・東京地判平成16年3月11日  アザレ不正競争事件:第一審  アザレインターナショナルは、昭和52年10月ころに個人企業として創業され、本件 各表示を付した化粧品、石けん類及び香料類(「アザレ化粧品」)の販売を開始した。そ の後、昭和57年1月20日には組織変更により、原告(株式会社アザレインターナショ ナル)が設立された。現在の原告代表者であるAは、有限会社アザレインターナショナル の時代および原告設立後の期間を通じて代表者の地位にあった。  被告アザレプロダクツ(アザレプロダクツ株式会社)は、昭和60年7月1日に設立さ れた各種化粧品の製造販売等を目的とする株式会社であり、被告共和化粧品工業株式会社 は、昭和34年2月25日に設立された各種化粧品の製造販売等を目的とする株式会社で ある。 原告は、本件各表示が自己の商品等表示として需要者の間に広く認識されている ものであると主張して、不正競争防止法2条1項1号に基づき、被告らに対し、本件各表 示を付した化粧品等の製造、販売等の差止めおよび製品の廃棄、ならびに「アザレ」を含 む被告らの商号の抹消登記手続を求めるとともに損害賠償を求めた。  判決は、不正競争防止法2条1項1号「の規定によって保護される『他人』とは、自ら の判断と責任において主体的に、当該表示の付された商品を市場における流通に置き、あ るいは営業行為を行うなどの活動を通じて、需要者の間において、当該表示に化体された 信用の主体として認識される者が、これに当たるものと解するのが相当である」とした上 で、「原告と被告アザレプロダクツの間の契約は、原告が自己のブランドを付して販売す る化粧品類について、被告アザレプロダクツがその内容物を製造し供給する、いわゆるO EM契約と認められる。また、原告と各本舗の間の契約においては、各本舗は、原告を通 じて本件各表示の付された商品を入手し、原告の指定する商品を原告の指定する販売方法 で販売することのみが認められていたものであって、原告と各本舗の間の契約はいわゆる 販売代理店契約と認められる。このような契約関係の下においては、アザレ化粧品に関し て、原告が、本件各表示の付された化粧品容器等を管理し、その流通についても、原告が、 その製造量を決定して、各本舗を通じての販売を管理していたものであり、本件各表示の 付された化粧品容器や広告には発売元として常に原告が表示されていたのであるから、自 らの判断と責任において本件各表示の付された商品を市場における流通に置き、消費者の 間において本件各表示に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのは、原 告だけであったと認められる」とした。  そして、周知性および混同のおそれを肯定して、不正競争防止法に基づく差止および損 害賠償請求を一部認容した。 (控訴審:東京高判平成17年3月16日) ■判決文 2 争点(1)(本件各表示は原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているか) について (1) 上記1認定の事実説示にかかる各事実を総合すると、原告(原告設立に先立つ個人 企業としてのアザレインターナショナル、有限会社アザレインターナショナルを含む。以 下本項(第3、2)において同じ。)と被告アザレプロダクツ(被告アザレプロダクツ設 立前は被告共和化粧品。以下本項(第3、2)において同じ。)及び各本舗間の契約関係 において、@アザレ化粧品の製造に関しては、委託製造取引契約に基づき、被告アザレプ ロダクツが原告から発注を受け、原告から供給を受けた化粧瓶及び外箱に詰めて完成させ、 原告の指定する販売指定店に供給し、それ以外には販売してはならないという体制がとら れていたこと、Aアザレ化粧品には、原告の名称が発売元として表示され、被告アザレプ ロダクツの表示は製造元として表示されていたものであること、B販売に関しては、販売 指定店契約に基づき、原告が各販売店(本舗)から注文を受け付け、被告アザレプロダク ツに発注をし、併せて顧客向けのパンフレットを作成したり、販売店への指導・連絡を行 い、販促品の交付を行うなどしていたこと、C商標に関しては、原告がワンダフルとの間 で本件各商標使用に関する契約を結び、毎年相当額の商標使用料の支払をしていたが、他 にワンダフルとの間でこのような契約を締結した者はいなかったことが認められる。 (2) 不正競争防止法2条1項1号の規定は、他人の周知な表示と同一又は類似する表示 を使用して需要者を混同させることにより、当該表示に化体した他人の信用にただのりし て顧客を獲得する行為を、不正競争行為として禁止し、もって公正な競業秩序の維持、形 成を図ろうとするものである。そうすると、同号の規定によって保護される「他人」とは、 自らの判断と責任において主体的に、当該表示の付された商品を市場における流通に置き、 あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて、需要者の間において、当該表示に化体され た信用の主体として認識される者が、これに当たるものと解するのが相当である。  これを本件についてみると、上記(1)において指摘したとおり、原告と被告アザレプロ ダクツの間の契約においては、本件各表示の付された容器等は原告の負担により製作され て被告に供給され、被告アザレプロダクツは、原告の発注に基づき原告から供給された化 粧瓶・外箱に内容物を詰めてこれを原告の指定する販売店に納入するもので、商品を第三 者に販売してはならないとされているものであり、またアザレ化粧品の容器等や広告には 発売元として原告の名称が常に記載されていたことに照らせば、原告と被告アザレプロダ クツの間の契約は、原告が自己のブランドを付して販売する化粧品類について、被告アザ レプロダクツがその内容物を製造し供給する、いわゆるOEM契約と認められる。また、 原告と各本舗の間の契約においては、各本舗は、原告を通じて本件各表示の付された商品 を入手し、原告の指定する商品を原告の指定する販売方法で販売することのみが認められ ていたものであって、原告と各本舗の間の契約はいわゆる販売代理店契約と認められる。  このような契約関係の下においては、アザレ化粧品に関して、原告が、本件各表示の付 された化粧品容器等を管理し、その流通についても、原告が、その製造量を決定して、各 本舗を通じての販売を管理していたものであり、本件各表示の付された化粧品容器や広告 には発売元として常に原告が表示されていたのであるから、自らの判断と責任において本 件各表示の付された商品を市場における流通に置き、消費者の間において本件各表示に化 体された信用の主体として認識され得る立場にあったのは、原告だけであったと認められ る。  これに対して、被告アザレプロダクツ及び各本舗は、原告との契約関係に基づき、原告 が自己のブランドを付して販売する化粧品の製造、流通に関与する限度で、本件各表示を 使用していたにすぎないものであり、そもそも独自に商品等表示の主体になり得る立場に はなかったものというべきである。  そして、前記1において認定の事実関係によれば、本件各表示は昭和52年10月ころ からアザレ化粧品に使用されていること、原告が株式会社になった昭和57年1月ころに は主力商品を含む20種類以上の商品がアザレ化粧品として販売されるようになり、ほぼ 全国を網羅する50以上の本舗が設けられていたこと、昭和57年の原告の売上高は既に 6億7600万円余りに達していたことが認められる。加えて、原告は、顧客向けのパン フレットやチラシの製作、販促品の配布、新聞や雑誌の広告等の広告宣伝を自ら行い、ア ザレ化粧品の広告における発売元としては必ず原告が表示されていたものである。これら の点に照らせば、本件各表示は、原告の商品及び営業の出所を示す表示として遅くとも原 告が株式会社に組織変更をした昭和57年1月ころまでには、原告の出所に係る商品ない し原告の営業を示すものとして、需要者の間に広く認識され、現在に至るまでその状態を 維持しているものと認めるのが相当である。 (3) この点に関して、被告らは、アザレ化粧品の創業及びその後の事業の拡大は、もっ ぱらI1人の手によるものであって、A及び原告の貢献はほとんどなかったとし、アザレ 化粧品の製造・販売に関しては、Iの強い指導力の下で、「アザレグループ」と呼ばれる 一体としてのグループが形成され、その中で、被告アザレプロダクツはアザレ化粧品を製 造する役割を担い、各本舗はアザレ化粧品を顧客に販売する役割を担うという役割分担と なっていたのであって、需要者の間においても「アザレグループ」として出所が認識され ていたものであるから、一体としての「アザレグループ」が商品等表示主体になるとする。 そして、単にIから「発売元として表示される役割」を与えられていたにすぎない原告だ けを商品等表示の主体と解することは実態に反するとし、本件においては、原告と被告ら の間で、互いに商品等表示につき「他人」と主張することはできないと主張する。  なるほど、前記1において認定の事実関係からすれば、アザレ化粧品はIの卓抜したア イディアがなければ生み出されることはなかったであろうし、創業後アザレ化粧品が名声 を博するに至ったのも、Iの才能によるところが大きかったものということができる。ま た、Iの存命中においては、原告、被告アザレプロダクツ及び各本舗は、Iの強い指導力 の下で、Iの定めた方針に従って業務を行っていたことが認められる。しかしながら、他 方、証拠(甲35の1、73、91、乙6の1ないし8)によれば、アザレインターナシ ョナルは当初Aの個人企業として始められたこと、アザレ化粧品創業後、有限会社になり、 原告が設立されてもなおAが代表者の地位にあったこと、創業時からAはIと行動を共に し、「アザレ」の商号を考案し、自ら商品を顧客に紹介したり、営業を行うこともあった こと、I自身、講演を行う際に「株式会社アザレインターナショナルI」との肩書きで講 演を行っていたこと、といった事実も認められるのであって、このような点に照らすなら ば、アザレ化粧品の創業においては、Aも一定の役割を果たしたものであり、原告及びそ の前身の有限会社は、Iの意向を受けつつも事業の拡大に主体的に取り組んできたこと、 I自身、自己の所属を原告と表示するなどしており、原告を離れた事業活動を行っていた わけではないことが認められる。そうすると、これらの事実に加えて、Iがワンダフルを 介して原告のみに対して本件各商標の使用を許諾していたことや、原告と被告アザレプロ ダクツないし各本舗の間の契約の内容等に照らせば、アザレ化粧品に関連する業務の遂行 においてIの果たす役割が前記のとおり大きなものであったにしても、本件各表示につい て、商品等表示の主体を原告と認定することができるものである。  なお、被告らは、アザレ化粧品については、販売員による訪問販売の形態での販売しか 行われていなかったのであるから、本件各表示が周知性を獲得するに際して、原告の広告 宣伝活動は何の役割も果たしていないと主張する。しかしながら、前記1において認定の とおり、原告による新聞広告、雑誌広告は長期間にわたり継続的に行われていることに加 え、消費者向けのパンフレットも原告において作成してきたものであって、アザレ化粧品 が販売員による訪問販売による販売のみを行っているものであるにしても、原告による広 告宣伝活動が本件各表示が周知性を獲得するに際して、少なからぬ役割を果たしたものと 認められる。 3 争点(2)(Iから被告Gを除く被告らに対する本件各商標使用の許諾があったか)に ついて  被告らは、被告アザレ東京及び被告アザレ武蔵野につき昭和57年9月ころ、被告アザ レアゼットにつき昭和60年4月ころ、被告アザレウイングにつき昭和61年5月ころ、 被告アザレプロダクツにつき昭和60年ころに、本件各商標権の商標権者であったIから、 無償での商標使用の許諾を得たと主張する。  しかしながら、このような許諾のなされた事実を認め得る客観的な証拠はなく、本件全 証拠によっても被告ら主張の事実を認めることはできない。被告らは、Iがアザレ化粧品 の販売に必要不可欠な製造業者や販売店に対して無償での商標使用許諾を行うことは当然 であると主張するが、本件においては、このような合意の存在を窺わせる事情が何ら存在 しないばかりか、前記1(7)において認定のとおり、原告はワンダフルに対して本件各商 標の使用の対価として毎年数億円にのぼる支払をしているのであって、商標権者であった Iが製造業者及び販売店に対して、原告とは別個の使用主体として本件各商標を使用する ことを無償で許諾したという点については合理的な根拠を見いだすことは困難である。加 えて、前記1(3)において認定したとおり、原告と各本舗間の販売店指定契約においては、 各本舗に対してアザレ化粧品以外の商品の販売を禁止し、商品の注文も原告を通してのみ 行うべきものとされていることに照らせば、被告アザレプロダクツ及び各本舗は、原告が、 再許諾権者たるワンダフルから許諾を受けて、本件各商標を使用して行うアザレ化粧品の 製造販売に関与する範囲内において、OEM契約による製造業者ないし販売代理店として 本件各商標の付されたアザレ化粧品の取扱いをしていたにすぎないと認めるのが相当であ る。  以上のとおり、Iから本件各商標の使用許諾を受けていた旨の被告ら(被告Gを除く。) の主張は、採用できない。 4 争点(3)(被告Gによる商標の自己使用として被告らの行為が許されるか)について  被告らは、予備的な抗弁として、仮にIから被告ら(被告Gを除く。)に対して本件各 商標の使用許諾がされた事実が認められないとしても、本件においては、被告Gは、自己 の有する本件各商標権の共有者として本件各商標を自己使用して、被告製品の製造・販売 を行っているものであり、他の被告らは、そのOEM製造業者ないし販売代理店として被 告製品に関与しているにすぎないと主張する。  しかしながら、本件全証拠によっても、被告Gが自らの業務として、被告製品の製造・ 販売を行っている事実を認めることはできない。  むしろ、証拠(甲31、77、78、100、128ないし133、乙18、19、被 告アザレプロダクツ及び被告共和化粧品代表者本人、被告G本人)及び弁論の全趣旨によ れば、被告製品には被告Gが販売していることは表示されず、かえって、少なくとも平成 15年5月に至るまでは、被告アザレプロダクツが販売しているかのような表示が付され て販売されていたこと、被告製品の発売当初に作成された被告製品に関するパンフレット には出所の表示として被告アザレプロダクツ又は「アザレグループ」の表示があるのみで あったこと、当初、被告製品の発注処理としては、各本舗から被告Gの事務所と被告アザ レプロダクツの双方に注文書を送付し、商品は被告アザレプロダクツから各本舗に直接送 られるという処理をしていたこと、最近に至り、本件補助参加人らと本件被告Gの間の別 件訴訟(福岡高裁平成13年(ネ)第972号)において被告Gの敗訴判決がされたことを 踏まえて発注処理を改めた後においても、被告Gの事務所では、各本舗から送付されてく る発注書をそのまま被告アザレプロダクツに転送するという処理をしているにすぎないこ と、商品のクレーム対策や品質の管理はすべてアザレプロダクツが行っていること、被告 Gの事務所には被告Gのほかに従業員が2名稼働しているのみであるといった事実が認め られ、また、被告らは本件訴訟において、一方においては被告プロダクツはIから本件各 商標の使用許諾を受けて主体的に被告製品の製造を行っているとの主張をしているもので あり、このような各事情に照らせば、被告アザレプロダクツが被告GのOEM製造業者と して被告製品の製造を行い、被告Gが自らの商品としてこれを販売し、各本舗が被告Gの 販売代理店として被告製品を販売しているという被告らの主張は、到底採用することがで きない。 5 争点(4)(被告らの商品表示が本件各表示と混同を生じさせるものか)について  被告製品に本件各表示と同一の表示が付されていることは当事者間に争いがない。原告 は、自己の販売する原告製品に本件各表示を付してこれを販売しているものであり、原告 製品と被告製品が同一種類の分野に属する化粧品であって、需要者を共通にするものであ ることからすれば、需要者の間に商品の出所につき混同を生じさせることは、明らかであ る。  また、被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング、同アザレ武蔵野及び同 アザレプロダクツが、それぞれ「アザレ東京」、「アザレアゼット」、「アザレウイング」、 「アザレ武蔵野」及び「アザレプロダクツ」なる商号を使用していることは当事者間に争 いないところ、これらの商号にはいずれも、原告の周知の営業表示である本件表示2、3 と同一ないし類似の「アザレ」の表示がその要部として含まれているものであるから、上 記の被告らが上記各商号を使用することは、需要者を始め、これをみる者に、原告とこれ らの被告らが同一の資本関係ないしグループ関係にあるかのような誤認を生じさせるもの と認められる。  なお、被告らは、原告が製造販売しているアザレ化粧品(原告製品)と被告製品との区 別はすべての顧客及び販売店、販売員が明確に識別していることであるし、販売網につい ても、販売員のレベルに至るまで原告のグループに属する者か被告Gのグループに属する 者かがはっきりと分かれており、同一の商品等表示を使用しているからといって、商品の 出所や営業主体を混同するおそれはないと主張する。しかしながら、すべての需要者が被 告らが主張するような明確な認識を有しているとは認められないものであって、被告らの 上記主張を採用することはできない。 6 被告らによる不正競争行為のまとめ  上記2及び5において説示したとおり、本件各表示は原告の商品等表示として周知性を 有するものであるところ、被告アザレプロダクツが製造販売し、被告アザレ東京、同アザ レアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野が販売する被告製品に付された本件各 表示と同一の表示は、原告の商品と混同を生じさせるものである。また、「アザレ東京株 式会社」、「アザレアゼット株式会社」、「アザレウイング株式会社」、「アザレ武蔵野 株式会社」及び「アザレプロダクツ株式会社」の各商号は、本件表示2、3と同一ないし 類似の表示を要部として含むものであり、原告の営業と混同を生じさせるものである。そ して、上記3及び4に説示のとおり、被告らには本件各表示について、原告に対抗しうる 正当な使用権原があるとは認められない。  したがって、被告アザレプロダクツが本件各表示の付された被告製品を販売する行為、 被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野が本件各表示 の付された被告製品を販売する行為並びに被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレ ウイング、同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツが、それぞれ、「アザレ東京株式会社」 、「アザレアゼット株式会社」、「アザレウイング株式会社」、「アザレ武蔵野株式会社」 及び「アザレプロダクツ株式会社」なる商号を使用することは、いずれも不正競争防止法 2条1項1号所定の不正競争行為に該当する。 7 差止請求について (1) 販売行為等の差止め請求について  前記6に説示したとおり、被告アザレプロダクツが本件各表示の付された被告製品を製 造販売する行為、被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武 蔵野が本件各表示の付された被告製品を販売する行為は、不正競争行為に該当するもので あるから、これらの被告らに対して、本件各表示の付された被告製品の販売(被告アザレ プロダクツに対しては製造販売)の差止め及びその廃棄を求める原告の請求は理由がある。  また、被告アザレプロダクツが被告製品を販売する行為は不正競争行為に該当するもの であるところ、前記1及び5において説示したとおり、被告共和化粧品は、被告アザレプ ロダクツと意思を共同して、同被告の被告製品の製造販売に際して、自己の製造設備を貸 与し、自己の従業員をこれに従事させるなどして、実質的には被告製品を製造販売してい たものであるから、被告共和化粧品は、今後自ら被告製品を製造販売して、原告の営業上 の利益を侵害するおそれがあるものと認められる。したがって、被告共和化粧品に対して、 本件各表示と同一の表示を使用した化粧品、石けん類又は香料類の製造販売行為の差止め を求める原告の請求は理由がある。もっとも、被告共和化粧品は、被告製品の製造販売に 関して上記の限度で関与するものであって、現在、実際に被告製品の製造販売を行ってい るのは、別法人である被告アザレプロダクツであるから、被告共和化粧品に対する被告製 品の廃棄請求は、理由がない。  他方、被告Gについては、前記5において説示したとおり、被告製品の注文の取次を行 っているものではあるが、その状況は前記認定のとおりであって、本件訴訟において本件 各商標権の共有者として自ら本件各商標の使用を行っているかのような外観を作出するた めに、外観上取次行為を行っているにすぎないから、今後自ら不正競争行為を行って原告 の営業上の利益を侵害するおそれがあるとは認められない。したがって、被告Gに対する 販売行為等の差止請求及び被告製品の廃棄請求は、いずれも理由がない。    (2) 商号の抹消登記手続請求について  前記2において認定したとおり、本件各表示は遅くとも原告が設立された昭和57年1 月ころには原告の商品表示・営業表示として周知性を獲得したものと認められるところ、 「アザレ東京株式会社」、「アザレアゼット株式会社」、「アザレウイング株式会社」、 「アザレ武蔵野株式会社」及び「アザレプロダクツ株式会社」の商号はいずれもこれに後 れて登記され、使用が開始されたものである。前記6において述べたとおり、被告アザレ 東京、同アザレアゼット、同アザレウイング、同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツが これらの商号を使用することは、不正競争行為に該当するものであるから、これらの被告 らに対して「アザレ」を含む上記各商号の抹消登記手続を求める原告の請求はいずれも理 由がある。 8 争点(5)(原告の損害)について (1) 被告G、同アザレプロダクツ及び同共和化粧品に対する損害賠償請求について  ア 前記5において説示したとおり、被告アザレプロダクツによる被告製品の製造販売 行為は不正競争行為に該当するものと認められ、同被告は不正競争防止法4条に基づき損 害賠償責任を負う。また、被告共和化粧品は、前記認定のとおり、被告アザレプロダクツ と意思を共同して、同被告の被告製品の製造販売に際して製造設備を貸与し、従業員を従 事させているものであるから、共同不法行為者として被告アザレプロダクツと連帯して損 害賠償責任を負うものである。   他方、被告Gについては、前記7において説示したとおり、本件訴訟において本件各 商標権の共有者として自ら本件各商標の使用を行っているかのような外観を作出するため に、外観上被告製品の取次行為を行っているにすぎないから、共同不法行為者とまでは認 めることができない。したがって、同被告に対する損害賠償請求は理由がない。  イ 損害額について  (ア) 前記1において認定のとおり、被告製品の販売が開始されたのは、平成12年4 月ころからであるところ、証拠(甲16の16ないし18)ないし弁論の全趣旨によれば、 平成9年から同11年までの3年間の原告の営業利益は、次のとおり合計18億8851 万0811円であったものと認められる。   ・第16期(平成9年1月1日から同年12月31日)     3億5086万0391円   ・第17期(平成10年1月1日から同年12月31日)     5億8472万9473円 ・第18期(平成11年1月1日から同年12月31日)     9億5292万0947円  (イ) 次に、証拠(甲51、98、121)及び弁論の全趣旨によれば、3年間の営業 利益の合計は、次のとおり1億0113万5419円であったことが認められる。   ・第19期(平成12年1月1日から同年12月31日)    9695万6217円   ・第20期(平成13年1月1日から同年12月31日)   −2621万0492円 ・第21期(平成14年1月1日から同年12月31日)    3038万9694円  (ウ) 昭和57年から平成11年まで原告の営業利益(甲16の1ないし18により、 別紙「売上高・営業利益・商標使用料比較一覧表」記載のとおりであると認める。)は一 貫して上昇を続けていたこと、原告の扱っている商品の主力は基礎化粧品であり、しかも 自然派化粧品として同一の顧客により継続的に使用されることが想定されているものであ って、景気の変動による売上の急激な変化は生じにくいと考えられること等の事情に照ら せば、上記(イ)のような急激な営業利益の低下は、被告アザレプロダクツの不正競争行為 により生じたものと認められ、被告アザレプロダクツによる不正競争行為がなければ、原 告は第16期ないし第18期の3年間の営業利益に相当する額を第19期ないし第21期 にも上げられたものと認められる。  したがって、上記(ア)と(イ)の差額である、17億8737万5392円が被告アザレ プロダクツによる不正競争行為により原告に生じた損害として、不正競争行為と相当因果 関係のある損害(不正競争防止法5条4項参照)と認めるのが相当である(なお、原告は、 平成15年1月1日分以降に生じた損害についても請求しているが、これを認めるべき的 確な証拠はなく、本件全証拠によっても認めることはできない。)。  (エ) 弁護士費用  原告が本件訴訟の訴訟追行を弁護士に委任したことは、当裁判所に顕著であるところ、 本件事案の性質、内容、本件訴訟の手続の経緯等の諸般の事情を勘案すると、被告アザレ プロダクツの不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては、5000万円を もって相当と認める。  ウ 以上のとおりであるから、被告G、同アザレプロダクツ及び同共和化粧品に対する 損害賠償請求については、被告アザレプロダクツ及び同共和化粧品に対して、18億37 37万5392円及びこれに対する平成13年10月20日(被告全員に対する訴状送達 の日の翌日であることが記録上明らかである。)から支払済みまで民法所定の年5分の割 合による遅延損害金につき連帯支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。   (2) 被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野に 対する損害賠償請求について  ア 前記6において説示したとおり、被告アザレ東京らは、本件各表示の付された被告 製品を販売していたものである。前記1において認定した本件の事実経過に照らせば、被 告アザレ東京らは、全員で意思を共同し、一体のグループを形成して、被告アザレプロダ クツと意を通じて被告製品を販売していたものであるから、原告に対し共同不法行為者と して、不正競争防止法4条に基づく損害賠償責任を連帯して負うものである。  イ 損害額について  (ア) 前記1において認定した各事実に証拠(乙32、66の1、2、証人Q、被告G 本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告アザレ東京らは、東京地区において、被告ア ザレ東京を中心として約120の営業所で販売グループを形成していること、平成12年 5月ころから平成13年11月ころの1営業所当たりの年間売上高は少なくとも1440 万円を下らないことが認められる(証人Qは証人尋問において、乙66号証の2記載の推 定売上額は、同証人の知り得た数字及び同証人の経験から間違いない売上額を算出し、そ れを基に売上額を推算したものである旨を証言しており、一定の信用性が認められる。)。 そうすると、被告アザレ東京を中心とする販売グループの年間売上高は、以下の計算式の とおり17億2800万円を下らないものと認められる。   (計算式)   14,400,000×120=1,728,000,000  この年間売上高を基に、平成12年5月1日から平成13年11月30日までの19か 月間の被告アザレ東京を中心とする販売グループ売上高を算定すると、下記の計算式のと おり27億3600万円となる。   (計算式)   1,728,000,000×19/12=2,736,000,000  (イ) 被告製品の小売販売によって得られる利益は、小売価格の1割5分程度と推測さ れる(この点につき被告らは争っていない。)ので、上記期間において不正競争防止法5 条2項により原告の損害と推定される金額は、少なくとも上記の売上高27億3600万 円に1割5分を乗じた4億1040万円を下ることはない。  (ウ) 弁護士費用  原告が本件訴訟の訴訟追行を弁護士に委任したことは、当裁判所に顕著であるところ、 本件事案の性質、内容、請求額等諸般の事情を勘案すると、被告アザレ東京らの不正競争 行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては、2000万円をもって相当と認める。  ウ 以上のとおりであるから、被告アザレ東京らに対する損害賠償請求は、被告アザレ 東京らに対して、4億3040万円及びこれに対する平成13年10月20日(被告全員 に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである。)から支払済みまで民法 所定の年5分の割合による遅延損害金につき連帯支払を求める限度で理由があるというこ とになるが、本件においては、原告は被告アザレ東京らに対し、4億2900万円とこれ に対する平成13年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員についての連 帯支払いを求めているのみであるので、被告アザレ東京らに対する上記損害賠償請求は理 由がある。  (3) なお、本件において、被告アザレプロダクツ及び同共和化粧品の損害賠償債務(上 記(1))と被告アザレ東京らの損害賠償債務(上記(2))とは、共同不法行為者の損害賠償 債務として、両者が重複する限度において不真正連帯債務の関係となる。 9 結論  以上のとおりであるから、原告の被告らに対する請求は、被告Gを除くその余の被告ら に対して、上記の各請求を行う限度で理由がある(被告Gに対する請求及び被告被告アザ レプロダクツ及び同共和化粧品に対するその余の請求は理由がない。)。また、仮執行宣 言については、本件においては相当でないので、これを付さないこととする。  よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村 量一    裁判官 大須賀寛之    裁判官 松岡 千帆