・大阪地判平成13年3月27日  「あばかすくらぶ」ソフトウェア事件。  本件は、珠算学習用ソフトのプログラムを作成し、同ソフトの著作権を有しているとす る原告(株式会社エスジーエムソフト)が、同ソフトの複製物、ウィンドウズ(Windows) 用ソフトウエア「あばかすくらぶ」を公衆送信、頒布等している被告(株式会社システム トラスト)に対し、その差止め等を求めた事案である。なお、原告は、平成11年6月か ら8月にかけて、ABACUSシステムの企画案、開発案、基本設計書、データテーブル の基本案、基本流れ図、背景・イニシャル画面のストーリーやキャラクターの性格につい ての提案書を作成し、アドバンスシステムズや被告に提案し、同企画、設計を基礎にして、 プログラム作成を進めたうえ、本件ソフトを制作し、アドバンスシステムズを通じて被告 に納品したが、その後、本件ソフトの一部に不具合が発生した。被告が、このころまでに、 本件ソフトの委託料として支払った金額は150万円である。  判決は、「原告は、本件契約に基づきABACUSシステムの基本的な企画設計を行い、 平成12年1月21日の暫定版として本件ソフトを制作販売するとの旨の合意に従って、 本件ソフトを制作したものであるから、被告は本件ソフトの発注者にすぎず、本件ソフト の著作権は、原告に帰属するというべきである」としたうえで、「本件ソフト及び被告ソ フトを、コンピューターにインストールすると、メインフォルダ、サブフォルダ「PIC」、 サブフォルダ「SOUND」が作成される」ところ、「そうすると、本件ソフトと被告ソ フトは、メインフォルダ内の大部分のファイル、サブフォルダ内のすべてのファイルが、 サイズ及び更新日付が同一であって、それらのプログラムは同一の内容であるものと推認 され、また、メインフォルダ内にサイズないし更新日付が異なるファイルが存在すること も、上記の事情からすればソフトの同一性を覆すものではないから、結局、本件ソフトと 被告ソフトは同一のものであると認めるのが相当である」として、原告の請求を認容した。 ■判決文 第3 争点に対する判断 1 争点(1)について (1) 前記争いのない事実に加え、証拠(甲1〜10、15〜18、25〜33)によ れば、次の事実が認められる。 ア 原告は、平成11年6月から8月にかけて、ABACUSシステムの企画案、 開発案、基本設計書、データテーブルの基本案、基本流れ図、背景・イニシャル画面のス トーリーやキャラクターの性格についての提案書を作成し、とりわけ同基本設計書は検討 を加えながら3度にわたり作成して、アドバンスシステムズや被告に提案し、同企画、設 計を基礎にして、プログラム作成を進めていった。 イ その後、原告は、本件ソフトを暫定版として制作し先行して発売する旨の前記 第2、1、(3)の合意に沿って、同年3月中旬までに、本件ソフトを制作し、アドバンス システムズを通じて被告に納品したが、その後、本件ソフトの一部に不具合が発生した。  被告が、このころまでに、本件ソフトの委託料として支払った金額は150万 円である。  一方、原告が本件ソフトを制作するために要した費用は、原告代表者が携わっ たことによる費用を除いても、原告社員の人件費が2106万円(延べ47か月・人)、 本件ソフトのための音楽制作費が150万円、合計2256万円であった。 ウ 被告は、本件ソフトの完成版が納入されないことから、平成12年5月17日、 アドバンスシステムズに対し、求める諸機能を列挙した上、同年6月10日までに本件ソ フトを再納入するように督促した。なお、被告は、同督促に際し、納品検収後1か月以内 に150万円を支払うとの申入れもした。  アドバンスシステムズは、同督促の内容のうち、納期、金額、納品物件等につ いて同意できない部分があるとして、被告に対し、原告を含めた3社で協議したい旨の申 入れをしたが、被告はその協議に応ずることはなかった。 エ 結局、同協議を求めるアドバンスシステムズと、協議をするまでもなく本件ソ フトの完成版の納入を求める被告とは、相互に合意に至ることが困難な状況となった。  被告は、平成12年7月3日付け書面で、アドバンスシステムズに対し、本件 ソフトの完成版の納入を計ることは困難と考えざるを得ないこと、アドバンスシステムズ が本件契約を無条件に放棄したものとみなし、本件ソフトの著作権、販売権、その他本件 ソフトに関わる権利全般は、平成12年7月3日をもって、被告が有することとすること を告知した。  一方、アドバンスシステムズは、平成12年7月6日付け書面で、被告に対し、 本件契約を解除すること、本件ソフトの著作権等の権利は、原告に帰属することとなるこ と等を告知した。  なお、被告は、ABACUSシステムの基本的発想をすべて提案したと主張する が、上記認定を覆すに足りる証拠はない。 (2) 上記の事実関係によれば、原告は、本件契約に基づきABACUSシステムの基 本的な企画設計を行い、平成12年1月21日の暫定版として本件ソフトを制作販売する との旨の合意に従って、本件ソフトを制作したものであるから、被告は本件ソフトの発注 者にすぎず、本件ソフトの著作権は、原告に帰属するというべきである。  なお、その後、原告は、本件ソフトを被告に引き渡してはいるが、本件ソフトの 対価(委託料)は150万円が支払われたのみで、仮に被告が平成12年5月17日にア ドバンスシステムズに対し申し入れた内容に従っても150万円の残代金が未払いとなっ ているから、本件契約中の「本件システム中の成果物の所有権は、被告よりアドバンスシ ステムズへ委託料が完済された時に、アドバンスシステムズから被告へ移転する。」との 条項によれば、未だ本件ソフトの権利は被告へ移転していないというべきである。  また、被告が、平成12年7月3日付け書面で、アドバンスシステムズに対し「本 件ソフトの著作権、販売権、その他本件ソフトに関わる権利全般は、平成12年7月3日 をもって、被告が有することとする」と一方的に告知しているものの、同告知によって、 本件ソフトの著作権が原告から被告へ移転する法的効果を有するものとすることはできな い。  そして、仮に、アドバンスシステムズないし原告側に、本件ソフトの制作が遅延 したとか、本件ソフトに不具合があったなどの事情があったとしても、そのことによって、 被告が本件ソフトの著作権を有するに至るということはできないし、その他、原告が本件 ソフトの著作権を有するとの前記認定を覆すに足りる証拠はない。 2 争点(2)について (1) 証拠(甲13、14、19〜24、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認めら れる。 ア 本件ソフト及び被告ソフトを、コンピューターにインストールすると、メイン フォルダ、サブフォルダ「PIC」、サブフォルダ「SOUND」が作成される。 (ア) メインフォルダ内のファイル「Abacus.exe」、「Export.exe」、「Furasyu. exe」、「Gasan.exe」、「Hanabi.exe」、「Inport.exe」、「Kakeba.exe」、「Kikidori. exe」、「Memory.exe」、「Mitori.exe」、「Soroban.exe」、「Yomi.exe」の各ファイル のサイズ及び更新日付は同一である。  「TTS.exe」は、他社製の音声読み上げ用ソフトである。 (イ) サブフォルダ「PIC」、同「SOUND」内のすべてのファイルは、そ のサイズ及び更新日付が同一である。 イ メインフォルダ内のファイル「Unsan.exe」は、ファイルサイズは同一で更新日 付が異なり、「Abacus.mdb]、「Mondai.mdb」、「St5unst.log」は、ファイルサイズ及び 更新日付が異なる。  しかし、「Unsan.exe」は、同一プログラムを再度コンパイル(ソースプログラ ムからオブジェクトプログラムを作成すること)したために、サイズは同一であるが更新 日付が異なったものと解することが可能である。  また、「Abacus.mdb]及び「Mondai.mdb」は、その拡張子「.mdb」からすると、 Microsoft Accessのデータベースファイルであり、当該ソフトを利用するごとに書き換え られるファイルである。  同様に「St5unst.log」は、その拡張子「.log」からすると、当該ソフトを利用 するごとに書き換えられるファイルである。 (2) そうすると、本件ソフトと被告ソフトは、メインフォルダ内の大部分のファイル、 サブフォルダ内のすべてのファイルが、サイズ及び更新日付が同一であって、それらのプ ログラムは同一の内容であるものと推認され、また、メインフォルダ内にサイズないし更 新日付が異なるファイルが存在することも、上記の事情からすればソフトの同一性を覆す ものではないから、結局、本件ソフトと被告ソフトは同一のものであると認めるのが相当 である。他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。 3 以上によれば、原告は、本件ソフト及びこれと同一性を有する被告ソフトの著作権 を有し、同権利に基づいて、被告ソフトの複製、翻案、公衆送信及び頒布の差止めを求め ることができるというべきであるから、原告の請求は理由がある。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 小松 一雄    裁判官 阿多 麻子    裁判官 前田 郁勝