・東京地判平成14年1月31日  クリスマスぬいぐるみ事件。  本件は、原告(イノップ)が、妖精トントゥを題材としたオリジナル人形について 日本国内において第三者に対し著作権利用許諾を与える権限を独占的に授与されてい るとして、被告ら(アナザーワン、イオン)に対し、被告らがそれぞれ所持又は管理 するぬいぐるみ(被告イオンに属する店舗の一部で実施された販売促進活動であるク リスマスキャンペーンの一環として製作されたもの。オリジナル人形から作成)は、 原告との利用許諾契約に違反するものであると主張して、著作権者の著作権に基づき ぬいぐるみの頒布の差止めを求めている事案である。  判決は、「オリジナル人形は、A自身がトントゥの寓話から受けるイメージを造形 物として表現したものであって、その姿態、表情、着衣の絵柄・彩色等にAの感情の 創作的表現が認められ、かつ美術工芸品的な美術性も備えているもので、Aが著作権 を有する著作物である」、「本件ぬいぐるみは、オリジナル人形の容貌、姿態等の特 徴を模して、被告アナザーワンが中国の工場で製作させたもので、オリジナル人形の 複製物である」とし、「著作物の独占的使用許諾を得ている使用権者であれば、特 許権における独占的通常実施権者と同様に、当該著作物の模倣品の販売等の侵害行為に より直接自己の営業上の利益を害されることから、独占的使用権に基づく自らの利益を 守るために、著作権者に代位して侵害者に対して著作権に基づく差止請求権を行使する ことを認める余地がないとはいえない」としながらも、「オリジナル人形の著作権につ き、原告が上記契約によりAから授与された権限は、日本におけるライセンシーを開拓 し、ライセンシーに対してAに代わって著作権の利用を許諾し、ライセンシーからロイ ヤリティを受領してAに送金するということに尽きるものであって、原告自身がオリジ ナル人形の複製物の製造ないし販売をすることにつき許諾を受けることは全く内容とさ れていない」として、原告の請求を棄却した。 ■争 点 (1) 原告が、Aの著作権に基づいて差止請求権を行使できるか(争点1) (2) 原告が、被告イオンに対して差止請求権を行使できるか(争点2) ■判決文 (3)著作権に基づく侵害差止請求権の代位行使の可否  ところで、著作権者から著作物の独占的使用許諾を得ている使用権者については、著 作権者に代位して当該著作物の著作権に基づく侵害差止請求権を行使することができる という見解が存在する。これは、特許権における独占的通常実施権者が特許権者に代位 して特許権に基づく侵害差止請求権を行使することができるとの見解にならって提唱さ れているものと解されるが、著作物の独占的使用許諾を得ている使用権者であれば、特 許権における独占的通常実施権者と同様に、当該著作物の模倣品の販売等の侵害行為に より直接自己の営業上の利益を害されることから、独占的使用権に基づく自らの利益を 守るために、著作権者に代位して侵害者に対して著作権に基づく差止請求権を行使する ことを認める余地がないとはいえない。  しかしながら、本件においては、原告は、上記認定のとおり、オリジナル人形につき、 著作権者から著作権の独占的な利用許諾を得ている者ではなく、単にライセンシーに対 する許諾付与業務及びライセンシーからのロイヤリティの徴収業務を委任されていると いうだけであり、オリジナル人形の著作権を侵害する模倣品等が販売されたとしても、 それにより直接自己の営業上の利益を害される関係にあるものではない。したがって、 原告が、Aに代位してオリジナル人形の著作権に基づく差止請求権を行使することは、 認められないというべきである。 (4)なお、仮に、原告とAの間の上記契約12条を、Aの著作権に基づく侵害差止請 求権を原告が行使することを認めた条項と解することができるとしても、そのように著 作権に基づく差止請求権について著作権者が契約により他者に行使させることを認める ことは、弁護士法72条において弁護士以外の者の法律事務の取扱いが禁じられ、信託 法においても訴訟信託が禁止されていること(信託法11条)、及び、著作権等管理事 業法上、著作権等の管理事業を営もうとする団体が登録制とされて種々の義務を負うな ど事業上一定の制約を受けるものとされていること等の法制度の趣旨に反するものとい わざるを得ない。したがって、上記契約の条項を根拠に、Aから契約上その権限が付与 されているとして、原告がAの著作権に基づく差止請求権を行使することも、認められ ない。  したがって、いずれにしても、原告がAの著作権に基づく差止請求権を行使すること は認められないというべきである。