・東京地判平成14年7月30日  「Super Antenna」事件  本件は、2段折り収納形状を有する携帯電話機用アンテナを製造販売する原告(株式 会社ソシエテアペックス)が、被告(東洋トレーディング株式会社、東洋コネクター株 式会社)らが製造販売する携帯電話機用のアンテナは、原告の製造販売に係るアンテナ の形態を模倣した商品であると主張して、被告らに対し、不正競争防止法2条1項3号 所定の不正競争行為を理由として損害賠償を求めているものである。  判決は、「不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為につき差止めないし損害 賠償を請求することができる者は、形態模倣の対象とされた商品を自ら開発・商品化し て市場に置いた者に限られるというべきである」としたうえで、「原告はシンタクが開 発製造した2段折れアンテナを購入した台湾のハオチャンからこれを輸入し、日本で販 売したにすぎないから、原告は自ら原告商品を開発し、商品化して市場に置いた者とい うことができない」として、請求を棄却した。 ■争 点 (1) 原告商品の形態は、原告が最初に商品として開発したものか(争点1) (2) 原告商品の形態は、「同種の商品が通常有する形態」(不正競争防止法2条1項3 号括弧書)に当たるか(争点2) (3) 被告商品は、原告商品の形態を模倣したものか(争点3) (4) 原告は、被告トレーディングが被告商品を台湾から輸入することを平成9年9月の 原告と被告コネクターとの取引開始時に承諾していたか(争点4) (5) 原告の損害額(争点5) ■判決文 (4) 不正競争防止法2条1項3号の趣旨等について  不正競争防止法2条1項3号の趣旨につき考察するに、他人が資金・労力を投下して 開発・商品化した商品の形態について、他に選択肢があるにもかかわらずことさらこれ を模倣して自らの商品として市場に置くことは、先行者の築いた開発成果にいわばただ 乗りする行為であって、競争上不公正な行為と評価されるべきものであり、また、この ような行為により模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく先行者と 市場において競合することを許容するときは、新商品の開発に対する社会的意欲を減殺 することとなる。このような観点から、模倣者の上記のような行為を不正競争として規 制することによって、先行者の開発利益を模倣者から保護することとしたのが、同規定 の趣旨と解するのが相当である。これによれば、不正競争防止法2条1項3号所定の不 正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は、形態模倣の対象 とされた商品を自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。 本件においては、前記認定のとおり、原告はシンタクが開発製造した2段折れアンテ ナを購入した台湾のハオチャンからこれを輸入し、日本で販売したにすぎないから、原 告は自ら原告商品を開発し、商品化して市場に置いた者ということができない。 なお、前記のとおり、本件においては、2段折れアンテナを携帯電話機用のアンテナ として用いるという発想自体については、Bが独自に着想して、その具体的形状につき ハオチャンに問い合わせないし相談をしたという可能性も存在するが、不正競争防止法 2条1項3号は単なるアイデアを保護の対象とするものではないから、仮にB自身がそ のような発想を得たものであるとしても、原告はこれを商品の形態として具体化するた めの労力、時間や資本を投下しておらず、原告商品の具体的形状がシンタクが先行して 製造販売していた製品に由来するものである以上、原告が同号に基づく請求の主体とな り得るということはできない。 したがって、原告は、原告商品に関して、不正競争防止法2条1項3号に基づいて損 害賠償を請求することができないというべきである。