・東京高判平成13年9月5日判時1786号80頁  ニフティ事件:控訴審。  被告ニフティサーブの「現代思想フォーラム(FSHISO)」に書き込まれた発言につい て、名誉毀損の責任が争われた事案で、原審判決は、プロバイダーであるY1、フォー ラムのシスオペY2、発言者Y3の責任をすべて認めていたが、本件判決は、Y3に対 する50万円の損害賠償責任については原審判決を維持したものの、Y1およびY2の 責任については原審を取り消してこれを否定した。 (第一審:東京地方裁判所平成9年5月26日) ■判決文  (2) シスオペの削除義務  上記によれば、次のとおりいうことができる。  ア シスオペは、会員規約に基づき、フォーラムの適切な運営及び管理を維持するた め、誹謗中傷等の問題発言を削除する権限を与えられ、当該発言の削除により、完全で はないものの、他の会員の目に触れなくして、被害の拡大を防ぐことができる。標的と された会員は、自らは問題発言を削除することができず、当該発言がフォーラムに記録 され続けることによる被害の継続を防ぐには、シスオペに指摘した上でシスオペの行動 に待つ他ない。  イ シスオペは、上記のとおり、それを業とする者でなく、他に職業を有する者から 成る仕組みであった当時の実情から、問題発言を逐一点検し、削除の要否の検討を適時 に実施することはできなかった。本件フォーラムは、フェミニズムという思想について 議論することを標榜する以上、事後ではあっても、会員の発言内容を審査することをシ スオペに求めるに帰することも、民主主義社会の議論の在り方とは背理する。  ウ 民主主義社会における議論においては、異論、異見は、容認される。尤も、議論 の在り方についての理解を共有するに至らない者同士においては、激するあまり、相手 を誹謗中傷するに等しい言辞により議論したり、スクランブル事件におけるように、異 論や異見を有したり、相容れない主張をしたりする者をその故に排除するという未成熟 な行動が生じ勝ちである。そのような場合においても、誹謗中傷等の問題発言は、標的 とされた者から当該発言をした者に対する民事上の不法行為責任の追及又は刑事責任の 追及により、本来解決されるべきものである。  エ 誹謗中傷等の問題発言は、議論の深化、進展に寄与することがないばかりか、こ れを阻害し、標的とされた者やこれを読む者を一様に不快にするのみで、これが削除さ れることによる発言者の被害等はほとんど生じない。  オ 以上の諸事情を総合考慮すると、本件のような電話回線及び主宰会社のホストコ ンピュータを通じてする通信の手段による意見や情報の交換の仕組みにおいては、会員 による誹謗中傷等の問題発言については、フォーラムの円滑な運営及び管理というシス オペの契約上託された権限を行使する上で必要であり、標的とされた者がフォーラムに おいて自己を守るための有効な救済手段を有しておらず、会員等からの指摘等に基づき 対策を講じても、なお奏功しない等一定の場合、シスオペは、フォーラムの運営及び管 理上、運営契約に基づいて当該発言を削除する権限を有するにとどまらず、これを削除 すべき条理上の義務を負うと解するのが相当である。 《中 略》 4 争点(3)(控訴人ニフティの責任)について (1) 控訴人ニフティは、前記のとおり、控訴人Bについての削除義務違反が認められな い以上、これを前提とする使用者責任を負わないことは明らかである。  (2) 被控訴人は、会員規約上、控訴人ニフティ及びシスオペに対して削除権限を定め ていることをもって、個々の会員に対して誹謗中傷等の発言を削除する義務を負うなど と主張しているが、前提事実で認定したとおり、控訴人ニフティと会員との間において は、会員規約に基づき、控訴人ニフティが会員に対し、ニフティサーブというパソコン 通信ネットワークを利用することができる権利を与え、その対価として、当該会員が、 控訴人ニフティに対し、一定の利用料を支払うことを主旨とする契約であり、また前記 会員規約第18条の削除規定に照らしても、控訴人ニフティが被控訴人主張の安全配慮 義務又はその他の契約上の義務を負うとは認められず、債務不履行に基づく損害賠償請 求は、理由がない。