・東京地判平成17年5月12日  「個人旅行」事件:第一審  本件において、原告(有限会社博天社)は、被告(株式会社昭文社)の出版・販売に係 る「個人旅行」シリーズと題する国・地域別旅行案内書(被告書籍)の第9版を納品し、 さらに、被告の出版・販売する旅行ガイドブック「まっぷるマガジン国内版『金沢』」に 掲載する写真(本件写真)を被告に売り渡したとして、被告に対し、被告書籍第9版の制 作委託契約及び本件写真の売買契約に基づき、被告書籍第9版の編集等の報酬863万1 000円及び本件写真の対価157万5000円の合計1020万6000円のうち未払 金750万円及びこれに対する遅延損害金ないし利息の支払を求めた事案。  これに対して、被告は、被告書籍第9版の制作委託契約を締結した相手方は原告ではな く、株式会社ケイ・アンド・ビー・パブリッシャーズ(K&B)であった。仮に、上記制 作委託契約の締結相手が原告であったとしても、原告が納品した被告書籍第9版に掲載さ れた各地の空港案内図(「第9版本件空港案内図」)は、株式会社オーエフシー(「OF C」)の著作権を侵害し又はこれを利用したものであったから債務の本旨に従った履行が なされていないとして、原告の被告書籍第9版の編集等の報酬支払請求権の発生を争い、 さらに、仮に、原告が被告書籍第9版の編集等の報酬支払請求権を有していたとしても、 原告が制作・納品した被告書籍(被告書籍第9版より前に制作・納品した被告書籍を含む) に掲載された各空港案内図が、OFCの著作権を侵害していたために、被告は、OFCに 対して解決金750万円を支払わざるを得なかったから、被告は、原告に対して750万 円の反対債権(原告と被告との間の支払合意に基づく支払請求権、債務不履行に基づく損 害賠償請求権、制作委託契約上の条項に基づく既払報酬返還請求権ないし不法行為を理由 とする損害賠償請求権)を有しており、被告は、原告に対し、平成15年10月15日付 の書面で、上記債権をもって原告の被告に対する上記未払金債権と対当額で相殺した(甲 3)ことにより消滅したとして、原告の請求を争った。  判決は、「原告は本件制作委託契約及び本件写真の売買契約(ないしは制作委託契約) に基づく債務を履行しているものと認められるから、被告に対する上記未払金750万円 の支払請求権が存在」するとして、原告の請求を認容した。 (控訴審:知財高判平成18年5月31日) ■争 点 (1) 原告の被告に対する報酬支払請求権の有無  ア 原告と被告との間で、被告書籍第9版の制作委託契約が締結されたか(争点1)  イ 原告がK&Bから被告書籍第9版の制作に関する報酬債権を譲り受けた事実の存否 (争点2)  ウ 原告が被告書籍第9版を納品したことが本件制作委託契約の債務の本旨に従った債 務の履行といえるか  (ア) 被告書籍第9版に掲載された第9版本件空港案内図がOFC空港案内図に係るO FCの著作権を侵害しているか(争点3)  (イ) 原告が第9版本件空港案内図の制作に当たって他人の出版物を利用した債務不履 行の存否  a 本件制作委託契約上、原告が、著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物 を利用してはならない義務を負っていたか(争点4)  b 原告が、第9版本件空港案内図の制作においてOFC空港案内図を利用した事実の 存否(争点5) (2) 被告の原告に対する反対債権の有無  ア 原告と被告との間で被告書籍の出版に関してOFCに対して支払うべき金員を原 告が負担する旨の合意があったか(争点6)  イ 債務不履行に基づく損害賠償請求権の有無  (ア) 原告の制作した本件空港案内図がOFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害 しているといえるか(争点7)  (イ) 原告が本件空港案内図の制作に当たって他人の出版物を利用した債務不履行の存 否  a 本件制作委託契約上、原告が、著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物 を利用してはならない義務を負っていたか(争点8)  b 原告が、本件空港案内図の制作においてOFC空港案内図を利用した事実の存否 (争点9)  (ウ) 原告の債務不履行による損害の有無及び額(争点10)  (エ) 原告の債務不履行と被告の損害との因果関係の有無(争点11)  ウ 本件基本契約(乙5)第8項第2項イに基づく支払済み報酬返還請求権の有無(争 点12)   エ 原告が本件空港案内図を掲載して被告書籍を制作、納品したことが、被告ないしO FCに対する不法行為に該当するか(争点13)  ■判決文 1 争点1(原告と被告との間で、被告書籍第9版の制作委託契約が締結されたか)  (1) 証拠(甲1の1ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成13年4月 20日、原告に対して被告書籍第9版の制作を発注していることが認められ、証拠(甲2 の1ないし10)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告から平成15年3月31日、 被告書籍第9版の制作に対する報酬を請求され、原告に上記報酬の一部を支払った事実が 認められる。他方、被告書籍第9版の制作委託契約が、被告の主張するとおり、K&Bと 被告ないしK&Bと原告と被告との間で締結されたものであったとすれば、被告がK&B に対して上記報酬の一部を支払ったか、あるいは被告とK&Bとの間で報酬の支払をめぐ ってのやりとりが行われた事実が当然認められるべきところ、本件においては、そのよう な事情の存在をうかがわせる証拠はない。  以上によれば、被告書籍第9版の制作委託契約(本件制作委託契約)は、遅くとも平成 13年4月20日までの間に、原告と被告との間で締結されたものと認めるのが相当であ る。  (2) たしかに、本件制作委託契約締結後に同契約等に関して作成された平成14年9 月30日付合意書(乙6)には、原告のみならずK&Bも受注者として記載されている。 しかし、同合意書は、被告書籍第9版の制作委託契約(本件制作委託契約)のみならず、 マガジン海外版、マガジン箱根平成15年版の仕様変更分等の制作委託、従前の被告書籍 に掲載された写真や記事に関する今後の使用についての取決め等を含むものであり、少な くとも平成10年ころまではK&Bが被告書籍の制作を委託されていたこと、被告書籍第 9版に関しては原告がK&Bに制作を再委託していること(弁論の全趣旨)に照らせば、 同合意書に受注者としてK&Bも記載されていることをもって、上記認定事実を覆すには 足りない。  また、被告は、被告書籍第9版の奥付の記載や本件訴訟に至る経緯において、K&Bの 代表者であるDが交渉に当たっていた事実を指摘するが、いずれも上記認定事実を覆すに は足りない。  なお、被告書籍第9版の制作委託契約上の報酬支払期日は、平成15年4月末日とされ ている(甲2の1)。  (3) 以上のとおり、被告書籍第9版の制作委託契約(本件制作委託契約)は、原告と 被告との間で締結されたものと認めるのが相当である。  2 争点3(被告書籍第9版に掲載された第9版本件空港案内図がOFC空港案内図に係 るOFCの著作権を侵害しているといえるか)  (1) OFC空港案内図の著作物性  ア 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又 は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。本件で問題となっている空 港案内図は、実際に存在する建築物の構造を描写の対象とするものである。実際に存在す る建築物の構造を描写の対象とする間取り図、案内図等の図面等であっても、採り上げる 情報の選択や具体的な表現方法に作成者の個性が表れており、この点において作成者の思 想又は感情が創作的に表現されている場合には、著作物に該当するということができる。  もっとも、空港案内図は、実際に存在する建築物である空港建物等を主な描写対象とし ているというだけでなく、空港利用者に対して実際に空港施設を利用する上で有用な情報 を提供することを目的とするものであって、空港利用者の実用に供するという性質上、選 択される情報の範囲が自ずと定まり、表現方法についても、機能性を重視して、客観的事 実に忠実に、線引き、枠取り、文字やアイコンによる簡略化した施設名称の記載等の方法 で作成されるのが一般的であるから、情報の取捨選択や表現方法の選択の幅は狭く、作成 者の創作的な表現を付加する余地は少ないというべきである。  イ 本件において、第9版本件空港案内図のうち証拠として提出されているものは4つ あるが、当該空港案内図の描写対象となっている空港は、@チューリッヒ・クローテン空 港(乙21の1)、Aマドリッド・バラハス国際空港(乙22の1)、Bバルセロナ・プ ラット国際空港(乙23)及びCベルリン・テーゲル国際空港(乙24の1)の4空港で ある。  上記4空港に対応するOFC空港案内図は、@乙8の1(チューリッヒ・クローテン空 港。OFC書籍平成8年版に掲載)、A乙9の1(マドリッド・バラハス国際空港。OF C書籍平成8年版に掲載)、B乙10の1(バルセロナ・プラット国際空港。OFC書籍 平成8年版に掲載)、C乙11の1(ベルリン・テーゲル国際空港OFC書籍平成8年版 に掲載)の4つである(以下、上記4つのOFC空港案内図を、「第9版対応OFC空港 案内図」という。)。  そこで、以下、第9版対応OFC空港案内図の著作物性について検討する。  ウ 証拠(乙51、52)によれば、OFCから第9版OFC空港案内図の制作委託を 受けた株式会社ワークショップ21の従業員であったI(以下「I」という。)は、概ね 次のような手順で第9版対応OFC空港案内図を作成したものと認められる。  (ア) 資料収集   各国の在日観光局、各空港の管理会社、日本空港の関連会社等から収集した資料及び 現地を取材して、簡単な略図を作成し、写真を撮影する。  (イ) 表示する区画及び構成の決定   渡航者の便宜と紙面のスペースの観点から、ターミナル内のうちどの区画を図面化す るかを決定する。空港建物は、3次元の構造物で、通常のビルと異なり、各階が同じ大き さのフロアとは限らず、中2階、中3階、ベランダ状のフロアが存在していたり、それら のフロアがエスカレーターや階段で接続されているなど複雑な構造物となっていることが 多い。このため、まず、空港建物をどのように分割し、どの区画とどの区画を合わせて1 枚の図面として表すかを決定する。  (ウ) 表示する情報の選択   図面化することが決定した区画内にある施設等の中から渡航者に必要と思われる施設、 必要のない施設(利用頻度の低い階段やエレベーター、渡航者が利用する通路の反対側に あるショップ等)を選別し、後者については表示しない。なお、OFC書籍平成8年度版 からは、海外旅行客の増加に伴い、乗り継ぎの必要が高まるであろうと考えて、取材先各 空港の乗り継ぎカウンターの場所及びそこまでの経路に関する情報を重点的に掲載するこ とにした。   電話ボックス、トイレ、両替所等空港内に必ず設置されている施設については、比較 的利用頻度の高そうな電話ボックス、トイレ、両替所のみを表記した。   渡航者が探すことはまずないと考えられる待合室、ベンチ、搭乗ゲートはほぼすべて 省略した。また、柱、壁の厚み等も省略した。  (エ) 表示方法について   記載対象とする施設のうち、渡航者に必要なものは強調して表示するようにした。ま た、手荷物受取所と税関の間の通路が狭い場合には、意図的に手荷物受取所及び税関の設 備を大きく表示するなどした(ホーチミン空港、ホノルル空港。逆に、意図的に税関の設備の数を減らすとともに小さく表示して通路が広いことを示したのがデンパサール空港。)。  (オ) 客観的事実以外の情報の表示について  実際の施設に存在するものではないが、渡航者が各空港で受けるべき手続の流れに沿っ て動線を記載した。各空港において、渡航者が受けるべき手続の流れは異なっており(例 えば、モスクワのシェレメチェボ空港においては、搭乗の際にまず税関検査を受けてから 空港会社のカウンターでチェックイン手続を行なう。乙52の別紙6。)、このような動 線も綿密な調査に基づいて行なった。  同じく、渡航者の立入が禁止されているエリアと立入可能なエリアを色分けして表示し た。各空港の立入禁止とするか否かの基準は必ずしも一定しておらず、いずれに分類する かについて、独自に判断した(例えば、アメリカのように航空券を持っていなくてもゲー トまで立入ることができる場合に、ゲートまでの区画を立入禁止とするか否かは、迷うと ころであったが、Iは、立入可能区画として色を表示した。)。  エ 証拠(甲6、7の1、2、11、12、乙8の1、9の1、10の1、11の1、 乙51、57、58)及び弁論の全趣旨によれば、第9版対応OFC空港案内図の概要は、 概ね次のとおりである。  (ア) チューリッヒ・クローテン空港のOFC空港案内図(乙8の1)   ターミナル、駐車場、オペレーションセンター及び敷地内道路等各種空港敷地内設備 のうち、ターミナル部分を、ターミナルA及びBの各1階部分、ターミナルBの3階部分、 ターミナルA及びBの各2階部分の3つのフロア図に分けて図面化して、3階部分の図を 1階部分と2階部分との間に配置し、実際の空港の形状に忠実な形状を直線による枠囲み で表示したものである。   ターミナル内のフロアについては、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域及 び一般客には関係のない区域に色分けし、それぞれに黄緑色、白色、灰色を配色している。   主な施設は枠で囲んで水色に配色して表示するか、枠で囲まずに所在場所付近に、文 字(日本語と英語の併記)又はアイコンで施設の名称を記載して表示している。掲載され た施設は、トイレ、レストラン、薬屋、売店、新聞スタンド、育児室、チェックインカウ ンター、乗継ぎカウンター、出発バス・ゲート、手荷物受取所、税関、遺失物取扱所、両 替所、ホテル予約、手荷物一時預所、花屋、コインロッカー、公衆電話、ホテルバス乗り 場、警察、出国審査、入国審査、セキュリティチェック、免税手続所等である。   フロア部分には、出発客の順路が灰色の矢印で記載されており、到着客の順路が青色 の矢印で記載されている。  (イ) マドリッド・バラハス空港のOFC空港案内図(乙9の1)   国際線ターミナル、国内線ターミナル、駐車場、敷地内道路等各種空港敷地内設備の うち、国際線ターミナル部分を、1階部分、2階部分の2つのフロア図に分けて、実際の 空港の形状に忠実な形状を直線ないし弧線による枠囲みで表示したものである。   ターミナル内のフロアについては、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域及 び一般客には関係のない区域に色分けし、それぞれに黄緑色、白色、灰色を配色している。   主な施設は枠で囲んで水色に配色して表示するか、枠で囲まずに所在場所付近に、文 字(日本語と英語の併記)又はアイコンで施設の名称を記載して表示している。掲載され た施設は、トイレ、レストラン、売店、チケッティングカウンター、チェックインカウン ター、乗り継ぎカウンター、手荷物受取所、税関、両替所、レンタカー、手荷物一時預所、 ホテル案内、スペイン国鉄チケット売り場、出国審査、入国審査、セキュリティチェック、 インフォメーション等である。   フロア部分には、出発客の順路が灰色の矢印で記載されており、到着客の順路が青色 の矢印で記載されている。  (ウ) バルセロナ・プラット空港のOFC空港案内図(乙10の1)   ターミナル、駐車場、敷地内道路等各種空港敷地内設備のうち、ターミナル部分を、 1階部分、2階部分の2つのフロア図に分けて、実際の空港の形状に忠実な形状を直線に よる枠囲みで表示したものである。   ターミナル内のフロアについては、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域及 び一般客には関係のない区域に色分けし、それぞれに黄緑色、白色、灰色を配色している。   主な施設は枠で囲んで水色に配色して表示するか、枠で囲まずに所在場所付近に、文 字(日本語と英語の併記)又はアイコンで施設の名称を記載して表示している。掲載され た施設は、トイレ、レストラン、本屋、売店、育児室、チケッティング・チェックインカ ウンター、乗り継ぎカウンター、手荷物受取所、税関、両替所、レンタカー、出国審査、 入国審査、セキュリティチェック、待合室、動く歩道、エスカレーター等である。   フロア部分には、出発客の順路が灰色の矢印で記載されており、到着客の順路が青色 の矢印で記載されている。  (エ) ベルリン・テーゲル空港のOFC空港案内図(乙11の1)   ターミナル、駐車場、敷地内道路等各種空港敷地内設備のうち、ターミナル1階部分 のフロア図を、実際の空港の形状に忠実な形状を直線による枠囲みで表示したものである。   ターミナル内のフロアについては、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域及 び一般客には関係のない区域に色分けし、それぞれに黄緑色、白色、灰色を配色している。   主な施設は枠で囲んで水色に配色して表示するか、枠で囲まずに所在場所付近に、文 字(日本語と英語の併記)又はアイコンで施設の名称を記載して表示している。掲載され た施設は、トイレ、レストラン、育児室、売店、警察、手荷物受取所、両替所、遺失物保 管所、公衆電話、授乳室、バスチケット販売所等である。   フロア部分には、出発客の順路が灰色の矢印で記載されており、到着客の順路が青色 の矢印で記載されている。  オ 上記イ、ウ記載の認定事実によれば、第9版対応OFC空港案内図は、@ターミナ ル部分をどのように区分して図にするか(ただし、チューリッヒ・クローテン空港以外は、 単に1階部分、2階部分に分けるか、1階部分のみを記載するものであって、この点に創 作性は認められない。チューリッヒ・クローテン空港については、建物構造が比較的複雑 なことから、どのように区分して図面化するかは選択の余地があるものの、OFC空港案 内図においては、1階部分、2階部分、3階部分に区分したにすぎず、この点に関する創 作性は、限定的な範囲においてのみ認め得るものというべきである。)、Aフロア内施設 又はフロア部分の色分けをどのようにするか(ただし、フロア部分を色分けする手法は、 原告、OFC以外の者による空港案内図でも多く採用されている一般的な手法であり(甲 8の1、2、9の1、2、12、乙51)、フロア内の施設を色分けする手法も、原告、 OFC以外の者による空港案内図でも採用されている手法であるから(甲6、7の1、2)、 区分けの仕方、具体的な色遣い等について個性が表れるとしても、この点に関する創作性 は、限定的な範囲においてのみ認め得るものというべきである。)、Bいかなる施設を掲 載するか(ただし、第9版対応OFC空港案内図において掲載された施設は、いずれも、 空港利用者が利用する頻度が高いであろうことが予想される施設であって、見やすさ、レ イアウトとの関係で、掲載するか否かに選択の余地はあるものの、この点に関する創作性 は、限定的な範囲においてのみ認め得るものというべきである。)、C利用客の順路を出 発客、到着客毎に色分けして表示している点(ただし、利用客の順路を矢印で表示するこ と自体は、原告、OFC以外の者による空港案内図でも多く採用されている一般的な手法 であり、これを出発客、到着客毎に色分けする手法もよく用いられるものであるから(甲 6、7の1、2、8の1、2、12、乙51、乙58)、この点に関する創作性は、限定 的な範囲においてのみ認め得るものというべきである。)及びD上記@ないしCを総合し た結果としての見やすさの点において創作性を認めることができるから、一応、著作物に 当たるものと認めることができる。  (2) 第9版本件空港案内図が第9版対応OFC空港案内図の著作権を侵害していると いえるか  ア 第9版本件空港案内図が第9版対応OFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害 しているというためには、第9版本件空港案内図の制作者がOFC空港案内図に接し、こ れに依拠して第9版本件空港案内図を制作したことのほかに、その結果制作された第9版 本件空港案内図が、第9版対応OFC空港案内図に類似し、第9版本件空港案内図を見る 者が第9版対応OFC空港案内図の創作的表現における特徴を感得し得るものであること を要する。  そこで、以下、第9版本件空港案内図と第9版対応OFC空港案内図の依拠性及び類似 性について判断する。   イ 依拠性について  原告は、本件空港案内図の作成に当たって、OFC空港案内図を参考にしたことを認め ており、本件空港案内図の作成経緯について有効な主張、立証をしないから、弁論の全趣 旨によれば、原告から委託を受けたK&Bは、本件空港案内図の作成に当たっては、OF C空港案内図を参照したものと認められ、第9版本件空港案内図の作成においても、第9 版対応OFC空港案内図を参照したものと認められる。したがって、第9版本件空港案内 図から、第9版対応OFC空港案内図における創作的表現部分についての特徴を感得し得 る場合には、依拠性を認めることができる。  ウ 類似性について  そこで、次に、上記(1)において認定した第9版対応OFC空港案内図の内容及びその 創作的表現部分等との対比において、第9版本件空港案内図が第9版対応OFC空港案内 図に類似し、第9版本件空港案内図を見る者が第9版対応OFC空港案内図の創作的表現 における特徴を感得し得るものであることを要するかどうかを、検討する。  (ア) チューリッヒ・クローテン空港の第9版本件空港案内図(乙21の1)について ((ア)において、「本件空港案内図」というときは上記空港案内図を指し、「OFC空港 案内図」というときはこれに対応する第9版対応OFC空港案内図を指す。)  a 本件空港案内図の内容  本件空港案内図は、ターミナル、駐車場、オペレーションセンター、敷地内道路等各種 空港敷地内設備のうち、ターミナル部分1階に隣接されている部分を、ターミナルA及び Bの1階部分及び敷地内道路の一部、ターミナルA及びBの2階部分、ターミナルBの3 階部分の3つのフロア図に分けて図面化し、1階部分、2階部分、3階部分を順番に並べ、 実際の空港の形状に忠実な形状を直線による枠囲みで、右斜め上の方向から見た角度で斜 めに表示したものである。  ターミナル内のフロアについては、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域及び 一般客には関係のない区域に色分けし、それぞれに桃色、肌色、黄色を配色している。  主な施設は枠で囲んで紫色又は黄緑色に配色して表示するか、枠で囲まずに所在場所付 近に、文字(日本語)又はアイコンで施設の名称を記載して表示している。掲載された施 設は、手荷物受取所、税関、ホテル予約、手荷物一時預所、チェックインカウンター、乗 り継ぎカウンター、警察、薬局、トイレ、レストラン、売店、バス・ゲート、遺失物取扱 所、両替所、旅行代理店KUONI、公衆電話、ホテルバス乗り場、出国審査、入国審査、 免税手続所、有料テラス、携帯電話レンタル等である。  フロア部分では、出発客の順路が緑色の矢印で記載されており、到着客の順路が赤色の 矢印で記載されている。  b OFC空港案内図との共通部分   @ ターミナル、駐車場、オペレーションセンター、敷地内道路等各種空港敷地内設 備のうち、ターミナル部分を主として描写の対象としている。   A ターミナル部分を、ターミナルA及びBの各1階部分、ターミナルA及びBの各 2階部分、ターミナルBの3階部分の3つのフロア図に分けて図面化している。   B 実際の空港の形状に忠実な形状を直線による枠囲みで表示している。   C ターミナル内のフロアについて、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域 及び一般客には関係のない区域に色分けしている。   D 手荷物受取所、税関、ホテル予約、手荷物一時預所、チェックインカウンター、 乗り継ぎカウンター、警察、薬局、トイレ、レストラン、売店、出発バス・ゲート、遺失 物取扱所、両替所、公衆電話、ホテルバス乗り場、出国審査、入国審査、免税手続所が掲 載されている。   E Dの情報を、文字又はアイコンによって表示している。   F 出発客の順路と出発客の順路を色分けしている。  c OFC空港案内図との相違部分  @ OFC空港案内図では敷地内道路は記載されていないのに対し、本件空港案内図は、 敷地内道路のうちターミナル部分1階に隣接されている部分を、ターミナルA及びBの1 階部分の図面の中に記載している。   A OFC空港案内図は、3階部分の図を1階部分と2階部分との間に配置している のに対し、本件空港案内図は、1階部分、2階部分、3階部分の順番に配置している。   B OFC空港案内図は、空港ターミナルを真上から見た角度で記載しているが、本 件空港案内図は、右斜め上の方向から見た角度で斜めに表示している。   C ターミナル内のフロアの色分けの色が、OFC空港案内図では黄緑色、灰色、白 色であるが、本件空港案内図では桃色、黄色、肌色である。   D 施設部分が紫色と黄緑色に色分けされている。   E 情報を示す文字について、OFC空港案内図は日本語と英語を併記しているが、 本件空港案内図は日本語のみである。また、本件空港案内図の文字の方が大きく、フロア 部分の枠線に比して太字で濃く表示されている。   F OFC空港案内図には新聞スタンド、育児室、セキュリティチェック、花屋、コ インロッカーが掲載されているが本件空港案内図には掲載されていない。   G 本件空港案内図には、有料テラス、旅行代理店KUONI、携帯電話レンタルが 掲載されているが、OFC空港案内図には掲載されていない。   H 矢印の位置、色が異なる。  d 著作権侵害の成否   本件空港案内図とOFC空港案内図は、ターミナル部分をどのように区分して図面化 するかという点で、前記b@Aの共通点を有するが、かかる手法は、空港案内図を作成す る際の極めて一般的な手法であり、この点をもって第9版対応OFC空港案内図の創作的 表現部分における特徴ということはできない。むしろ、上記両空港案内図は、前記c@A Bの相違点を有しており、特に前記cAの点においては、OFC空港案内図独自の工夫と みられる点を備えていないということができる。   上記両空港案内図は、フロア及びフロア内施設の具体的な表現方法という点で、前記 bBCの共通点を有しているが、同Bの手法は、空港案内図を作成する際の極めて一般的 な手法であり、同Cの手法は、前記(1)オ記載のとおり、OFC以外の者による空港案内 図でも多く採用されている一般的な手法であり、この点をもってOFC空港案内図の創作 的表現部分における特徴とはいうことはできない。むしろ、上記両空港案内図は、前記c CDEの相違点を有しており、殊に、第9版本件空港案内図の方が、施設の名称を表示す る文字が大きく、フロア部分の枠線に比して太字で濃い点において、見やすさや与える印 象に差異を生じている。   上記両空港案内図は、施設情報の選択という点で、前記bDの共通点を有するが、こ れらの掲載情報は、いずれも創作的表現部分における特徴とはいえない。むしろ、上記両 空港案内図は、前記cFGの点で相違点を有している。   上記両空港案内図は、前記bFの点で共通点を有するが、この手法は、前記(1)オ記載 のとおり、よく用いられる手法であるから、この点をもってOFC空港案内図の創作的表 現部分における特徴とはいえない。   前記bEの点については、そもそも創作性が認められない。   また、上記両空港案内図は、前記cHの点で相違している。   そうすると、上記両空港案内図は、共通している部分については、空港案内図を作成 する際によく用いられる一般的な手法であって、OFC空港案内図の創作的表現部分にお ける特徴とは言い難く、むしろ、施設名称の具体的表記方法や全体の配色等によって、異 なる印象を与えるものであるから、本件空港案内図を見る者がOFC空港案内図の創作的 表現における特徴を感得し得るということはできない。  (イ) マドリッド・バラハス空港の第9版本件空港案内図(乙22の1)について ((イ)において、「本件空港案内図」というときは上記空港案内図を指し、「OFC空港 案内図」というときはこれに対応する第9版対応OFC空港案内図を指す。)  a 本件空港案内図の内容  国際線ターミナル、国内線ターミナル、駐車場、敷地内道路等各種空港敷地内設備のう ち、国際線ターミナル部分を、1階部分、2階部分の2つのフロア図に分けて、実際の空 港の形状に忠実な形状を直線ないし弧線による枠囲みで、右斜め上の方向から見た角度で 斜めに表示したものである。  ターミナル内のフロアについては、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域に色 分けし、それぞれに桃色、肌色を配色している。  主な施設は枠で囲んで紫色又は黄緑色に配色して表示するか、枠で囲まずに所在場所付 近に、文字(日本語)又はアイコンで施設の名称を記載して表示している。掲載された施 設は、トイレ、チェックインカウンター、手荷物受取所、税関、両替所、レンタカー、ホ テル案内、スペイン国鉄(レンフェ)チケット売り場、出国審査、入国審査、セキュリテ ィチェック、インフォメーション、ATM、イベリア航空インフォメーション、遺失物取 扱所等である。   フロア部分には、矢印の記載はない。  b OFC空港案内図との共通部分   @ ターミナル、駐車場、オペレーションセンター、敷地内道路等各種空港敷地内設 備のうち、ターミナル部分を描写の対象としている。   A 国際線ターミナル部分を、1階部分、2階部分の2つのフロア図に分けている。   B 実際の空港の形状に忠実な形状を直線ないし弧線による枠囲みで表示している。   C ターミナル内のフロアについて、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域 に色分けしている。   D トイレ、チェックインカウンター、手荷物受取所、税関、両替所、レンタカー、 ホテル案内、スペイン国鉄(レンフェ)チケット売り場、入国審査、セキュリティチェッ ク、インフォメーションが掲載されている。   E Dの情報を、文字又はアイコンによって表示している。  c OFC空港案内図との相違部分   @ OFC空港案内図は、空港ターミナルを真上から見た角度で記載しているが、本 件空港案内図は、右斜め上の方向から見た角度で斜めに表示している。   A ターミナル内のフロアの色分けの色が、OFC空港案内図では黄緑色、灰色、白 色であるが、本件空港案内図では桃色、肌色である。   B OFC空港案内図では、施設部分の配色は水色であるが、本件空港案内図は、施 設部分が紫色と黄緑色に色分けされている。   C 情報を示す文字について、OFC空港案内図は日本語と英語を併記しているが、 本件空港案内図は日本語のみである。また、本件空港案内図の文字の方が大きく、フロア 部分の枠線に比して太字で濃く表示されている。   D OFC空港案内図にはレストラン、本屋、売店、育児室、チケッティングカウン ター、乗り継ぎカウンター、手荷物一時預所、が掲載されているが本件空港案内図には掲 載されていない。   E 本件空港案内図には、ATM、イベリア航空のインフォメーション、遺失物取扱 所が掲載されているが、OFC空港案内図には掲載されていない。   F OFC空港案内図には出発客の順路を到着客の順路を色分けした矢印が記載され ているが、本件空港案内図には記載されていない。  d 著作権侵害の成否  本件空港案内図とOFC空港案内図は、ターミナル部分をどのように区分して図面化す るかという点で、前記b@Aの共通点を有するが、かかる手法は、空港案内図を作成する 際の極めて一般的な手法であり、この点をもってOFC空港案内図の創作的表現部分にお ける特徴ということはできない。むしろ、上記両空港案内図は、前記c@の相違点を有し ている。  上記両空港案内図は、フロア及びフロア内施設の具体的な表現方法という点で、前記b BCの共通点を有しているが、同Bの手法は、空港案内図を作成する際の極めて一般的な 手法であり、同Cの手法は、前記(1)オ記載のとおり、OFC以外の者による空港案内図 でも多く採用されている一般的な手法であり、この点をもってOFC空港案内図の創作的 表現部分における特徴ということはできない。むしろ、上記両空港案内図は、前記cAB Cの相違点を有しており、殊に、第9版本件空港案内図の方が、施設の名称を表示する文 字が大きく、フロア部分の枠線に比して太字で濃い点において、見やすさや与える印象に 差異を生じている。  上記両空港案内図は、施設情報の選択という点で、前記bDの共通点を有するが、これ らの掲載情報は、いずれも創作的表現部分における特徴とはいえない。むしろ、上記両空 港案内図は、前記cDEの点で相違点を有している。  前記bEの点については、そもそも創作性が認められない。   また、上記空港案内図は、前記cFの相違点がある。  そうすると、上記両空港案内図は、共通している部分については、空港案内図を作成す る際によく用いられる一般的な手法であって、OFC空港案内図の創作的表現部分におけ る特徴とは言い難く、むしろ、施設名称の具体的表記方法や全体の配色等によって、異な る印象を与えるものであるから、本件空港案内図を見る者がOFC空港案内図の創作的表 現における特徴を感得し得るということはできない。  (ウ) バルセロナ・プラット空港の第9版本件空港案内図(乙23)について((ウ)に おいて、「本件空港案内図」というときは上記空港案内図を指し、「OFC空港案内図」 というときはこれに対応する第9版対応OFC空港案内図を指す。)  a 本件空港案内図の内容  ターミナル、駐車場、敷地内道路等各種空港敷地内設備のうち、ターミナル1階部分及 びこれに隣接する敷地内道路を、一つのフロア図として、実際の空港の形状に忠実な形状 を直線による枠囲みで、右斜め上の方向から見た角度で斜めに表示したものである。  ターミナル内のフロアについては、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域に色 分けし、それぞれに桃色、肌色を配色している。  主な施設は枠で囲んで紫色又は黄緑色に配色して表示するか、枠で囲まずに所在場所付 近に、文字(日本語)又はアイコンで施設の名称を記載して表示している。掲載された施 設は、トイレ、カフェ、チェックインカウンター、手荷物受取所、税関、両替所、レンタ カー、エスカレーター、ATM、レンフェ乗場、各インフォメーションの内容等である。  フロア部分には、出発客、到着客の順路を示す矢印は表示されていない。  b OFC空港案内図との共通部分  @ ターミナル、駐車場、オペレーションセンター、敷地内道路等各種空港敷地内設備 のうち、ターミナル部分及びこれに隣接する敷地内道路部分を描写の対象としている。  A ターミナル部分のうち1階部分を、図面化している。  B 実際の空港の形状に忠実な形状を直線による枠囲みで表示している。  C ターミナル内のフロアについて、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域に 色分けしている。  D トイレ、チェックインカウンター、手荷物受取所、税関、両替所、レンタカー、イ ンフォメーションが掲載されている。  E Dの情報を、文字又はアイコンによって表示している。  c OFC空港案内図との相違部分   @ OFC空港案内図は、1階部分、2階部分を掲載しているのに対し、本件空港案 内図は、1階部分のみ掲載している。   A OFC空港案内図は、空港ターミナルを真上から見た角度で記載しているが、本 件空港案内図は、右斜め上の方向から見た角度で斜めに表示している。   B ターミナル内のフロアの色分けの色が、OFC空港案内図では黄緑色、灰色、白 色であるが、本件空港案内図では桃色、肌色である。   C OFC空港案内図では施設部分が水色なのに対し、本件空港案内図は施設部分が 紫色と黄緑色である。   D 情報を示す文字について、OFC空港案内図は日本語と英語を併記しているが、 本件空港案内図は日本語のみである。また、本件空港案内図の文字の方が大きく、フロア 部分の枠線に比して太字で濃く表示されている。   E OFC空港案内図には1階部分の図の中に、売店、出国審査が掲載されているが、 本件空港案内図には掲載されていない。   F 本件空港案内図には、カフェ、ATM、レンフェ乗場、各インフォメーションの 種類が掲載されているが、OFC空港案内図の1階部分には掲載されていない。   G OFC空港案内図には、利用者の順路を示す矢印が表示されているが、本件空港 案内図には、レンフェ乗場方向に矢印が表示されているのみである。  d 著作権侵害の成否  本件空港案内図とOFC空港案内図は、ターミナル部分をどのように区分して図面化す るかという点で、前記b@Aの共通点を有するが、かかる手法は、空港案内図を作成する 際の極めて一般的な手法であり、この点をもってOFC空港案内図の創作的表現部分にお ける特徴ということはできない。むしろ、上記両空港案内図は、前記c@Aの相違点を有 している。  上記両空港案内図は、フロア及びフロア内施設の具体的な表現方法という点で、前記b BCの共通点を有しているが、同Bの手法は、空港案内図を作成する際の極めて一般的な 手法であり、同Cの手法は、前記(1)オ記載のとおり、OFC以外の者による空港案内図 でも多く採用されている一般的な手法であり、この点をもってOFC空港案内図の創作的 表現部分における特徴ということはできない。むしろ、上記両空港案内図は、前記cBC Dの相違点を有しており、殊に、第9版本件空港案内図の方が、施設の名称を表示する文 字が大きく、フロア部分の枠線に比して太字で濃い点において、見やすさや与える印象に 差異を生じている。  上記両空港案内図は、施設情報の選択という点で、前記bDの共通点を有するが、これ らの掲載情報は、いずれもOFC空港案内図の創作的表現部分における特徴とはいえない。 むしろ、上記両空港案内図は、前記cEFの点で相違点を有している。  前記bEの点については、そもそも創作性が認められない。  また、上記両空港案内図は、前記cGの点で相違している。  そうすると、上記両空港案内図は、共通している部分については、空港案内図を作成す る際によく用いられる一般的な手法であって、OFC空港案内図の創作的表現部分におけ る特徴とは言い難く、むしろ、施設名称の具体的表記方法や全体の配色等によって、異な る印象を与えるものであるから、本件空港案内図を見る者がOFC空港案内図の創作的表 現における特徴を感得し得るということはできない。  (エ) ベルリン・テーゲル空港の第9版本件空港案内図(乙24の1)について((エ) において、「本件空港案内図」というときは上記空港案内図を指し、「OFC空港案内図」 というときはこれに対応する第9版対応OFC空港案内図を指す。)  a 本件空港案内図の内容  ターミナル、駐車場、敷地内道路等各種空港敷地内設備のうち、ターミナル1階部分の フロア図を、実際の空港の形状に忠実な形状を直線による枠囲みで、右斜め上の方向から 見た角度で斜めに表示したものである。  ターミナル内のフロアについては、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域に色 分けし、それぞれに桃色、肌色を配色している。  主な施設は枠で囲んで紫色又は黄緑色に配色して表示するか、枠で囲まずに所在場所付 近に、文字(日本語)又はアイコンで施設の名称を記載して表示している。掲載された施 設は、トイレ、カフェ、両替所、税払戻し、インフォメーション等である。  フロア部分には、利用客の順路を示す矢印が2カ所記載されているのみである。  b OFC空港案内図との共通部分  @ ターミナル、駐車場、オペレーションセンター、敷地内道路等各種空港敷地内設備 のうち、ターミナル1階部分を描写の対象としている。   A ターミナル部分のうち1階部分を、図面化している。   B 実際の空港の形状に忠実な形状を直線による枠囲みで表示している。   C ターミナル内のフロアについて、一般客の立入禁止区域、一般客の立入可能区域 に色分けしている。   D トイレ、インフォメーションが掲載されている。   E Dの情報を、文字又はアイコンによって表示している。  c OFC空港案内図との相違部分  @ OFC空港案内図は、空港ターミナルを真上から見た角度で記載しているが、本件 空港案内図は、右斜め上の方向から見た角度で斜めに表示している。   A ターミナル内のフロアの色分けの色が、OFC空港案内図では黄緑色、灰色、白 色であるが、本件空港案内図では桃色、肌色である。   B OFC空港案内図では施設部分が水色なのに対し、本件空港案内図は施設部分が 紫色と黄緑色である。   C 情報を示す文字について、OFC空港案内図は日本語と英語を併記しているが、 本件空港案内図は日本語のみである。また、本件空港案内図の文字の方が大きく、フロア 部分の枠線に比して太字で濃く表示されている。   D OFC空港案内図には1階部分の図の中に、売店、手荷物一時預所、遺失物保管 場所、レストラン、育児室、警察、バスチケット販売所が掲載されているが、本件空港案 内図には掲載されていない。   E 本件空港案内図には、カフェ、税払戻しが掲載されているが、OFC空港案内図 の1階部分には掲載されていない。   F OFC空港案内図には、利用者の順路を示す矢印が表示されているが、本件空港 案内図には、16ないし19番ゲート方向及びその他一箇所に矢印が表示されているのみ である。  d 著作権侵害の成否  本件空港案内図とOFC空港案内図は、ターミナル部分をどのように区分して図面化す るかという点で、前記b@Aの共通点を有するが、かかる手法は、空港案内図を作成する 際の極めて一般的な手法であり、この点をもってOFC空港案内図の創作的表現部分にお ける特徴ということはできない。むしろ、上記両空港案内図は、前記c@の相違点を有し ている。  上記両空港案内図は、フロア及びフロア内施設の具体的な表現方法という点で、前記b BCの共通点を有しているが、同Bの手法は、空港案内図を作成する際の極めて一般的な 手法であり、同Cの手法は、前記(1)オ記載のとおり、OFC以外の者による空港案内図 でも多く採用されている一般的な手法であり、この点をもってOFC空港案内図の創作的 表現部分における特徴ということはできない。むしろ、上記両空港案内図は、前記cAB Cの相違点を有しており、殊に、第9版本件空港案内図の方が、施設の名称を表示する文 字が大きく、フロア部分の枠線に比して太字で濃い点において、見やすさや与える印象に 差異を生じている。  上記両空港案内図は、施設情報の選択という点で、前記bDの共通点を有するが、これ らの掲載情報は、いずれもOFC空港案内図の創作的表現部分における特徴とはいえない。 むしろ、上記両空港案内図は、前記cDEの点で相違点を有している。  前記bEの点については、そもそも創作性が認められない。  また、上記両空港案内図は、前記cFの点で相違している。  そうすると、上記両空港案内図は、共通している部分については、空港案内図を作成す る際によく用いられる一般的な手法であって、OFC空港案内図の創作的表現部分におけ る特徴とは言い難く、むしろ、施設名称の具体的表記方法や全体の配色等によって、異な る印象を与えるものであるから、本件空港案内図を見る者がOFC空港案内図の創作的表 現における特徴を感得し得るということはできない。  エ 小括   以上によれば、第9版本件空港案内図が第9版対応OFC空港案内図に係るOFCの 著作権を侵害しているということはできない。   よって、原告が被告書籍第9版の制作に当たりOFC空港案内図に係るOFCの著作 権を侵害したとして、債務の本旨に従った履行がなされていないとする被告の主張は、理 由がない。 3 争点4(本件制作委託契約上、原告が、著作権侵害に至らない態様であっても他人 の出版物を利用してはならない義務を負っていたか)  (1) 被告は、上記の義務が、委任契約上の善管注意義務の内容として、書籍の制作委 託契約上、当然に生じる一般的義務であると主張するので、まず、この点について判断す る。  一般に、旅行案内書の制作は、可能な限り数多くの資料を収集して分析、検討して行な うのが通常であるから(このことは、OFCの制作担当者の報告書からもうかがえる。乙 52。)、旅行案内書の制作委託契約上、制作受託者が、著作権侵害に至らない態様であ っても他人の出版物を使用しない義務を当然に負うものとはいえない。  (2) 次に、本件制作委託契約上、著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物 を使用しない旨の合意があったか否かにつき判断する。  ア 証拠(甲1の1ないし9、2の2ないし10、10、乙4、5、6)及び弁論の全 趣旨によれば、次の事実が認められる。  (ア) 被告は、一般旅行者向けガイドブックである「個人旅行」をシリーズ化して出版 することを企画した(被告書籍)。  (イ) 被告は、K&Bとの間で、平成6年ころ、被告書籍について、K&Bが被告書籍 の企画・構成・デザイン等編集に関連する一切の業務を行い、被告がこれに対して報酬を 支払う旨の制作委託契約(本件基本契約)を締結した。  K&Bは、本件基本契約に基づいて、本件空港案内図を作成、掲載して被告書籍を制作、 納品し、被告は、遅くとも平成8年ころから、被告書籍を販売した。  (ウ) 被告とK&Bは、平成9年3月28日、本件基本契約等において、被告がK&B に対して支払うべき報酬額について覚書きを作成した(乙4)。当該覚書きには、被告書 籍の再版について「取材は2年目から原則として毎年行い(3年目から反映)、年額とす る」旨の記載がある。  (エ) 被告とK&Bは、平成10年9月1日付で、被告書籍のうちハワイ、グアム、サ イパン等42タイトルについて、制作委託に関する契約書を作成した(乙5)。  同契約書には、K&Bの債務の内容として、初版については、「取材、企画・編集」等 の記載がなされ、再版・改訂版制作については、「被告は、本書の再版・改訂版の企画・ 構成・デザイン・編集等、編集制作に関連する一切の業務をK&Bに委託する」旨の記載 がなされた。上記初版の「取材」については、注意書きとして、「交通費、宿泊費、資料 代、入場料など必要経費を含む。また、K&Bは、取材したデータの名称、所在地等別途 様式に基づいたチェックをし、その時点において最新かつ正確な物件リストを作成、また 被告の指示した地図へのプロット作業を施すものとする。」旨の記載がなされた(乙5)。  (オ) 被告は、従来、K&Bに委託していた被告書籍の制作を、その後、K&Bの関連 会社である原告に委託することとし、平成13年4月20日、原告に対し、被告書籍第9 版のうちバリ島、オーストラリア、ニュージーランド等9タイトルについて、報酬863 万1000円で企画・編集を発注した(甲1の1ないし9)。原告は、K&Bに対し、被 告書籍第9版の制作を委託した。  (カ) 被告は、同年6月ころ、OFCから、OFC書籍に掲載されているOFC空港案 内図に極めて類似しているとの指摘を受けた。  (キ) K&Bは、原告の下請として被告書籍の制作を行なっていたが、K&Bと被告の 関係は円満ではなかった。Dは、平成14年ころ、被告書籍の制作業務を継続し難いと考 え、原告、被告と話合い、同年限りで被告書籍に関する契約を終了させたいと考えるよう になった(甲10)。  (ク) 原告、K&B及び被告は、平成14年9月30日、被告書籍、まっぷるマガジン 等の被告出版物に関し、次のとおり合意書を作成した(乙6)。  a 被告の原告及びK&Bへの今後の発注内容は次のとおりとする。   @ 被告書籍平成15年ないし平成16年版「ハワイ・韓国・サイパン等」26点の 再版   A マガジン国内版平成15ないし平成16年版「伊豆箱根・金沢」2点  b 原告及びK&Bは、被告出版物の再版等の制作にあたって、他人の著作物の著作権 を侵害したり、他の著作物の掲載情報を使用したりしないものとする。  c 既に制作した商品及び上記の今後制作する商品について、マガジンの販売期限を次 年度版出版までとし、被告書籍は、平成15年4月以降は増刷せず、平成16年4月以降 休刊していく。  d 被告は、今後、被告書籍及び海外マガジンに使用された写真及び記事を使用しない。 被告は、今後、国内マガジンに使用された写真及び記事を使用する場合は、原告に対し、 1巻につき150万円を支払う。原告及びK&Bは、被告出版物に使用した写真を他社の 出版物に記載ないし転用しない。  e 原告及びK&Bは、OFC著作権侵害問題の解決につき、被告の求めに応じて必要 な協力を行う。  (ケ) 原告は、平成15年3月31日、被告に対し、前記(オ)記載の被告書籍第9版を 完成させて納品し(甲2の2ないし10)、被告は、被告書籍第9版を出版した。  イ(ア) 本件制作委託契約締結時における合意内容について  上記認定事実によれば、被告とK&Bとの間で、平成9年3月28日に、被告書籍の再 版について、2年目から原則として取材を毎年行い、3年目から反映する旨の合意がなさ れ、平成10年9月1日に、少なくとも初版における取材とは、交通費、宿泊費、資料代、 入場料など必要経費を伴う現地取材を意味することを確認していることが認められる。  また、上記認定事実によれば、原告と被告との間の本件制作委託契約においては、被告 とK&Bとの間の合意内容が引き継がれているものと認められるから、本件制作委託契約 においても、少なくとも初版については、現地取材を行ない、2年目からも原則として取 材を行ない、3年目以降の再版に反映することが合意されていたものと認められる。  しかしながら、現地取材を行なうことと、制作受託者が著作権侵害に至らない態様であ っても他人の出版物を使用しない義務を負うこととは、同内容ではなく、上記事実から、 被告主張の義務を原告に負わせる旨の合意があったとは認められない。  その他、本件制作委託契約締結時までに、被告が主張するような著作権侵害に至らない 態様であっても他人の出版物を使用しない義務を原告に負わせる旨の合意がなされたこと をうかがわせる事情は存在しない。  (イ) 乙6の合意書に係る合意内容(前記ア(ク))について  原告及び被告は、平成13年4月20日に、本件制作委託契約を締結した後の平成14 年9月30日、原告、被告及びK&Bの間で、前記ア(ク)記載のとおり、被告書籍、まっ ぷるマガジン等の被告出版物に関し、合意書を作成し、同合意書には、「被告出版物の再 版等の制作にあたって、他人の著作物の著作権を侵害したり、他の著作物の掲載情報を使 用したりすることをしないものとする」旨記載された。  上記合意書は、被告がOFCから被告書籍について前記ア(カ)の指摘を受けた後に作成 されたものであり、被告書籍のOFCとの問題を意識して作成されたものであることは明 らかである。  もっとも、前記のとおり、旅行案内書の制作は、通常、数多くの資料を収集して、これ を分析・検討して行なわれるものであり、本件においては、次のような事情が認められる ことに鑑みれば、上記合意の趣旨を文言どおり、著作権侵害に当たらないような態様であ っても「他人の著作物の掲載情報を使用」しない旨の合意があったとは解し得ない。  すなわち、上記合意書が作成された経緯に関するDの陳述書(甲10)によれば、Dは、 上記記載部分を著作権侵害をしないという当たり前のことを確認的に記載したものと認識 していたことが認められ、弁論の全趣旨からは、被告も上記記載が確認的なものであった と認識していたことが認められる。また、上記合意書作成後、原告は、従前の本件空港案 内図を右斜め上の角度から見たように変更を加えた第9版本件空港案内図を掲載した被告 書籍第9版を制作して被告に納品したが、被告は、異議を述べることもなくこれを受領し て出版している(弁論の全趣旨)。さらに、仮に、「著作権侵害に当たらないような態様 であっても、他人の著作物の掲載情報を使用しない」という制作業務の遂行に極めて重大 な影響を与える合意内容であるとすれば、制作業務の遂行の際に生じる費用や報酬等につ いて何らかの取決めがなされてしかるべきところ、そのような事情はうかがわれない。  そうすると、乙6に係る合意書の上記文言部分の合意内容は、「被告書籍の制作におい て、第三者の著作権を侵害するなど第三者に損害を与える行為をしない」という程度の趣 旨であったというべきであり、原告と被告との間で、著作権侵害に当たらない態様であっ ても他人の著作物を使用しない旨の合意がなされたものとは認められない。  ウ 以上のとおり、本件制作委託契約上、原告と被告との間で、著作権侵害に至らない 態様であっても他人の出版物を使用しない旨の合意があったとは認められない。  (3) 小括  以上のとおり、委任契約上、一般的に、著作権侵害に至らない態様であっても他人の出 版物を使用しない義務が生じるとはいえず、本件制作委託契約上、著作権侵害に至らない 態様であっても他人の出版物を使用しない旨の合意があったとも認められないから、本件 制作委託契約上、原告が、著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を使用しな い義務を負っていたと認めることはできない。  よって、原告が被告書籍第9版の制作に当たり、第9版対応OFC空港案内図を参考と したことをもって、債務の本旨に従った履行がなされていない旨の被告の主張は理由がな い。 4 争点6(原告と被告との間で被告書籍の出版に関してOFCに対して支払うべき金員 を原告が負担する旨の合意があったか)  (1) 証拠(甲2の2ないし10、5、20、乙18(各枝番号)、19(各枝番号)、 26、54、55、56)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。  ア 被告従業員Gは、平成15年3月24日及び31日、Dと面談し、同月28日付で、 Dに対し、概ね次のような内容の書面を提示し、Dは、このうちb、cの部分に「OK」 と記載した(乙26)。  a 被告は、OFCに対し、OFCの要望を受け入れることはせずに法務専門家に委ね る旨の最終回答を行った。平成15年3月末に請求のあった被告書籍第9版に関する82 2万円について、OFCに対する支払額が確定するまで支払を保留させて頂きたい(なお、 当該部分には「今後先方法務専門家から改めてのご連絡以降となりますが、空港案内図の 著作権侵害の度合い等を改めて洗い直す準備をお願い致します。」との記載がある。)。  b 法務専門家による再検討では本件空港案内図作成状況の説明や資料提供等解決にご 尽力頂きたい。再検討によって支払額が確定した場合には負担部分について両社で書面を 作成させて頂きたい。  c 被告書籍8点及び「個人旅行会話」3点につき増刷決定した。イラク戦争のため、 印刷製本時期を見合わせた上、時期を見計らって速やかに印刷製本して頂きたい。  Gは、Dに対し、上記面談の際、口頭で、本件書籍第9版の報酬の支払延期を申入れた ところ、Dは、法律専門家を交えた話合いで決定した支払うべき額については文書を作成 した上必ず支払うので、本件書籍第9版の報酬は支払うよう要請した。また、本件写真の 代金についても支払うよう要請した。  イ 原告は、平成15年3月31日、被告に対し、被告書籍第9版を納品した(甲2の 2ないし10)。これらの被告書籍には、空港案内図(第9版本件空港案内図)が掲載さ れていた。  原告は、被告に対し、遅くとも同日までに、被告出版にかかる旅行ガイドブック「まっ ぷるマガジン国内版『金沢』」に掲載する写真(本件写真)を売買代金157万5000 円で売り渡した。  ウ OFCは、平成15年5月8日、内容証明郵便で、被告に対し、概ね次のような内 容の通知をした(乙18の1、2)。  「被告書籍のうち、トルコ、インドネシア等20冊に掲載されている本件空港案内図が、 OFC書籍に掲載されているOFC空港案内図(31空港分)を複製ないし一部改変した ものであり、被告は、これまでの交渉経緯において、そのことを認めているにもかかわら ず、上記本件空港案内図を掲載した被告書籍の販売を継続している。直ちに販売を中止し て書店等から回収するとともに、実施料相当額である1366万2000円を支払うよう 求める。また、被告は、被告書籍第9版においては、OFC空港案内図を複製ないし一部 改変したものではない空港案内図を掲載する旨約束したにも関わらず、被告書籍第9版の うち10冊に掲載されている第9版本件空港案内図は、OFC空港案内図の複製又はごく 一部を改変したものである。直ちに販売を中止して書店等から回収するとともに、実施料 相当額である74万4000円を支払うよう求める。」  エ Dは、OFCから上記のような請求があった旨の連絡を受け、原告及びK&Bの代 理人弁護士A、同B(以下「A弁護士」、「B弁護士」といい、両者を併せて「A弁護士 ら」という。)に意見を求めたところ、B弁護士は、著作権侵害に当たらない旨の見解を 示した。  Dは、C弁護士と面談し、上記B弁護士の見解を伝えると共に、今後は、A弁護士らと 協議してほしい旨述べた。  オ(ア) C弁護士は、平成15年7月3日付書面で、A弁護士らに対し、面談を申し込 み(乙54)、この面談において、A弁護士らは著作権侵害に当たらない旨の見解を述べ たが、C弁護士はこの見解に同意しなかった。  C弁護士は、上記面談後の同年7月13日、A弁護士らに対し、概ね次のような内容の 書面をファックス送信した(甲4)。  「A弁護士らは、先日の面談の際、空港内略図に著作物性がない旨の見解を示され、こ の点について、双方検討することになっていた。その後の見解を文書で示していただきた い。当方は、OFCから『独自の考えによる情報の取捨選択、見やすい表記方法に基づい て作成した』旨の主張を受けており、これを明確に覆す材料を有していない。他方、Dは OFC空港案内図を参考にしたことを認めながら、独自の調査で本件空港案内図を作成し たことを証明する資料を提出できないから、Dの主張は説得的でない。A弁護士らが、D に対し、著作権侵害がないという説得的な主張や証拠を、提示しない場合には、D側の著 作権侵害を前提とする解決をせざるを得ない。」  (イ) K&B従業員であるHは、同年7月24日、被告従業員Gに対し、概ね次のよう な内容のメールを送信した(乙55)。   「K&Bの顧問弁護士らから、『C弁護士が、著作権侵害にならない旨の解釈を理解 しないため、いくら話をしても結局振出しにもどってしまい進展しない。地図の出版を主 体とする被告の弁護士としての適正が危惧される。』旨の報告を受けています。被告の方 は、C弁護士からどのような報告を受けているでしょうか。この件について、Dは、J (被告の創業者兼大株主、現最高顧問)に直接説明することも辞さないと述べております ので、ご報告致します。」  (ウ) A弁護士らは、同年7月29日付で、C弁護士に対し、上記同年7月13日付け のファックス文書に対して概ね次のような内容の書面を送った(甲5)。   「当方は、OFC空港案内図には著作物性がないと判断しており、この点について新 たに検討すべき事項を有していない。貴職は、OFCが『独自の考えによる情報の取捨選 択、見やすい表記方法に基づいて作成した』と主張していることを根拠に、OFC空港案 内図が著作物であると判断されているようであるが、OFCは作成経緯に関する具体的な 事実を示していない。著作物性の判断は、具体的な認定に基づいて行うべきものである。 OFC空港案内図に記載されている情報はいずれも当然に記載されるべき事項であり、創 作性があるとは思えないが、C弁護士が、OFCの主張の方が説得的と考える具体的事実 をお示しいただきたい。なお、K&Bは、各空港作成のマップを元に現地調査をしており、 マップがない場合は略図を作成するなどしている。各空港会社は、ビル建設の際には自ら 案内図を作成して顧客に配布するのが通常であり、OFCがそのような資料を利用するこ となしにOFC案内図を作成しているとは思えないから、この点についてもOFCから具 体的な説明を受けるべきである。」  (エ) C弁護士、被告従業員K及びGは、話合いを行い、原告ないしK&B、A弁護士 らは交渉相手として信頼できないとの結論に至り、Dと平成13年6月から協議している にもかかわらず、反証材料の提供がないなどとして、DないしA弁護士らとの協議をうち 切ることにした(乙56)。  (オ) 被告は、OFCとの間で、平成15年9月25日、本件空港案内図に関して、次 のような内容を含む合意をし(乙19の各枝番)、同年10月15日、OFCに対して7 50万円を支払った。  a 被告は、OFCに対して、750万円を支払う。  b 被告は、被告書籍の出版を平成15年限りとし、今後増刷しない  c OFCは、被告が被告書籍平成15年版(被告書籍第9版)を販売することにつき 異議を述べない。  (2) 上記認定事実によれば、被告が原告の支払額負担の合意の根拠として指摘する乙 26には、「再検討によって支払額が確定した場合には負担部分について両社で書面を作 成させて頂きたい。」と記載されており、当該書面の文面からは、法律専門家の話し合い によってOFCに対する支払額が確定した後に、原告と被告との間で双方の負担部分につ いて書面を作成するという趣旨に解釈されるのであって、被告が主張するように、被告と OFCとの話合いによってOFCに対する支払額が確定した後に当該金額を全額原告が負 担するという意味に解することはできない。  また、上記認定のとおり、A弁護士らは、OFCに対する著作権侵害はない旨強く主張 しており、C弁護士に対してその旨説得している途中であったにもかかわらず、被告側の 一方的な判断で原告との話合いを打ち切り、A弁護士らを除外してOFCに対する支払額 を決定したのであるから、原告が、当該金額全額を支払う旨の合意があったとは到底認め られない。  したがって、原告と被告との間で被告書籍の出版に関してOFCに対して支払うべき金 員を原告が負担する旨の合意があったということはできない。  なお、被告は、本件制作委託契約上の代金支払時期を延期する旨の合意があった旨主張 するが、前記(1)ア記載の事実によれば、Dは、Gからの支払期限延期の申出を承諾して いないから、代金支払期限を延期する旨の合意があったとは認められない。  5 争点7(原告の制作した本件空港案内図がOFC空港案内図に係るOFCの著作権を 侵害しているといえるか)  別紙「空港案内図対比表」の「当裁判所の判断」欄記載のとおりであり、原告の制作し た本件空港案内図がOFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害しているとは、認めら れない。 6 争点8(本件制作委託契約上、原告が、著作権侵害に至らない態様であっても他人の 出版物を利用してはならない義務を負っていたか)  前記3記載のとおり、原告が著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を利用 してはならない義務を負っていたと認めるに足りる事実はない。 7 争点12(本件基本契約(乙5)第8項第2項イに基づく支払済み報酬返還請求権の 有無)  本件基本契約(乙5)第8項第2項には次の記載がある。  「甲(K&B)が下記事項に該当するとき、乙(被告)は前記の方法でこの契約を解除 し、甲は直ちに既に受領した対価全額と取材した写真や資料等すべてを乙に引渡し、さら に乙の損害を賠償するものとします。イ)本書が他人の著作権を侵害しているとき。」  もっとも、被告書籍に掲載された本件空港案内図がOFC空港案内図に係るOFCの著 作権を侵害しないことは前記5記載のとおりであるから、被告は、本件基本契約(乙5) 第8項第2項イに基づく支払済み報酬返還請求権を有しない。 8 争点13(原告が本件空港案内図を掲載して被告書籍を制作、納品したことが、被告 ないしOFCに対する不法行為に該当するか)  一般論としては、著作権等の権利に該当しない場合であっても法的保護に値する利益に ついては、それを侵害する行為が一般不法行為に該当する場合がないとは言えない。もっ とも、一般に市場における競争は本来自由であるべきこと、表現活動の自由は最大限保障 されなければならないことに照らせば、著作権侵害に該当しないような表現行為について は、当該表現行為がことさらに相手方に損害を与えることのみを目的としてなされたよう な特段の事情が存在しない限り、民法上の一般不法行為に該当しないというべきである。  これを本件についてみるに、原告が、ことさらにOFCに損害を与えることのみを目的 として本件空港案内図を制作したということはできないから、原告が本件空港案内図を制 作した行為が一般不法行為に該当するということはできない。 9 結論  本件において、原告は、本件制作委託契約及び本件写真の使用権設定契約に基づき、被 告書籍第9版の編集等の報酬863万1000円及び本件写真の対価157万5000円 の合計1020万6000円のうち未払金750万円及びこれに対する平成15年5月1 日(本件制作委託契約上の報酬支払期日の翌日。本件写真を引渡し後の日)から支払済み までの商事法定利率年6分に基づく遅延損害金ないし利息(民法575条)の支払を求め ているところ、上記によれば、本件制作委託契約につき、被告がその請求を争う理由とし て掲げる主張(契約当事者の相違、契約上の債務の本旨に従った履行の否定)は、いずれ も理由がなく、原告は本件制作委託契約及び本件写真の売買契約(ないしは制作委託契約) に基づく債務を履行しているものと認められるから、被告に対する上記未払金750万円 の支払請求権が存在し、これらの債務は商行為によって生じた債務(商法514条)に該 当するから、上記期日後について商事法定利率年6分の割合による遅延損害金ないし利息 が発生しているものというべきである。そして、上記によれば、上記未払金支払債務につ いて被告が主張する相殺の抗弁については、被告が反対債権として主張する債権の発生を 認めることはできない。  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、上記未払金750万円及びこれ に対する平成15年5月1日から支払済みまでの年6分の割合による金員の支払を求める 原告の本件請求は理由がある。  よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村 量一    裁判官 鈴木 千帆    裁判官 吉川  泉