・東京地決平成15年11月11日  マクロス不正競争事件  債務者(バンダイビジュアル株式会社)は、「マクロスゼロ」及び「マクロスゼロ2」 と題するアニメーションDVDを販売している。これにつき、債権者(株式会社竜の子プ ロダクション)は、債務者の行為は、債権者の周知ないし著名な商品等表示である「超時 空要塞マクロス」、「超時空要塞MACROSS」、「マクロス」及び「MACROSS」 と同一若しくは類似の表示を使用するもので、不正競争防止法2条1項1号又は2号所定 の不正競争行為に該当すると主張して、債務者に対し、上記表示の使用の差止め等を内容 とする仮処分を求めた事案である。  決定は、「テレビ放映用映画ないし劇場用映画については、映画の題名(タイトル)は、 不正競争防止法2条1項1号、2号所定の『商品等表示』に該当しないものと解するのが 相当である」と述べて、債権者の申立てを却下した。 ■争 点 (1) 「超時空要塞マクロス」等の表示が商品等表示に該当するかどうか。 (2) 本件各表示が債権者(他人)の商品等表示であるかどうか。 (3) 本件各表示が周知ないし著名と認められるかどうか。 (4) 債務者表示は本件各表示と類似し(不正競争防止法2条1項1号、2号)、混同のお それがあるか(同項1号)どうか。 (5) 差止めの必要性の有無 ■判決文 2 争点(1)(2)(「超時空要塞マクロス」等の表示が商品等表示に該当するかどうか、本 件各表示が債権者(他人)の商品等表示であるかどうか)について  (1) 債権者は、本件各表示が本件テレビアニメ及び本件劇場版アニメという「商品」を 表示するもの、あるいはアニメ映画の放映及び商品化事業を含む各種ライセンス事業等 (アニメ映画事業)の営業主体を表示するものとして、不正競争防止法2条1項1号、2 号にいう「商品等表示」に該当するものと主張する。  (2) テレビ放映用映画ないし劇場用映画については、映画の題名(タイトル)は、不正 競争防止法2条1項1号、2号所定の「商品等表示」に該当しないものと解するのが相当 である。けだし、映画の題名は、あくまでも著作物たる映画を特定するものであって、商 品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する表示として認識されるもの ではないから、特定の映画が人気を博し、その題名が視聴者等の間で広く知られるように なったとしても、当該題名により特定される著作物たる映画の存在が広く認識されるに至 ったと評価することはできても、それにより特定の商品や営業主体が周知ないし著名とな ったと評価することはできないからである。  本件において、債権者は、本件テレビアニメの題名「超時空要塞マクロス」及び本件劇 場版アニメの題名「超時空要塞/マクロス」が周知ないし著名となり、その結果、本件各 表示が債権者の商品等表示として周知ないし著名となったと主張するが、これらの題名は、 著作物であるアニメーション映画自体を特定するものであって、商品やその出所ないし放 映・配給事業を行う営業主体としての映画製作者等を識別する機能を有するものではない から、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」に該当しない。  (3) 債権者は、キャラクター商品をはじめとする商品化事業を含めたアニメーション映 画関連事業における商品ないしその営業主体を示すものとして、本件各表示が周知ないし 著名であるとも主張する。なるほど、商品化事業の展開により映画の題名と同一の名称を 付した多数の商品が市場において販売されているような場合には、それによって、当該名 称が特定の営業主体による商品化事業の対象とされている一連の商品ないしその出所とし ての営業主体を示す表示として需要者の間に周知ないし著名となり、その結果、当該名称 が不正競争防止法上の「商品等表示」に該当することもあり得るものと解される。  しかし、本件における前記事実関係に照らせば、本件テレビアニメ及び本件劇場版アニ メに関連する商品化事業等においては、債権者は、債務者補助参加人、スタジオぬえ等と 共同して事業を展開していたものであるから、仮に本件各表示が当該商品化事業に係る商 品ないしその出所としての営業主体を示す「商品等表示」に該当し得るとしても、債権者 のみならず、債務者補助参加人、スタジオぬえ等をも含めた共同事業体を主体とする「商 品等表示」というべきである。  したがって、仮に本件各表示が商品化事業等における商品等表示に該当するとしても、 債務者補助参加人から許諾を受けてアニメーションDVDソフトを販売している債務者と の関係において、債権者がこれを自己の「商品等表示」と主張することはできないという べきである。  (4) また、債務者が販売しているアニメーションDVDソフトに付された「マクロスゼ ロ」(債務者表示)ないし「マクロスゼロ2」というタイトルについても、上記(2)におい て述べたのと同様の理由により、記録媒体に収録された著作物である映画を特定して表示 するものにすぎず、商品等表示として使用されているものということはできない。 (5) 上記のとおり、本件においては、本件各表示が債権者の「商品等表示」に該当する ということができないものであり、また、債務者表示が「商品等表示」として使用してさ れているということもできない。  3 結論  以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、本件において、債権者の被保全 権利の存在が疎明されているということはできないから、債権者の申立ては、いずれも却 下すべきものである。  よって、主文のとおり、決定する。 平成15年11月11日 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村 量一    裁判官 大須賀寛之    裁判官 松岡 千帆