・京都地判平成18年12月13日  Winny事件(刑事)  被告人(金子勇)は送受信用プログラムの機能するファイル共有ソフト「Winny」を制 作し、その改良を重ねながら、自己の開設した「Winny Web Site」等と称するホームペー ジで継続して公開および配布し、これにより、A(北内)およびB(井上)による著作権 侵害の犯行を容易ならしめてこれを幇助したとして、起訴された事件。  判決は、Winnyは「P2P技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義な もの」としながらも、「そのような技術を実際に外部へ提供する場合、外部への提供行為 自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状 況やそれに対する認識、さらに提供する際の主観的態様如何による」とした上で、「被告 人は、Winnyが一般の人に広がること重視し、ファイル共有ソフトが、インターネッ ト上において、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状をインターネットや雑誌 等を介して十分認識しながらこれを認容し、そうした利用が広がることで既存のビジネス モデルとは異なるビジネスモデルが生まれることも期待しつつ、ファイル共有ソフトであ るWinnyを開発、公開しており、これを公然と行えることでもないとの意識も有して いた」として、幇助犯に当たると認め、罰金150万円に処した。 ■判決文 「6 被告人に対する著作権法違反幇助の成否 (1)弁護人らは、被告人の行為は各正犯の客観的な助長行為となっていないとも主張す るが、前記のとおり、被告人が開発、公開したWinny2が北内及び井上の各実行行為 における手段を提供して有形的に容易ならしめたほか、Winnyの機能として匿名性が あることで精神的にも容易ならしめたという客観的側面は明らかに認められる。 (2)もっとも、WinnyはP2P型ファイル共有ソフトであり、被告人自身が述べる ところや村井供述等から明らかなように、それ自体はセンターサーバを必要としないP2 P技術の一つとしてさまざまな分野に応用可能で有意義なものであって、被告人がいかな る目的の下に開発したかにかかわらず、技術それ自体は価値中立的であること、さらに、 価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような、無限定な幇助犯 の成立範囲の拡大も妥当でないことは弁護人らの主張するとおりである。 (3)結局、そのような技術を実際に外部へ提供する場合、外部への提供行為自体が幇助 行為として違法性を有するかどうかは、その技術の社会における現実の利用状況やそれに 対する認識、さらに提供する際の主観的態様如何によると解するべきである。  そこで、以下、被告人がどのような目的でWinnyを開発、公開していたのか、本件 における幇助行為とされる時点において被告人がいかなる主観的態様であったかについて 検討する。」  「エ 被告人の主観的態様についての小括  以上のように、その一部を除いて信用性のある被告人の捜査段階における供述や、被告 人が「Winny2 Web Site」と称するサイトで「Winnyの将来展望につ いて」として述べた内容、被告人が姉との間で送受信したメールの内容、特に問題のない ソフトウェアを公開していた「Kaneko’s Software Page」とは異 なる匿名のサイトでWinnyを公開していたこと等からすれば、被告人が同サイト上で、 違法なファイルのやりとりをしないような注意書きを付記していたこと及び無視フィルタ 機構があることを考慮しても、被告人は、Winnyが一般の人に広がること重視し、フ ァイル共有ソフトが、インターネット上において、著作権を侵害する態様で広く利用され ている現状をインターネットや雑誌等を介して十分認識しながらこれを認容し、そうした 利用が広がることで既存のビジネスモデルとは異なるビジネスモデルが生まれることも期 待しつつ、ファイル共有ソフトであるWinnyを開発、公開しており、これを公然と行 えることでもないとの意識も有していたと認められる。  そして、Winny2がP2P型大規模BBSの実現を目的としたものであり、Win ny1との互換性がないものであるとしても、Winny2にほぼ同等のファイル共有機 能が備えられていることや、上記の「Winnyの将来展望について」が平成15年10 月10日付けのものであることなどからすれば、本件で問題とされている同年9月ころに おいても、同様の認識をしてこれを認容し、Winny2の開発、公開を行っていたと認 められる。 ただし、Winnyによって著作権侵害がインターネット上にまん延するこ と自体を積極的に企図したとまでは認められない。  なお、被告人は公判廷において、Winnyの開発、公開は技術的検証が目的であって、 Winny2に関しても、P2P型大規模BBSの実現を目指したものである旨供述し、 前記のような被告人のプログラマーとしての経歴や、Winny2の開発を開始する際の 2ちゃんねるへの書き込み内容などからすれば、被告人がそのような意図を有していたと する公判廷供述はその部分に関して信用できるが、かかる事情は、すでに認定した被告人 の主観的態様と両立しうるものであって、上記認定を覆すものではない。 (5)以上から、本件では、インターネット上においてWinny等のファイル共有ソフ トを利用してやりとりがなされるファイルのうちかなりの部分が著作権の対象となるもの で、Winnyを含むファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されており、 Winnyが社会においても著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、効率 もよく便利な機能が備わっていたこともあって広く利用されていたという現実の利用状況 の下、被告人は、そのようなファイル共有ソフト、とりわけWinnyの現実の利用状況 等を認識し、新しいビジネスモデルが生まれることも期待して、Winnyが上記のよう な態様で利用されることを認容しながら、Winny2.0β6.47及びWinny2 .0β6.6を自己の開設したホームページ上に公開し、不特定多数の者が入手できるよ うにしたことが認められ、これによってWinny2.0β6.47を用いて北内が、W inny2.0β6.6を用いて井上が、それぞれWinnyが匿名性に優れたファイル 共有ソフトであると認識したことを一つの契機としつつ、公衆送信権侵害の各実行行為に 及んだことが認められるのであるから、被告人がそれらのソフトを公開して不特定多数の 者が入手できるように提供した行為は、幇助犯を構成すると評価することができる。 7 結論  よって、前記のとおり認定することができ、この限度で弁護人らの主張は採用しない。」