求を認容したうえで、損害 額について、「被告は、原告と包括的使用許諾契約を締結していなかったのであるから、 被告が原告に対して支払うべき使用料相当損害金の額は、右の一曲一回の使用料一一〇円 に基づいて算定すべきである」と述べて損害賠償請求を認容した。これについて、「包括 的使用許諾契約を締結した場合には、一曲一回の使用料による場合に比べて使用料が低額 になることは、使用料徴収の便宜等を考えると合理性があるというべきであり、金額の違 いも不合理であるとまではいえない」とされた。 ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。 二 証拠(乙一ないし三)によると、被告は、現在では、本件店舗における営業をしてい ないものと認められるが、証拠(乙一ないし三)と弁論の全趣旨によると、被告が本件店 舗における営業をしなくなったのは、被告が、本件店舗におけるカラオケ演奏の禁止、本 件カラオケ関連機器に対する執行官保管の仮処分命令を受け、その執行がされた後である と認められるから、被告には、原告の著作権を侵害する行為を行うおそれがあるというべ きである。  そうすると、原告は、被告に対して、請求原因4記載の各請求権を有するというべきで ある。 三 請求原因1ないし3の各事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告は、故意又は過失に よって原告の著作権を侵害したものと認められるから、被告は、原告に対して損害賠償責 任を負うというべきである。 四 そこで、次に、原告が被った損害額について判断する。 1 証拠(甲三)と弁論の全趣旨によると、原告の管理著作物を利用する者が原告に対し て支払うべき使用料は、原告が主務官庁である文化庁の認可を受けて定めた「著作物使用 料規程」によるものとされている(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律第三条)こと、 右規程によると、本件店舗のような社交場において管理著作物を演奏する場合の使用料は、 包括的使用契約を結ばない場合には一曲一回の使用料によるものとされ(第二章第二節5 「社交場における演奏等」)、使用料の額は、社交場の営業形態等により区分して定めら れていること、右規程に基づいて、本件店舗の営業形態等に照らして、本件店舗に係る管 理著作物の使用料の額を算定すると、一曲一回の使用料が一一〇円となること、以上の事 実が認められる。  被告は、原告と包括的使用許諾契約を締結していなかったのであるから、被告が原告に 対して支払うべき使用料相当損害金の額は、右の一曲一回の使用料一一〇円に基づいて算 定すべきである。  被告は、一曲一回の使用料の適用があるのは、あらかじめ利用者が包括的使用許諾契約 を締結するか一曲一回の使用料を支払うか、いずれかを選択できる場合に後者を選択した 場合であると主張するが、そのように解すべき根拠はない。また、被告は、一曲一回の使 用料によって算定すると、包括的使用許諾契約を締結した場合と比較してあまりにも高額 であり不当であるとも主張するが、包括的使用許諾契約を締結した場合には、一曲一回の 使用料による場合に比べて使用料が低額になることは、使用料徴収の便宜等を考えると合 理性があるというべきであり、金額の違いも不合理であるとまではいえない。したがって、 被告の主張は採用することができない。 2 右1で述べたところに弁論の全趣旨を総合すると、本件店舗に係る使用料相当損害金 は、別紙使用料相当損害金一覧表記載のとおりとなると認められる。 五 よって、原告の本訴各請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官 森 義之    裁判官 内藤裕之    裁判官 岡口基一