・大阪地判平成16年2月12日  「誕生花」事件  写真家である原告は、写真集「誕生花(わたしの花、あの人の花)」および「誕生花3 66日−わたしの花・あの人の花」を出版した。これは、1月1日から12月31日まで、 2月29日を含む366日に1日ごとに計366種の花を1つずつ「誕生花」と称して対 応させた花の写真及びその花言葉の組合せからなる写真集であるところ、その写真は原告 が撮影したものであり、それぞれの日に対応する「誕生花」としての花及びこれに対応す る花言葉の選択(一部の花言葉の創作も含む)も、最終的には原告が行ったものである。 平成11年、財団法人夢の架け橋記念事業協会は、平成12年に開催されるジャパンフロ ーラ2000(淡路花博)の広報用ポスターの制作を株式会社電通に発注し、電通は、原 告の了解を得て、上記の「誕生花」の写真及び花言葉を掲載したポスターを製作して協会 に納入した。  被告会社(大原種苗株式会社)は、平成12年から平成14年までの間の自社の総合カ タログとして、「zipangu」と題する冊子を製作、発行し、その中に、上記の「誕 生花」の写真及び花言葉全部を、本件ポスターから転載した。また、被告は、自らが開設 していた被告Bのインターネット上のホームページにおいて、上記の「誕生花」の写真及 び花言葉全部を、上記「zipangu」から転載した。  本件は、原告が、「誕生花」としての花の選択並びにこれについて原告が撮影した花の 写真及び花言葉の組合せ全体について著作権を有すると主張して、@これを被告会社が原 告に無断でパンフレットに掲載した行為が原告の著作権(複製権)を侵害するとして、そ の損害賠償を、Aこれを被告Bが原告に無断で自己の開設したインターネット上のホーム ページに掲載した行為が原告の著作権(公衆送信権)を侵害するとし、さらに被告大原種 苗が被告Bの上記行為に許諾を与えた行為が原告に対する不法行為であるとして、被告両 名に対してその損害賠償を請求した事案である。  判決は、著作物性を認めるなどしたうえで、損害賠償請求を認容した。 ■争 点 (1) 「誕生花」の写真及び花言葉の組合せ全体について著作権が成立するか (2) 原告は写真等の著作権を電通に譲渡したか (3) 協会は被告大原種苗に対して転載を許諾したか (4) 被告大原種苗は被告Bに対して転載を許諾したか (5) 被告らの故意過失の有無 (6) 損害 ■判決文 第3 当裁判所の判断  1 争点(1)(著作権の成立する範囲)について  原告は、「誕生花」としての花の選択並びにこれに対応する写真及び花言葉の組合わせ 全体に、原告の著作権が成立すると主張するので検討するに、前記第2の1の「前提とな る事実」(1)によれば、本件写真集は、1年366日に1日ごとに計366種類の花を1つ ずつ「誕生花」として対応させ、写真家である原告が撮影したそれぞれの花の写真と花言 葉を組み合わせて製作した写真集であり、それぞれの日に対応する「誕生花」としての花 及びこれに対応する花言葉の選択は最終的に原告が行ったものであり、花言葉の一部は原 告自らが創作したものである。この事実と証拠(甲第4、第9、第13号証)によれば、 本件写真集に用いられた366枚の花の写真は、原告の構想する「誕生花」に合致する花 を、主として自然の中で咲いている花の中から取材旅行で探し出し、毎年定点観測を行う ことなどを繰り返して、約5年をかけて撮影したものの中から選択したものであることが 認められ、これらの写真は、その撮影対象・時期の選定、撮影の構図等において創作性が あり、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作物性を有するものである と認められる。そして、これらの写真のみならず、1年の各日ごとの「誕生花」の選択と これに対応した写真及び花言葉の組み合わせとして表現されたものの全体は、1年366 日の「誕生花」とその花言葉という統一的なまとまりのある意味を有しており、単なる花 の写真の集合を超えて、原告の思想又は感情が創作的に表現されたものとして、著作権法 上の著作物に該当するものと認めるのが相当である(以下、本件写真集における「誕生花」 としての花の選択並びにこれに対応する写真及び花言葉の組合せ全体を「本件誕生花」と いう。)。  この点について、被告らは、「誕生花」の選択についても、花言葉の表現そのもの及び 花との組合せについても、表現方法の創作性はないと主張する。  確かに、1年の各日に一定の花を対応させることや、一定の花に「花言葉」を対応させ るという手法が古来から存在することは原告が自認するところであるし、甲第9号証及び 弁論の全趣旨によれば、原告が本件写真集ないし本件ポスターにおける「誕生花」の花言 葉として選択した言葉の多くは、一般に流布され、又は他の出版物中にも見られるもので あることが認められる。また、本件写真集における各日に対応する「誕生花」の具体的な 選択及びそれぞれの花言葉も、C著「花を贈る事典366日」(平成5年発行)(丙第2 号証)と共通するところが多く見られる。原告は、「誕生花は人生の応援花」とのコンセ プトから、一般に流布されている花言葉でもこのコンセプトにふさわしくないものについ ては、自ら創作したと主張するが、花言葉の一部に原告が創作したものがあるとしても、 花言葉自体は、一般的な言葉を選択したごく短い表現である(例えば、1月1日の「梅」 は「忠実、気品」、1月2日の「シンビジューム」は「飾らない心、素朴」といったもの であり、原告が自ら創作した花言葉がどれであるかは特定されていないが、甲第4号証 (本件ポスター)によれば、どの花言葉も同程度の長さと表現態様である。)。  しかしながら、1年の各日に対応した花を「誕生花」として選定するというアイデアや 個々の花言葉の表現自体は著作権法による保護の対象にならないということと、1年36 6日のそれぞれの日に対応した「誕生花」を具体的に選定し、その花言葉を選択ないし創 作し、これと各花の写真とを組み合わせて表現することが全体として著作物に当たるかど うかということとは別個に考える必要がある。そして、本件写真集におけるこれらの組み 合わせからなる表現(本件誕生花)は、前述のとおり、全体として統一的に原告の思想又 は感情を創作的に表現したものと認めるに足りるものというべきである。したがって、本 件誕生花について著作物性を肯定することができる。 2 争点(2)(著作権の譲渡の有無)について  (1) 被告大原種苗は、本件ポスターの作成に当たって、著作権等の権利が注文主である 電通に帰属することになっていたと主張するところ、確かに、協会と電通との間の本件ポ スターの作成委託に関する「委託契約書」(乙第2号証の3)の第11条には、「著作権」 との表題で、「淡路花博『ジャパンフローラ2000』PR紙面の著作権は、甲(協会を 指す。)に帰属する。」と記載されていることが認められる。  しかしながら、上記契約書の文言自体、「淡路花博『ジャパンフローラ2000』PR 紙面の著作権」とあって、本件誕生花の部分を含む本件ポスター全体についての著作権の 帰属を定めたものとは文言からも解しがたいし、上記契約書(乙第2号証の3)の作成に 原告が関与したことを認めるに足りる証拠もない。本件ポスターの作成経過を検討しても、 電通が協会に提出した、淡路花博プロモーション計画案(甲第7号証)には、「『誕生花 366日・A写真集』を起用した366日の誕生花プロモーション展開」と記載され、既 に写真集として成立して刊行されている著作物を用いることが予定されていたにとどまり、 期間を限定して開催される博覧会のプロモーションに用いるに当たって、その使用許諾に とどまらずに、著作権の譲渡までを受けることまで予定されていたとは通常考えがたい。 そして、本件ポスターの製作に当たって原告が電通に交付した請求書の控え(甲第8号証 の1ないし4)にも、原告が電通に著作権を譲渡したことをうかがわせる記載は存在しな い。かえって、上記請求書の控えのうち、平成12年3月4日付のもの(甲第8号証の4) には、品名として「誕生花用写真データ使用料」、摘要として「(花博ポスター増刷)」 との記載があり、これによれば、本件ポスターの増刷に当たって、原告が電通に写真デー タの使用料を請求したことが認められる。さらに、本件ポスターに掲載された本件誕生花 の部分のすぐ下には「cKITA Shunkan Photo Library」との表示がされており(甲第4号 証)、このことは、電通においても当然に認識していたものと推認できる。これらの事実 によれば、本件ポスターの作成に当たって、原告は本件誕生花についての著作権を電通に 譲渡していなかったことを推認することができる。  他に、原告と電通の間で本件ポスターの作成にあたって本件誕生花の著作権を電通に譲 渡したことを認め得る証拠はない。  (2) また、被告大原種苗は、原告は、対外的に電通に本件ポスターの著作権が帰属する かのような外観を作出し、かつ、その作出について認識しており、この外観に基づいて、 電通は本件ポスターの著作権を協会に譲渡し、協会もこれを信じたものであるから、原告 が、協会及び協会から転載の許諾を受けた被告大原種苗に対し、自己が著作権者であるこ とを主張することは、信義則上許されないと主張する。  しかしながら、上記(1)で判示した本件ポスターの作成経過に照らすと、協会が本件ポス ターの著作権が協会に帰属すると信じていたとは直ちに認めることはできない。  この点について、淡路花博を主宰していた協会の担当者であった証人Dは、本件ポスタ ーは、協会で作成したものであるから、これについての権限はすべて協会にあると考えて いた旨証言するが、同時に、著作権等については協会内ではあまり気にしていなかった旨 も証言しており、これに、前示のとおり、本件ポスターに掲載された本件誕生花部分の下 に「cKITA Shunkan Photo Library」との表示がされていることも合わせ考慮すれば、協会 は、単に著作権については十分に考慮していなかったにすぎないとみるのが合理的であり、 本件ポスターの著作権が協会に帰属していると信じていたとまで認めることはできない。 なお、被告大原種苗は、本件ポスターの第1刷には上記「cKITA Shunkan Photo Library」 の表示がされていなかったと主張し、証人Dも、協会の周囲の者に聞いたところ、この表 示は第1刷にはなかったのではないかという者がいた旨証言するが、この証言自体が伝聞 であり、何らの裏付けもない上、増刷分になって初めて上記のような表示を加える理由も 乏しいから、この主張は採用することができない。また、協会が作成した「淡路花博の入 場券販売の手引き」(乙第3号証)には、「標章等に関する一切の権利」が協会に属する 旨の記載があるが、ここでいう「標章等」は淡路花博の「シンボルマーク、マスコットキ ャラクター、愛称及びロゴタイプ」をいうものと明示されており、本件ポスターに用いら れた写真までもがこれに含まれるものとは考えがたく、しかも、証人Dの証言によれば、 本件ポスターの完成は上記「淡路花博の入場券販売の手引き」の作成後であったことが認 められるから、上記記載をもって、協会が本件ポスターの著作権が協会に帰属していると 信じていたと認めることもできない。  さらに、原告が、電通との契約に当たって、著作権の使用契約が表に出ないように外観 を整え、著作権に関して全く記載のない請求書を発行したからといって、対外的に電通に 本件ポスターの著作権が帰属するかのような外観を作出したものということもできない。 したがって、被告大原種苗の主張は、その前提を欠くものであり、採用することができな い。 3 争点(3)(協会による被告大原種苗に対する許諾の有無)について  仮に協会の被告大原種苗に対する転載の許諾があったとしても、自己の有する権利以上 のものを他人に与えることができない以上、被告大原種苗の不法行為の成立を直ちに否定 することにはならないから、独立した争点たりうるものではない。ただし、争点(5)の被告 大原種苗の過失の成否に影響し得るものであるから、この限度で検討する。  証人D及び同Eの各証言並びに乙第4号証(Dの陳述書)及び第5号証(Eの陳述書) によれば、協会の入場券販売管理本部の本部長であったDが、淡路花博の宣伝活動の打ち 合わせのために被告大原種苗を訪れた際、被告大原種苗の担当者であったEから、本件ポ スターを被告大原種苗の無償配布用のカタログ(この完成したものが「zipangu」 である。)に転載してもよいかと尋ねられ、Dは、協会の常務理事及び観客誘致部の部長 と協議して、協会の回答として、無償で配布するものであれば転載しても構わない旨をE に伝えたことが認められる。  原告は、淡路花博の公式ガイドブックを作成した業者が、本件誕生花を掲載するため、 協会の指示で原告を訪れて許諾を得たという経緯や、Dの担当部署が入場券販売管理本部 であったことから、Dを通じて協会が転載の許諾をしたとは考えがたいと主張するが、上 記のとおり、協会は、無償で配布するものであれば転載しても構わないと回答したもので あり、有償で配布するガイドブック(甲第10号証)とは前提を異にするし、被告大原種 苗に対して回答を伝えたのが入場券販売管理本部長であったDであったことについても、 そもそも被告大原種苗からの転載許諾の申し入れが、淡路花博の宣伝活動の打ち合わせの ために訪れたDを通じてされたものであることに照らせば、何ら不自然なところはない。 そして、他に、上記認定を覆すに足りる証拠はない。  したがって、協会は、被告大原種苗に対し、本件ポスター中の本件誕生花を被告大原種 苗が作成する無償配布用のカタログに転載するについて許諾をしたと認めることができる。 4 争点(4)(被告大原種苗による被告Bに対する許諾の有無)について  仮に被告大原種苗による被告Bに対する許諾があったとしても、被告Bの不法行為の成 立を直ちに否定するものでないことは争点(3)の場合と同様である。しかし、争点(5)の被 告Bの故意過失の成否に影響し得ることも争点(3)の場合と同様であるから、この限度で検 討する。  被告Bは、平成12年7月下旬、E専務から、「zipangu」に掲載されていた本 件誕生花の写真等を、被告Bのホームページに転載することの許諾を受けた旨主張し、そ の本人尋問の結果及び丙第1号証(被告Bの陳述書)中には、平成12年7月に行われた 被告大原種苗の見本市の後にホテルで設けられた懇親会の席上で、Eが参加者にマイクロ ホンを回してスピーチを求めた際、被告Bの番になったときに、ホームページにカタログ (「zipangu」)の中の本件誕生花を使わせてもらいたい旨話し、他のテーブルの ところにいたEが、「どうぞどうぞご自由にお使い下さい。」と答えた旨の供述があり、 甲第5号証の1(被告Bから原告に宛てた電子メールの文面を印刷したもの)にも、本件 誕生花の写真及び花言葉を被告大原種苗のカタログから転載する際には「大原種苗のE専 務様のご承諾をいただきました」との記載がある。また、原告も、被告Bがそのホームペ ージに本件誕生花を「zipangu」から転載するに先立ち、被告大原種苗が被告Bに その許諾を与えた旨主張する。  上記の、被告大原種苗が被告Bに転載の許諾をしたという事実及びその経過については、 被告大原種苗は否認するところであるが、仮に、被告Bの本人尋問の結果及び丙第1号証 の上記供述を採用するとしても、被告大原種苗が、被告Bに対し、「zipangu」中 の誕生花の写真及び花言葉を転載することを許諾したと認めることはできない。  すなわち、被告Bの本人尋問の結果によれば、平成12年7月の被告大原種苗の見本市 の後の懇親会とは、ホテルのパーティー会場で50ないし60人程度の参加者が幾つかの テーブルに分かれて座り、酒食が提供されるものであることが認められるところ、被告B の上記スピーチが、懇親会の前半に行われ、それまでに被告B自身はほとんど酒を飲んで いなかったとはいえ、このような、衆座の中でのマイクを用いたスピーチにおいて、カタ ログの写真の転載許諾を求めるような発言がされたとしても、これを聞いた者において、 真摯な転載許諾の申込みであるとは理解しがたいのが通常であるというべきである。した がって、上記供述のように、Eが「どうぞどうぞご自由にお使い下さい。」と答えたとし ても、その趣旨を、儀礼的な挨拶を越えた転載の許諾であると解することはできない。  また、甲第5号証の1中の上記記載は、被告Bにおいて、被告大原種苗のEから転載の 許諾を受けたと認識していることを示すにすぎず、上記被告Bの供述についての検討を合 わせ考慮すれば、被告大原種苗が被告Bに対して転載を許諾したものと認めるには足りな い。  そして、他に、被告大原種苗が被告Bに対し、「zipangu」中の本件誕生花をホ ームページに転載することについて、許諾したことを認めるに足りる証拠はない。  したがって、被告大原種苗が、被告Bに対し、上記の如き許諾をしたものと認めること はできない。 5 争点(5)(被告らの故意過失の有無)について  (1) 被告大原種苗による侵害について  本件ポスターには、第1刷分から、本件誕生花の部分の下に「cKITA Shunkan Photo Li brary」との表示がされていたと認められることは、前記2のとおりである。「KITA Shun kan Photo Library」が協会を示すものでないことは、一見して明らかであるから、被告 大原種苗としては、本件誕生花に関する著作権の所在について、少なくとも協会に明示的 に確認すべき注意義務があったというべきである。  しかしながら、被告大原種苗の担当者であったEは、本件ポスターの写真に別に著作権 者がいるかもしれないという考えを持たず、協会から許諾を得ればよいだろうと考え、そ の結果、被告大原種苗は、著作権の所在について、協会に明示的に確認することすらしな かった(証人Eの証言)のであるから、被告大原種苗には、上記注意義務を怠るという過 失があったというべきである。  もっとも、上記3で判示したとおり、協会が被告大原種苗に対し、本件ポスターを転載 することについて、無償であれば構わない旨を伝えていたという経緯に照らせば、本件ポ スターに上記表示がされていたことのみをもって、被告大原種苗に、上記過失を越えて、 故意の存在まで認めることはできず、他に、被告大原種苗に故意があったことを認めるに 足りる証拠はない。  (2) 被告Bによる侵害について  被告大原種苗が、被告Bに対し、「zipangu」の本件誕生花の写真及び花言葉を 転載することを許諾したと認められないことは前記4のとおりである。  被告Bは、原告からも、被告大原種苗からも、転載について真摯な許諾を受けずに、こ れがあるものと軽信して本件誕生花の写真及び花言葉を転載したのであるから、被告Bに は過失があったといわなければならない。  また、上記のとおり、被告大原種苗は、被告Bに対し、転載の許諾をしていないのであ るから、被告Bによる侵害について、連帯して責任を負うべき根拠はない。 6 争点(6)(損害)について  (1) 損害の算定方法について  一般に、著作権法114条2項の「受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当 たっては、侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害 行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間 の具体的な事情をも参酌して算定すべきものである。  上記損害に関し、原告は、本件誕生花の花の写真及び花言葉を使用させる場合において、 本件誕生花自体を商品としない使用形態のときは、半年単位で300万円の使用料を徴し ているから、本件においても、これを基準に損害を算定すべきであると主張する。なるほ ど、甲第3号証(原告の写真等の使用料金表)によれば、原告は、本件誕生花の写真及び 花言葉の使用料について、半年単位で300万円と定めていることが認められる。  しかしながら、原告が実際に上記使用料を徴しているかについて検討するに、原告自身 の認識として、ポジ使用料は、一般の商品と異なり「写真家が自分の作品についてどの程 度の自信を持っているかということと、お客さんがどのように評価してくださるかの相関 関係」で決まるものであり、作品を理解してくれた上で事情がある場合には価格も交渉次 第の面があるというものであり、本件ポスターは正にそのような場合に該当するというも のである(甲第13号証)。実際にも、本件ポスターの増刷分については、その部数は明 らかではないものの、使用料は75万円とされており(甲第8号証の4)、また、別のポ スター及びカレンダーについては、カレンダー3500冊について使用料200万円、ポ スター1万7683枚について使用料200万円とした例(甲第12号証の1ないし6) があることが認められるところであり、原告は、これまで、必ずしも上記料金表どおりの 使用料を徴していないということができる。なお、甲第11号証によれば、ホームページ への本件誕生花の掲載につき、1年間の使用料として600万円とした契約を締結した例 があることが認められるが、その契約は無断使用を開始した後に行われたものであること は原告の自認するところであり、正常な形態での契約とはいい難いものであるし、原告か ら、他に上記料金表の使用料によった契約の事例は挙げられていない。  このように、原告が必ずしも上記料金表の使用料を徴していないことに鑑みれば、著作 権法114条2項にいう権利者が受けるべき金銭の額として、上記料金表の使用料をその まま基準として算定することはできないというべきである。  そして、他に、原告が被った損害の算定基準に関する特段の主張立証のない本件におい ては、著作権者である原告が受けるべき金銭の額に相当する額は、著作物の性質や内容、 各被告の使用態様、被告大原種苗については使用したカタログの頒布部数、被告Bについ ては使用期間、各被告が使用により得た利益等の事情を総合的に考慮して、算定するより 他はない。  以上を前提に、原告が各被告から被った損害について検討する。  (2) 被告大原種苗による侵害について  前記「前提となる事実」のとおり、被告大原種苗による本件誕生花の使用態様は、その 平成12年から平成14年までのカタログとして作成した「zipangu」に転載した ものである。そして、証人Eの証言及び乙第1号証によれば、同カタログの製作部数は約 9000部、配布部数は約6800部であり、被告大原種苗の取引先を中心に、無償で配 布したものであること、同カタログは630頁余の大部のものであり、本件誕生花はその うち末尾近くの6頁分に掲載されていることが認められる。したがって、被告大原種苗は、 本件誕生花を使用したことで、直接に経済的利益を得たということはできない。また、被 告大原種苗は、本件誕生花についての原告の複製権を侵害するについて、前記5(1)で認定 したとおり、過失があったことは認められるものの、故意まで認めることはできない。  以上の事情を中心に、これまでに認定した諸事実を総合考慮すると、被告大原種苗によ る複製権侵害について原告が受けるべき金銭の額としては、300万円と認定するのが相 当である。  (3) 被告Bによる侵害について  前記「前提となる事実」のとおり、被告Bによる本件誕生花の使用態様は、自らが開設 していた被告Bのインターネット上のホームページに転載し、これを公開して、一般公衆 から閲覧可能な状態に置いたものである。その期間は、被告Bの本人尋問の結果によれば、 平成12年7月下旬ころから平成14年8月ころまでの約2年間であったと認めることが でき、これを覆すに足りる証拠はない。そして、被告Bの本人尋問の結果によれば、本件 誕生花を転載して公開したことで、被告Bのインターネット上のホームページの閲覧者数 は増加したものの、被告Bでは切り花は取り扱っていないことから、これが直接に被告B の販売につながるものではなかったことを認めることができる。したがって、被告Bは、 本件誕生花を使用したことで、直接に経済的利益を得たとはいえない。また、前記4で認 定した事情に照らすと、被告Bは、本件誕生花についての原告の公衆送信権を侵害するに ついて、過失があったことは認められるものの、故意まで認めることはできない。  以上の事情を中心に、これまでに認定した諸事実を総合考慮すると、被告Bによる公衆 送信権侵害について原告が受けるべき金銭の額としては、100万円と認定するのが相当 である。 7 結論  以上のとおりであるから、原告の請求は主文掲記の限度で理由がある。  よって、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 小松 一雄    裁判官 田中 秀幸    裁判官 守山 修生