・東京高判平成17年2月17日  「どこまでも行こう」JASRAC事件:控訴審  本件は、甲曲の作詞作曲者であるAからその著作権等の信託譲渡を受けた被控訴人が、 控訴人が音楽著作権管理団体として、平成4年12月1日から平成15年3月13日まで の間、乙曲を継続的に音楽著作物利用者に対して利用許諾し、その許諾を受けた利用者を して、放送、録音、演奏等をさせた行為が、甲曲に係る著作権法27条(編曲権)又は2 8条の権利を侵害するものであったと主張して、控訴人に対し、不法行為又は控訴人と被 控訴人間で締結された本件著作権信託契約の債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案 である。  原判決は、著作権法27条の権利侵害を理由とする請求については、理由がないとした が、同法28条の権利侵害を理由とする請求については、「原告は、編曲権を侵害して創 作された乙曲を二次的著作物とする法28条の権利を有し、乙曲を利用する権利を専有す るから、原告の許諾を得ることなく乙曲を利用した者は、原告の有する法28条の権利を 侵害したものであり、上記利用者に乙曲の利用を許諾した被告は、上記権利侵害を惹起し たものというべきである。」とした。そして、原判決は、「本件において損害を請求され ている平成15年3月期以降の著作物使用料分配保留分の利用許諾行為については、別件 訴訟が提起された後であり、一部は編曲権侵害を肯定する別件訴訟控訴審判決が言い渡さ れた後でもあるのであるから、被告としては、乙曲が甲曲の著作権を侵害するものである か否かについてとりわけ慎重な検討をして著作権侵害の結果を回避すべき義務があった。 しかるに、被告は、これを怠り、別件訴訟の控訴審判決前に関しては、利用者に対して、 格別に注意喚起すら行っておらず、控訴審判決後も漫然と乙曲の利用許諾をし続けたので あるから、過失があったといわざるを得ない。」として、控訴人(被告)の過失責任を肯 定した。その上で、原判決は、被控訴人(原告)の損害について検討し、180万329 4円(弁護士費用を含む。)及び遅延損害金を認定し、この限度で被控訴人(原告)の前 記請求を認容し、その余の請求を棄却した。  本判決は、「控訴人は、多くの音楽著作物の著作権の信託譲渡を受け、それを管理する ものであるが、控訴人の上記の目的や業務の性質、内容に照らせば、著作権の管理を実施 するに当たっては別の著作権を侵害することがないように注意する一般的な義務があると ころ、著作権侵害の紛争には、事案ごとに種々の事情があることが想定されるので、控訴 人としては、事案に応じて、合理的に判断して適切な措置を選択することが求められてい るものと解される」とした上で、「これらの事情に照らせば、著作権侵害が明白であった とはいい難く、侵害の可能性についての控訴人の判断は、困難な状況にあったといえる」 と述べて、控訴を認容し、第一審原告の請求を棄却した。 (第一審:東京地判平成15年12月26日) ■評釈等 潮見佳男・コピライト530号28頁(2005年) 岡邦俊・JCAジャーナル52巻3号60頁(2005年) ■判決文 第3 当裁判所の判断 2 争点(2)(過失の有無)及び争点(3)(債務不履行の有無)について検討する。  (2) 以上の事実に基づいて、Aが別件訴訟を提起した平成10年7月28日以降、控 訴人が乙曲の利用許諾を中止した平成15年3月13日までの期間において、控訴人に何 らかの注意義務違反等があったか否かについて検討する。  (2-1) 控訴人が音楽著作物著作権の管理を実施するに際して負うべき注意義務ないし 契約上の債務に関し、次のような一般的要素が考えられる。  (a) 控訴人は、「音楽著作物の著作権者の権利を擁護し、あわせて音楽の著作物の利 用の円滑を図り、もって音楽文化の普及発展に資することを目的とする」社団法人である (乙7)。控訴人は、上記目的を達成するため、音楽の著作物の著作権に関する管理事業、 音楽の著作物に関する外国著作権管理団体等との連絡及び著作権の相互保護、特別の委託 があったときは、音楽の著作物以外(小説、脚本を除く。)の著作物の著作権に関する管 理事業、私的録音録画補償金に関する事業、著作権思想の普及に関する事業及び音楽の著 作物の著作権に関する調査研究、音楽文化の振興に資する事業、会員の福祉に関する事業、 その他目的を達成するために必要な事業を行うものであることとされている(乙7)。  (b) 控訴人の本件信託契約約款においては、委託者が控訴人に著作権の管理を委託す る著作物について他人の著作権を侵害していないことを保証する(第7条1項)ものと定 められ、受託者(控訴人)は、著作権の侵害について、告訴、訴訟の提起又は受託者に対 し異議の申立てがあったときには、著作物の使用料等の分配を保留することができる(第 20条1号)こととされ、さらに、受託者(控訴人)は、著作権の侵害について、告訴、 訴訟の提起又は受託者に対し異議の申立てあったときには、著作物の使用許諾、著作物使 用料等の徴収を必要な期間行わないことができる(第29条1号。「管理除外」との名称 が付されている。以下「管理除外」ともいう。)こととされている(乙3)。なお、上記 の各条項は、平成13年10月2日のもの(ただし、平成14年7月11日一部変更)で あるが、それ以前においても、同旨の内容の約定が存在したものと認められる(甲54、 乙4、5、8、弁論の全趣旨)。  ところで、著作権侵害の疑いのある音楽著作物の利用許諾中止という措置は、著作権を 侵害されるおそれのある者に対しては、より手厚い保護手段であるといえるが、一方で利 用許諾を中止される音楽著作物としては、利用者の判断を経ることなく、控訴人の判断で 楽曲が表現されることが差し止められるのであり、極めて重大な結果をもたらすものであ って、後に侵害でないと判断された場合の利用許諾を中止された側の損害の回復は困難で ある(後に判示する保留された分配金のように、実質的に担保となるものがない。前記保 証の制度から、このような場合の損害回復の必要性がないと推論することはできない。)。  一方、使用料分配保留という措置は、著作権侵害であることが争われている音楽著作物 の利用許諾を中止することなく、控訴人が使用料を利用者から徴収し、これを分配せずに 控訴人の下に保留しておく措置である。著作権侵害を主張する側にとっては、当該侵害に よって受ける損害が分配を保留された手数料を大きく上回るときは、利用許諾中止の措置 よりは不十分な救済方法となるが、侵害が争われている音楽著作物の使用料相当の金額が 保留されており、実質的に担保といい得るものとなっているので、仮に著作権侵害である とされた場合でも、回復し難い損害でも生じない限り、侵害された側の損害回復は、通常 は基本的に確保されているといえる。したがって、全体としてみて、使用料分配保留とい う措置は、特段の事情がない限り、利用許諾中止という措置に比べて、より穏当で、かつ、 合理的な措置であるということができる。  (c) 以上によれば、著作権の侵害について、訴訟の提起や異議の申立てがあった場合 には、控訴人として、使用料分配保留措置又は利用許諾中止措置をとることができること とされているが、必ずいずれかの措置をとるべきであるとする条項は上記のとおり存せず、 また、いずれの措置をとるべきかについての条項も存しない。  しかしながら、控訴人は、多くの音楽著作物の著作権の信託譲渡を受け、それを管理す るものであるが、控訴人の上記の目的や業務の性質、内容に照らせば、著作権の管理を実 施するに当たっては別の著作権を侵害することがないように注意する一般的な義務がある ところ、著作権侵害の紛争には、事案ごとに種々の事情があることが想定されるので、控 訴人としては、事案に応じて、合理的に判断して適切な措置を選択することが求められて いるものと解される。  そして、上記のようなとり得る各措置の特質を考えた場合、いずれの措置をとるべきか、 換言すれば、一方の措置をとったことに不法行為責任又は債務不履行責任があるといえる か否かは、著作権侵害の明白性や侵害の性質など、事案ごとの諸般の事情を勘案して判断 するのが相当である。  (2-2) 被控訴人は、控訴人の著作権侵害行為として、控訴人の乙曲の利用許諾行為で あると特定するところ、以上の点をふまえて、本件の具体的事情に照らして検討するに、 Aが別件訴訟を提起した平成10年7月28日以降、控訴人が乙曲の利用許諾を中止した 平成15年3月13日までの期間において、控訴人が乙曲の使用料分配保留措置をとりつ つ、利用許諾を続けた行為は、控訴人の措置としてやむを得ないものと評価し得るのであ り、控訴人に不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任があるとはいえない。 その理由は、以下のとおりである。  (a) 前認定のとおり、Aは、平成10年7月28日、Bに対して、乙曲が甲曲を複製 したもので著作者人格権を侵害するなどと主張して、損害賠償請求訴訟を提起し、記者会 見をしたのであり、さらに、被控訴人も、同年9月18日、Bに対して、著作権侵害を理 由に損害賠償請求訴訟を提起し、直ちに、その旨を控訴人に通知したのであるから、控訴 人としては、この時点において、既に乙曲による著作権侵害の有無や乙曲の扱いに関する 対応を検討すべき事態に至ったものというべきである。  (b) そこで、まず、問題となるのは、乙曲による甲曲の著作権侵害の可能性である。  別件訴訟についてみると、前認定のとおり、Bは、上記A及び被控訴人の請求を争い、 別件訴訟の第一審判決では、被控訴人及びAの請求が棄却され、後に第二審判決により、 請求が認められ、最高裁への上告及び上告受理申立てが排斥されて、請求の一部認容が確 定したのであって、第一、二審でA及び被控訴人の主張に変動はあったものの、司法判断 が分かれたものであった。そして、請求を一部認容した第二審判決をみても、判断が分か れたのは、事実の存否というようなものではなく、多くの音楽関係の専門家から意見書等 が出され、種々の見解があった中から、最も相当な見解が選択されたことによるものであ ったことが推認される。  これらの事情に照らせば、著作権侵害が明白であったとはいい難く、侵害の可能性につ いての控訴人の判断は、困難な状況にあったといえる。なお、別件訴訟の控訴審判決が請 求を一部認容した後については、一般的には、著作権侵害等が肯定される可能性が高まっ たといえるであろう。しかし、上記の事情に加え、第二審判決は、異なる楽曲として公表 された各楽曲間において編曲権侵害の成否が争われてその判断を示したものであって(甲 1)、先例も乏しい分野の争点であることなどにもかんがみれば、最高裁の判断を見極め ようとした控訴人の対応を直ちに非難するのは困難である。  (c) 上記のような状況下で判断を迫られていた控訴人に対し、被控訴人から次のよう な対応がされた。  前認定のとおり、被控訴人は、平成10年9月18日付けの内容証明郵便において、控 訴人に対し、乙曲の著作物使用料分配を保留するよう求め、乙曲の利用許諾の中止は求め ていない。そして、控訴人は、前記のとおり、これを受諾するものとして、同月30日付 けで乙曲の使用料分配保留措置をとった。  また、前認定のとおり、被控訴人代表者は、別件訴訟の控訴審裁判所に宛てた平成14 年1月15日付けの陳述書(乙6)において、上記使用料分配保留措置に言及し、「(控 訴人が)適切な措置をとってくれました。」と陳述している。  そして、本件全証拠によっても、被控訴人は、控訴人に対し、控訴人自らが乙曲の利用 許諾中止の措置をとるまでの間に、乙曲の本件使用料分配保留措置が不当であることや、 利用許諾中止措置をとるべきことを申し入れた事実は認められない。むしろ、上記の経緯 に照らせば、本件使用料分配保留措置は、被控訴人の要求に沿って開始されたものであり、 3年3か月以上もの間、乙曲の利用許諾が中止されることなく、使用料分配保留措置がと られ続けている状況の下で、被控訴人代表者自身が裁判所に対し、使用料分配保留措置が 「適切な措置」であると評価する見解を表明しているのである。  被控訴人代表者は、上記陳述書(乙6)の記載について、本件第一審における平成15 年11月20日付け陳述書(甲50−1)において、控訴人が利用許諾を続けることを変 えない措置は不適切であるどころか違法であると解釈していたが、被控訴人の当初の要請 である分配の保留を控訴人が行ったことのみに対し、控訴人の正会員としての礼を紳士的 に言ったまでであり、それが本件の論点となることは、的はずれであるなどと陳述してい る。しかし、乙6の陳述書の前後の文脈に照らし、また、前判示の被控訴人の一連の対応 にかんがみても、陳述書(甲50−1)における上記陳述は、到底首肯し得ない。被控訴 人は、また、被控訴人が乙曲の利用許諾の継続を望むはずがないのであるが、控訴人の内 部事情を知る被控訴人としては、乙曲の管理除外を書面などで要求しても無駄であると判 断したなどと主張するが、この主張を裏付けるに足りる証拠がないだけでなく、上記認定 事実に照らして到底採用し得ない。  (d) ところで、乙曲について管理除外措置や使用料分配保留措置をとるか否かという ことは、控訴人と乙曲を管理委託したフジパシフィックとの間の契約関係に係るものであ り、それ自体は、控訴人と被控訴人との間の本件著作権信託契約における債権債務関係の 対象となるものではない。したがって、被控訴人としては、甲曲の著作権侵害行為を回避 する手段として、控訴人に対し、フジパシフィックとの間の契約関係に基づいて、乙曲の 管理除外措置や使用料分配保留措置をとるように権限行使の発動を求めるという関係にな る。  そこで、上記(c)の被控訴人の行為をみると、被控訴人は、前記状況下にある控訴人に 対し、乙曲の管理除外措置をとることなく利用許諾を継続することになる「使用料分配保 留措置」をとることを申し入れて、その後も了承していたものというべきである。乙曲に よる甲曲の著作権侵害の有無について係争中であるという状況下における控訴人の対応方 について、上記の申入れ及び了承がある以上、その申入れ等の内容が一見して明白に不合 理であり、この申入れ等に従った場合には、申入れ等をした権利者に回復し難い損害を生 じるなどの特段の事情がない限り、控訴人としては、上記申入れ及び了承に従って、乙曲 の使用料分配保留措置をとりつつ利用許諾を継続すれば、後に判決で著作権侵害が確定し ても、不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任を負うものではないというべ きである(法的評価としては、違法性の問題か過失の問題かなどということはあり得るが、 これを基礎付ける事実関係は、当事者が主張するところである。)。  特段の事情についてみるに、全体としてみて、使用料分配保留という措置は、利用許諾 中止という措置に比べて、より穏当で、かつ、合理的な措置であるということができるこ とは、前記(2-1)(b)のとおりであること、上記の内容証明郵便による被控訴人の申入れは、 代理人弁護士によってされたものであり、利用許諾中止措置(管理除外措置)を求めた場 合には、仮に被控訴人が別件訴訟で敗訴したときに相当額の賠償責任を負うという危険が あったことも考慮すれば、別件訴訟の判決が未確定のうちは、使用料分配保留措置を求め るとの方針で申し入れたとしても決して不合理ではないといえること、被控訴人が主張す る損害について、別件訴訟の控訴審判決(甲1)によって検討するも、著作権侵害による 通常の財産上の損害にすぎず、決して回復困難な損害であるということはできないことな どに照らせば、特段の事情があるとはいえない。  なお、前記のように、平成14年11月20日開催の控訴人の通常評議員会において、 ある評議員から、控訴人としては、乙曲の許諾を中止すべきではないかとの意見が述べら れたことが認められるが、控訴人内における一意見があったことを示すものにすぎず、被 控訴人から使用料分配保留措置をやめて、利用許諾中止措置をとることの要求があったわ けではない。また、平成15年2月19日開催の控訴人の通常評議員会において、Aは、 乙曲に関する信託契約の解除か、使用料の徴収を必要な期間行わない措置をとるべきとの 趣旨の発言をしたことが認められるが、前認定のとおり、その発言は、Bとの裁判のこと を言いたいのではなく、新しい定款を作ろうとしても、それを守らなければ何にもならな いということを言いたい、との趣旨であることを自ら述べているとおりであるし、平成1 4年11月20日開催の控訴人の通常評議員会には、Aも出席しているが、乙曲の扱いに 関する上記の議論に関しては、特段の発言はない。そして、そもそも控訴人と甲曲につい て著作権信託契約の当事者関係にあるのは被控訴人であり、甲曲の著作権を有するのも被 控訴人であって、Aではない。よって、上記控訴人の通常評議員会の議論が控訴人の責任 を直ちに導くものとはいえない。むしろ、上記通常評議員会は、率直な議論と慎重な検討 の末、結論に至ったものであり、問題視すべき点は見当たらない。  (e) 上記のほか、使用料分配保留措置の開始が訴え提起後約2か月経過してからであ ったことは、双方の言い分を検討する必要性なども考えれば、遅きに失したとはいえず、 また、利用許諾の中止が別件訴訟の最高裁決定の日付けの2日後であった点も、決定がそ の日付けにおいて言い渡されるものではないこと(郵送により申立人に告知されるのが、 実務の通常の扱いである。)も考えれば、遅きに失したとはいえない。  (f) 被控訴人は、控訴人が、乙曲について管理除外措置を取らなかったことで、フジ テレビのように控訴人の利用許諾に藉口して盗作の利用を継続することを助長することに なり、控訴人の責任は大きいと主張する。しかし、仮に、フジテレビがそのような主張を したとしても、被控訴人との関係では失当であることは明らかであって、控訴人が使用料 分配保留措置をとりつつ管理除外措置をとらなかったために、盗作の利用が助長されたと まではいい難い。被控訴人の上記主張が控訴人の不法行為責任又は債務不履行責任を根拠 付けるものとはいえない。  (g) 以上によれば、平成10年7月28日以降、平成15年3月13日までの期間に おいて、控訴人が乙曲の使用料分配保留措置をとりつつ利用許諾を続けた行為について、 控訴人に不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任があるとはいえない。  (3) 被控訴人は、当審で請求を拡張した結果、平成4年12月1日の乙曲の利用許諾 の当初に遡って、損害賠償請求をしている。そこで、平成4年12月1日からAの別件訴 訟提起日の前日である平成10年7月27日までの期間における控訴人の不法行為責任又 は債務不履行責任の有無について検討する。  控訴人が乙曲の利用許諾を開始した以上、前判示のような注意義務を負うことに変わり はない。そして、この期間においては、控訴人は、使用料分配保留措置をとることなく、 単に、乙曲の利用許諾をしたことが認められる。  そして、被控訴人は、控訴人において、譜面の提出を要求し、かつ、常時譜面のチェッ ク機関を設けるべきである旨を主張し、この義務を尽くしておれば、乙曲を控訴人が管理 することは防止できたはずであるなどと主張する。  しかしながら、別件訴訟提起日までに、控訴人に対し、乙曲について著作権侵害の問題 が提起されたことを認めるに足りる証拠はない上(甲78によれば、この問題が発覚した のは平成10年3月末ころであり、提訴前にBとの間で内容証明郵便の送付などがされた 程度であると認められる。)、別件訴訟提起後の期間に係る(2)に判示したところにも照 らせば、平成4年12月1日から平成10年7月27日までの期間における控訴人の利用 許諾を続けた行為(前記のとおり、被控訴人は、控訴人の著作権侵害行為として、控訴人 の乙曲の利用許諾行為であると特定した。)について、控訴人に不法行為責任又は著作権 信託契約上の債務不履行責任があるとはいうことはできない。  3 以上判示したとおり、控訴人には、不法行為責任も債務不履行責任もないというべ きであるから、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の請求は、当審で拡張 した部分を含め、すべて理由がないというべきである。  なお、被控訴人が控訴人と共同不法行為の関係にあると主張するポニーキャニオン、フ ジパシフィック及びフジテレビに対しては、被控訴人一部勝訴の第一審判決が確定してい るが、控訴人においては、前判示のような固有の事情が存在する。また、控訴人は、営利 を目的とする法人ではなく、仲介業務法の下においては、業務は文化庁長官の許可制で、 使用料の定めは文化庁長官の認可制となっていたのであり、著作権等管理事業法の下にお いては、業務を行うには登録で足りることになり、使用料規程も文化庁長官への届出制と なったものの、その内容の適正さを確保すべき種々の制度上の担保が存在するのであって、 控訴人の定款(乙7)では、決算において収入が支出を超過する場合の収支差額金がある ときは、必ず著作物使用料の関係権利者に分配することとされており(第49条1項)、 営利企業のように処分することはできない。このようなことからすると、レコード会社、 音楽出版会社、テレビ局等の営利企業は、音楽著作物を利用することで収益を上げ、仮に 利用した音楽著作物が結果として他の著作権を侵害する事態となった場合でもリスクを分 散し得る方策を有するのに対し、控訴人は、そのような組織原理を有しておらず、両者を 直ちに同列に論ずることは困難である。よって、上記ポニーキャニオンなどに対する請求 が一部認容されたからといって、本件における控訴人の責任を肯定すべきことにはならな い。  4 結論  本件控訴は理由があるので、原判決中、被控訴人の請求を一部認容した部分を取り消し た上で、請求を棄却すべきであり、一方、被控訴人の本件附帯控訴は、理由がないので棄 却されるべきであるとともに、被控訴人が当審で拡張した請求も理由がなく棄却されるべ きである。 東京高等裁判所知的財産第4部 裁判長裁判官 塚原 朋一    裁判官 田中 昌利    裁判官 佐藤 達文