・知財高判平成20年3月19日  ELLEGARDEN事件:控訴審  被告・控訴人・付帯被控訴人(株式会社グローイングアップ)は、フランス法に基づき 設立された会社であり、女性向けファッション雑誌「ELLE」(原告雑誌)の発行を世 界各国において行うほか、世界各国において商標「ELLE」(原告商標)を管理し、商 標登録を受け、当該商標を付した各種商品の製造、販売及び各種役務の提供を展開してい る会社である。他方、原告・被控訴人・附帯控訴人(アシェットフィリパキプレス)は、 音楽録音物・映像物の原盤の企画制作等を目的とする株式会社で、ロックバンド「ELL EGARDEN」(本件ロックバンド)は同社に所属している。  本件は、原告登録商標目録1〜5の商標についての商標権者でありこれを周知又は著名 商標として使用する一審原告が、Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・ スコアブック・音楽CD(被告商品)を販売等する一審被告に対し、Tシャツ・リストバ ンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックについては商標法36条、不正競争防止 法3条(2条1項1号又は2号)に基づき、音楽CDについては不正競争防止法3条(2 条1項1号又は2号)に基づき、被告商品への被告標章の使用差止等を求めた事案である。  原判決(東京地判平成19年5月16日)は、@被告標章は原告商標に類似する、Aし かし、一審被告による被告商品の使用態様の一部は商標として使用されているとはいえな い等として、一審原告の請求の大部分につき差止請求等を認容した。  当審に至り、一審原告も、敗訴部分の取消しを求めるとともに、Tシャツに別紙被告標 章目録(14)〜(19)記載の標章を付する態様・リストバンドに同標章(20)を付する態様・帽 子に同標章(21)を付する態様について、かつ別紙ウェブサイト目録2記載のウェブサイト を含めた差止等を求める請求を追加する附帯控訴を提起した。  判決は、「Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックに関す る請求(商標権侵害、不正競争防止法3条〔2条1項1号又は2号〕)についての差止請 求部分はすべて理由がなく、音楽CDに関する不正競争防止法3条(2条1項1号又は2 号)に関する部分は、被告標章(10)を付した音楽CDの使用等の差止め及び抹消と被告ウ ェブサイト目録記載のウェブサイトにおける広告表示につき予防請求としての差止めを求 める限度で理由がある」として、原判決を一部変更した。 (第一審:東京地判平成19年5月16日) ■争 点 (1)商標権請求(被告標章(10)を除く。) ア 商標としての使用 イ 商品の類似性 ウ 商標の類似性 エ 自己の名称等の使用 (2)1号請求及び2号請求 ア 商品等表示としての使用 イ 本件ELLE商標及び原告登録商標の周知性・著名性 ウ 商品等表示の類似性 エ 混同のおそれ(1号請求のみ) オ 営業上の利益の侵害 ■判決文 第5 当裁判所の判断 1 一審原告の当審における拡張後の本訴請求の内容は前記のとおりであり、こ れを簡略に記載すると別紙「本訴請求一覧表」記載のとおりとなるが、その請 求の法的根拠は、Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコ アブックについては、@一審原告の有する原告商標権(別紙「原告登録商標目 録」1ないし5記載のもの)に基づく商標法36条、A不正競争防止法3条(2 条1項1号又は2号)であり、音楽CDについては不正競争防止法3条(2条 1項1号又は2号)である。  当裁判所は、一審原告のTシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽 子・スコアブックに関する請求(上記@及びA)はすべて理由がなく、一方、 音楽CDに関する請求で附帯控訴がなされている部分は理由があると判断す る。その理由は、以下に述べるとおりである。 2 Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックに関す る請求について (1) 原告商標権に基づく差止請求の可否 ア 商標権者は自己の商標権を侵害し、又はそのおそれがある者に対し、そ の侵害の停止又は予防を請求することができるところ(商標法36条)、 一審原告は、一審被告によるTシャツ・リストバンド・ステッカー・タオ ル・帽子・スコアブックによる被告標章(1)ないし(9)、(11)ないし(21)の 使用は、原告商標に類似する標章を商標として使用している(商標法37 条1号、2条3項参照)と主張するので、以下検討する。 イ 原告商標と被告標章の類似の有無 (ア) 商標と標章の類否は、対比される標章が同一又は類似の商品に使用さ れた場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かに よって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された標章 がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、 連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を 明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきもの である。そして、商標と標章の外観、観念又は称呼の類似は、その商標 を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準 にすぎず、したがって、これら3点のうち類似する点があるとしても、 他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって、何ら 商品の出所を誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては、これ を類似の標章と解することはできないというべきである(最高裁昭和4 3年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。 そこで、上記の観点から以下検討を加える。 (イ) 一審原告が商標権を有する「ELLE」の文字に関しては、次の事実 が認められる。 a 本件ELLE商標(原告登録商標5と同様のもの)は、1945年 にフランスにおける原告雑誌の創刊に当たって原告雑誌の表題用に創 作されたものであり、同商標は以後同名雑誌に継続的に使用されてい る(甲6〜8、弁論の全趣旨)。 b 我が国においては、昭和45年3月、平凡出版が、一審原告の許諾 の下に、雑誌「アンアン(an an)」を日本版原告雑誌と位置づけ て創刊し(当初の雑誌名称は「アンアン・エル・ジャポン(an a n ELLE JAPON)」であった。)、以来昭和57年に至るま で、雑誌「アンアン」にフランス語版原告雑誌の記事を多数掲載する など、「ELLE」ファッションの紹介・普及を図り、その表紙には 必ず本件ELLE商標を付してきた。  また、平凡出版は、雑誌「アンアン」だけでなく、同社の発行に係 る雑誌「クロワッサン」等他の出版物にも、原告雑誌の記事を本件E LLE商標の下に多数掲載した。  昭和57年4月、株式会社マガジンハウスが、一審原告の許諾の下 に、日本版女性雑誌「ELLE」を創刊した。当該雑誌は、月2回刊 行された時期を経て、現在月1回刊行されているところ、その発行部 数は毎号約23万部に達する。現在は一審原告の子会社である株式会 社アシェット婦人画報社がその出版業務を引き継いでいる。  これらの雑誌に掲載される内容は、被服、布製身の回り品、化粧品、 バッグ類、履き物、装身具、時計、眼鏡、傘、寝具類、家具、テーブ ルウェア、食品その他のファッションの紹介記事又はこれに関連する 広告の掲載である(争いがない)。 c 一審原告は、我が国においては、本件ELLE商標及びその称呼を カタカナで表記した本件エル商標(原告登録商標1)を商標登録した のに続き、「ELLE Petite」や「ELLE PARIS」の ような、本件ELLE商標に他の文字を付したいくつかのバリエーシ ョンの結合商標を始めとする多数の関連商標を登録した。  また、一審原告は、昭和39年以来、帝人に対し、本件ELLE商 標等の独占的使用を許諾するとともに、「ELLE」ファッションの 販売・普及活動を推進した。  帝人は、自ら「ELLE」ファッションに係る洋服を製造・販売す る一方、その再許諾権限に基づき、婦人服につき株式会社イトキン、 スカーフ・ハンカチ類につき川辺株式会社、水着につき株式会社岸田、 エプロンにつき中西縫製株式会社、寝装寝具類につき西川産業株式会 社、手袋につき株式会社三大の各社に対し、その再使用権を許諾した。 帝人及びこれらサブライセンシーは、共同して「ELLE」ファッ ションの宣伝・販売・普及に努め、その製造・販売に係る商品に本件 ELLE商標等を使用した。  昭和59年7月に至り、一審原告は、帝人との独占的使用許諾関係 を解消し、自ら東洋ファッション株式会社(現在は「株式会社エルパ リス」に商号変更。)を設立し、「ELLE」ファッションの市場開発、 市場調査、企画、利用を図り、帝人のサブライセンシーを引き続き使 用権者として本件ELLE商標の普及に努めた。また、その間、新た なサブライセンシーも加わった。  その結果、我が国における一審原告のライセンシーの数は、平成1 7年11月現在で33社に上り、その業種も、被服、布製身の回り品、 バッグ類、履き物、装身具、眼鏡、傘、寝具類、家具、テーブルウェ ア、食器等に及んでいる(甲21〜62〔枝番を含む〕)。 d 一審原告は、その運営するウェブサイト「ELLE Online」 (http://www.elle.co.jp)において、原告雑誌の広告宣伝、ファッ ション情報及び化粧品情報の発信、並びに「ELLE」ブランド全体 についての広告宣伝及び情報の発信を行っている(争いがない)。また、 石山彰編「服飾辞典」(甲10。昭和47年2月1日初版、株式会社 ダヴィッド社発行)には、「エル」の語が登載され、「フランスのファ ッション・ブックを兼ねた大型女性週刊誌の名。…」との解説が、文 化出版局編「服飾辞典」(甲11。昭和54年3月5日第1刷、文化 出版局発行)には「エル・ファッション」の語が登載され「フランスの 女性雑誌『ELLE』によって生み出されたファッションということ。」 との解説が、被服文化協会編「服装大百科事典下巻」(甲12。昭和 44年3月20日初版、文化服装学院出版局発行)には「エルEL LE」の語が登載され「フランスの若い女性向き週刊誌。…最近では 『エル・ファッション』といわれて、全世界の若い女性たちの間に支 持者を持つようになっている。…」との解説が、それぞれなされてい る。なお、本件ELLE商標は、防護標章として登録され、特許庁の 日本国周知・著名商標リストにも掲載されている(争いがない)。 e 雑誌「ELLE」や「エル」商品のカタログ等には本件ELLE商 標が記載され、衣服、布製身の回り品、バッグ類、履き物、装身具、 眼鏡、傘、寝具類、家具、テーブルウェア、食器等の各商品において も、ほぼ統一的に本件ELLE商標がロゴとして付されている。  なお、「ELLE」ブランドの派生ブランドとして、家具に関して 「エル・デコ」(甲18、19など)、料理に関して「エル・ア・ター ブル」(甲20など)、宝飾品に関して「エル・パリ」「エル・ジュエ リー」「エル・ルミエール」(甲26〜29〔枝番を含む〕など)、雑 貨に関して「エル・パリ」「エル・プチ」(甲28、31〔枝番を含む〕 など)、スポーツ用品に関して「エル・スポーツ」(甲31の3など) 等があるが、これらにおいては、本件ELLE商標を大書した上で、 これに近接した位置又はその直下に派生ブランドに関する表示を付加 するという体裁をとっており、派生ブランド部分は著しく小さな文字 であるか、本件ELLE商標とはフォント、色、大きさ等を変えて、 これらが一連一体のものとして読まれないよう、意匠上の工夫がなさ れている(甲7〜9、14〜62〔枝番を含む〕)。 f 「ELLE」の文字を含む被服分野における登録商標には次のもの がある(乙20〜38、45〔枝番を含む〕)。 ・「ellesse」(商標登録番号第1412420号の1) ・「Elle Roman」(同第1312208号) ・「ELLESAISON」(同第1386896号) ・「ELLEMARGUERITE」(同第1386897号) ・「ELLESHIMON」(同第1441437号) ・「ELLENOVA」(同第1812940号) ・「ELLE BRIAN」(同第1907613号) ・「ELLEKAMA」(同第1914604号) ・「ELLEME」(同第2011543号) ・「ELLE DE CHIC」(同第2171233号) ・「elleair」(同第2289525号) ・「ellelieben」(同第2374874号) ・「ELLECLIP」(同第2395505号) ・「ELLEBELLE」(同第2705545号) ・「elle et elles」(同第2724292号) ・「ELLEFLEUR」(同第3182805号) ・「elleallo」(同第3288328号) ・「ELLEBELLEN」(同第4656458号) ・「IL ELLE」(同第2081846号) ・「ELLEGOD」(同第1940332号) g その他の分野における登録商標としては次のものがある(乙46〜 60)。 ・「ELLEBON」(商標登録番号第1043590号) ・「ELLE−MOI」(同第1244568号) ・「ELLEVOIE」(同第1287606号) ・「Ellenite」(同第1882639号) ・「ELLEBEAUTE´」(同第1978274号) ・「ELLE VERRE」(同第2234127号) ・「ELLESHADE」(同第2597519号) ・「ELLESTEP」(同第2717302号) ・「Ellelite」(同第3283188号) ・「ellesoie」(同第3294649号) ・「ELLESEINE」(同第3331476号) ・「ELLESPEN」(同第4011234号) ・「ELLEMOIPOLO」(同第4034921号) ・「ellefort」(同第4829747号) ・「ELLEROSE」(同第4209416号) h 「ELLE」という語の原義はフランス語で「彼女」や「それ」を 意味する代名詞であり、フランス語としては極めて初歩的かつ普遍的 な言葉である。  なお、「GARDEN」は英語で「庭」等を意味する語であり、「ガ ーデン」、「ガーデニング」などとして日本語においても同旨で用いら れている言葉である。 (ウ) 他方、一審被告が使用する標章である「ELLEGARDEN」に関 しては次の事実が認められる。 a 本件ロックバンドは平成10年2月に千葉県で結成されたインディ ーズを中心に活動するロックバンドである。  平成13年1月に最初のCD「ELLEGARDEN」をリリース し、以後、平成14年4月にファーストアルバム「DON’T TR UST ANYONE BUT US」(本件音楽CD)を、平成15年 7月にセカンドアルバム「BRING YOUR BOARD!!」 を、平成16年5月にサードアルバム「Pepperoni Qua ttro」を、平成17年4月に4枚目のアルバム「RIOT ON THE GRILL」を、平成18年11月に5枚目のアルバム「E LEVEN FIRE CRACKERS」をそれぞれリリースする とともに、それらと並行して全国的なライブツアーを行っている。  音楽チャート雑誌であるオリジナル・コンフィデンス(いわゆるオ リコン)の平成18年8月21日号(乙67)では、シングルCD「S alamander」がシングルランキングで3位に、DVD「DO GGY BAGS」がミュージックDVDランキングで1位となった。 オリコンの同年11月20日号(乙68)ではその5枚目のアルバム がアルバムチャートで1位を獲得し、平成19年11月5日号(乙8 1)ではDVD「ELEVE FIRE CRACKERS TOUR 06-07〜AFTER PARTY〜」 がDVD総合及びミュージックDVDの双方のランキングで1位を獲 得した。  本件ロックバンドは、結成以来「エルレガーデン」との称呼を使用 している(乙67、68、80、81、弁論の全趣旨)。 b 本件Tシャツに付された被告標章(1)〜(5)、(7)〜(9)、(11)〜(19) の使用態様は、次のとおりである(以下、原判決別紙「被告標章使用 態様目録」を参照)。 (a) Tシャツ(品番E−020)の前面(使用態様(1))は、被告標章(1) が表示され、「G」の文字の上にはコック帽を被った頭骸骨が、「E L」の文字の辺りには骸骨の持つ包丁が描かれるとともに、被告標 章(1)の下には、「RIOT ON THE GRILL TOUR」と 表示されている。  同Tシャツの背面(使用態様(2)−13)には、被告標章(2)とと もに、「RIOT ON THE GRILL TOUR」と表示され、 さらに、「7.18(mon) TOKYO SHIBUYA−AX」 など39の日時、曜日及び地名等が表示されている。 E−021は、E−020の色違いである(争いがない)。 (b) Tシャツ(品番E−002)の前面(使用態様(2)−11)には、 欧文字「E」をモチーフとした1点から右斜め上・真横及び右斜め 下に向かう3本線からなるマーク(本件マーク)を左に表示した被 告標章(2)が白地に青字で表示され、その下に、「BRING YO UR BOARD!!」と青地に白抜き文字で表示されている。 同Tシャツの背面(使用態様(2)−12)には、白地に青字で「B RING YOUR BOARD!! Tour 2003」との表示 とともに、「7.31 渋谷CLUB QUATTRO」など25の 日時及び地名等が表示され、右下には、本件マークを左に表示した 被告標章(2)が白地に青字で表示されている(争いがない)。  同Tシャツの襟ネームには、「United Athle」という Tシャツ自体の製造・販売者の商標が表示されている。その余のT シャツについても、同様である(乙65の写真D及び<22>、弁論の 全趣旨)。 (c) Tシャツ(品番E−010)の背面(使用態様(3))には、被告標 章(3)が白地に白抜き文字で表示され、その下に骸骨がバイクに乗 っている姿が描かれるとともに、最下段に白抜きの文字で「SKU LLSHIT」と表示されている(甲70の2、弁論の全趣旨)。 (d) Tシャツ(品番E−007)の前面(使用態様(4))には、被告標 章(4)が白地に黒字で表示され、その下に頭部が誇張された骸骨が 描かれるとともに、その下に骸骨から滴る雫と血溜まりのようなも のが描かれている(甲70の2、弁論の全趣旨)。 (e) Tシャツ(品番E−015)の前面(使用態様(5)−1)には、「B ad For Education Tour」と大きく表示され、 炎を背景とした頭骸骨の図柄の下に、「Bad For Educa tion Tour」の4分の1ほどの大きさの字で、本件マーク とともに被告標章(5)が表示されている。  同Tシャツの背面(使用態様(5)−2)には、「Bad For E ducation Tour 2004」との表示とともに、「11 /2(Tue)−Osaka Big Cat」など15の日時、曜 日及び地名等が表示され、その下に、本件マークと共に被告標章(5) が表示され、さらに「SKULLSHIT」の表示がされている(争 いがない)。 (f) Tシャツ(品番E−032)の前面(使用態様(7)、(13))には、 最上段に被告標章(7)が大きく表示され、その下には帽子を被った 2つの頭骸骨が会話をしている姿が大きく描かれるとともに、「O H??NOT POPCORN...WHERE’S BODY?」、 「YEAAAAH!!!」、「MOSH!MOSH!!MOSH!! !」、「RocK or DiE!!!」という文字や、4段に分けて 「ENJOY」「ELLEGARDEN」(被告標章(13))「TIL ’ YOUR...」「DEAD!!!」という文字が表示され、最下 段には被告標章(7)とほぼ同大、同字体で「SABBAT13」の 表示がされている。  同Tシャツの背面(使用態様(8))には、下段に被告標章(8)が大 きく表示され、その上にその4分の1ほどの大きさの字で「THE MOST FUN YOU’LL EVER HAVE BEING SCARED!!!」と、最下段には更に小さな字で「DEVIL ISHLY DELIGHTFUL SABBAT THIRTEE N」と表示され、これらの文字の右側に「13」の文字と交差した 骨が描かれている(甲84の1、88、乙65の写真H〜M、弁論 の全趣旨)。 (g) Tシャツ(品番E−029)の前面(使用態様(9))には、胸の位 置に被告標章(9)が大きく表示されている。 同Tシャツの背面(使用態様(12))には、中央に被告標章(12)が 大きく表示されている(甲84の1、乙65の写真S〜<22>、弁論 の全趣旨)。 (h) Tシャツ(品番E−027)の前面(使用態様(11)−1)には、 縦書きで「ROCK」と表示された上で、その横上部に「DEVI LISHLY DELIGHTFUL TALES OF」の文字が あり、その下部に被告標章(11)が表示され、被告標章(11)のすぐ下 部に「SPACE SONIC TOUR 2005−2006」と表 示されている。  同Tシャツの背面(使用態様(11)−2)には、本件マークととも に、被告標章(11)が表示され、そのすぐ下に「SPACE SON IC TOUR 2005−2006」が表示され、さらにその下に、 日時及び地名等が数多く表示されている(争いがない)。 (i) Tシャツの前面(使用態様(14))には、胸の位置に被告標章(14) が大きく表示されている。被告標章(14)は、大きく描かれた頭骸骨 の額部に炎のようなデザインで「ELLEGARDEN」と表示さ れ、頭骸骨の口部に同様のデザインで「SKULLSHIT」等の 文字が表示されたものである(甲121)。 (j) Tシャツの前面(使用態様(15))には、胸の位置に被告標章(15) が大きく表示され、その下にやや小さく「SKULLSHIT」の 文字が表示されている。被告標章(15)は、最上段に「ELLEGA RDEN」と大きく表示され、その下に骨の突き刺さった頭骸骨が 2つ向かい合っている様子が描かれたものである(甲122)。 (k) Tシャツの背面(使用態様(16))には、最上段に被告標章(16)が 赤地に黒抜きの文字で大きく弧を描いて表示され、最下段にはそれ と同大、同色、同字体で「SKULLSHIT」と表示され、その 間の中央部に交差した骨と頭骸骨の図が、その左右には炎の図がそ れぞれ全面に描かれている。  同Tシャツの前面(使用態様(17))には、左胸部に拳大の大きさ で交差した骨と頭骸骨の図が描かれ、その下に小さな文字で2段に して「ELLEGARDEN」(被告標章(17))×「SKULLS HIT」との文字が黒字に白く表示されている(甲123、124)。 (?) Tシャツの前面(使用態様(18))には、その全体に被告標章(18) が表示されている。被告標章(18)は、最上段には赤地の横断幕様の ものに黒字で「ELLEGARDEN★」と表示され、最下段には 同様の布状の図に黒字で「11 Fire Crackers To ur 06−07」と表示され、その間の中央部に炎を背にした海 賊風の骸骨が剣を持っている図などが描かれたものである。  同Tシャツの背面には、2006年から2007年にかけての「1 1 Fire Crackers Tour 06−07」というライ ブツアーの日程及び会場等が表示されている(甲125、弁論の全 趣旨)。 (m) Tシャツの前面(使用態様(19))には、左胸部に掌大の大きさで 骸骨が小刀をくわえて横断幕様のものを掴んでいる図が描かれ、そ の横断幕様の部分には白抜きの文字で「ELLEGARDEN」と 表示され(ただし、最初の「EL」最後の「EN」は骸骨の手で一 部が隠れている。)、その図柄の下に上記「ELLEGARDEN」 と同じ字体で小さく被告標章(19)が表示されている。 c 一審被告が被告ウェブサイト上で販売しているリストバンドの使用 態様、被告標章、品番等の対応関係は、次のとおりである(甲127、 弁論の全趣旨)。 ・使用態様(2)−2 被告標章(2)、品番E−004、017 ・使用態様(2)−3 被告標章(2)、品番E−022 ・使用態様(2)−4 被告標章(2)、品番E−033 ・使用態様(20) 被告標章(20) d 一審被告が被告ウェブサイト上で販売しているステッカーの使用態 様、被告標章、品番等の対応関係は、次のとおりである(争いがない)。 ・使用態様(2)−1 被告標章(2)、品番E−005 ・使用態様(4) 被告標章(4)、品番E−009 ・使用態様(5) 被告標章(5)、品番E−026 e 一審被告が被告ウェブサイト上で販売しているタオルの使用態様、 被告標章、品番等の対応関係は、次のとおりである(争いがない)。 ・使用態様(2)−1と同様被告標章(2)、E−006、014 ・使用態様(2)−1に類似(甲70の5の上段右から2つ目。「ELL EGARDEN」の下に「Bad For Education」と 表示されたもの) 被告標章(2)、E−018 ・使用態様(2)−6 被告標章(2)、E−023、025 ・使用態様(2)−7 被告標章(2)、E−034 f 一審被告が被告ウェブサイト上で販売している帽子の使用態様、被 告標章、品番等の対応関係は、次のとおりである(争いがない)。 ・使用態様(2)−5 被告標章(2)、品番E−019 ・使用態様(6) 被告標章(6)、品番E−024 g 一審被告が被告ウェブサイト上で販売しているスコアブックは、使 用態様(2)−10のとおりである。すなわち、本件スコアブックは、 最上部左側に小さく「BAND SCORE」との表記があり、その 下の赤帯部分に黄色の文字で被告標章(2)と表示され、その下の写真 が表示されている部分に「Pepperoni Quattro」の 文字及び被告標章(2)が記載されている。また、表紙左下には、「SH INKO MUSIC PUB.CO.、LTD」と表示されている(争 いがない)。 (エ) 被告標章の具体的な使用形態は前記(ウ)のとおりであるが、被告標章 の個別の特徴を分析すると、次のとおりである。 a 被告標章(1)、(2)、(5)  「L」の右側が高く跳ね上がったやや図形的な同大の太い字で「E LLEGARDEN」の文字を横一列に同大で表記したものであり、 「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、ま た、「G」の文字だけが殊更目立つようにされていない。しかも、前 記のとおり、被告標章1はコック帽を被った骸骨の両手により両脇か ら抱えられており、その全体を一連一体のものとして理解することが できる。 b 被告標章(3)  白地に黒枠で白抜きした図形的(全体に丸まっている)な同大の文 字で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着する形態で表記したも のであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見 られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。 c 被告標章(4)  白地に黒枠で白抜きしたやや図形的(最初の「E」から血のような ものが滴っている)な同大の文字で「ELLEGARDEN」と円弧 状に密着する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARD EN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊 更目立つようにもされていない。 d 被告標章(6)  黒字に白い同大の文字で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着 する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」と の間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つ ようにもされていない。 e 被告標章(7)、(8)、(11)、(13)  アメリカンコミックに見られるような図形化された太く同大の文字 で「ELLEGARDEN」と緩やかな円弧状(被告標章7、13) ないしやや不揃いな横一列(被告標章8、11)に密着する形態で表 記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な 懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされ ていない。 f 被告標章(9)、(12)  図形化された文字で「E」を大文字、その余を小文字で「Elle garden」とやや上下に不揃いになるように横一列に密着する形 態で表記したものであり、「Elle」と「garden」との間に 顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つように もされていない。なお、「Ellegarden」の直下にほぼ同大 で同様に図形化された文字で「SkullShit」と横一列で表記 してあるが、こちらはそれぞれの「S」がいずれも大文字で表記され ている。なお、「skull」は英語で頭蓋骨を意味し、「shit」 は英俗語で罵りの言葉として慣用される言葉である。 g 被告標章(14)、(21)  流れるように図形化された太い文字で「ELLEGARDEN」と 横一列に密着する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GA RDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけ が殊更目立つようにもされていない。 h 被告標章(15)  不揃いに図形化された文字で左右両端は小さく、中央部がふくらむ 形態で「ELLEGARDEN」と横一列に表記したものであり、「E LLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、 「G」の文字だけが殊更目立つようにもされていない。 i 被告標章(16)  赤字に黒い同大の文字で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着 する形態で表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」と の間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つ ようにもされていない。 j 被告標章(17)  黒字に白くやや図形的な同大の文字で「ELLEGARDEN」と 横一列に表記したものであり、「ELLE」と「GARDEN」との 間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つよ うにもされていない。 k 被告標章(18)  赤字に黒いやや図形的な文字で左端から右端にかけて若干文字が小 さくなる形態で「ELLEGARDEN」と円弧状に密着して表記し たものであり、「ELLE」と「GARDEN」との間に顕著な懸隔 は見られず、また、「G」の文字だけが殊更目立つようにもされてい ない。 ? 被告標章(19)  黒字に白く図形的な同大の文字で「ELLEGARDEN」と上下 に波打つ形態で一列に密着して表記したものであり、「ELLE」と 「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文 字だけが殊更目立つようにもされていない。 m 被告標章(20)  黒字に赤く特に「E」と「L」の右側が高く跳ね上がっている図形 的な文字で左右が大きく中央部が凹んでいる形態で「ELLEGAR DEN」と横一列に密着して表記したものであり、「ELLE」と「G ARDEN」との間に顕著な懸隔は見られず、また、「G」の文字だ けが殊更目立つようにもされていない。 (オ) 被告商品は、音楽CDを除き、ライブツアーの際にファングッズとし て販売されるほか、被告ウェブサイトにおいて通信販売されている。 被告ウェブサイトの冒頭ページには「5th Album ELEVE N FIRE CRACKERS 2006/11/08RELEASE」 という表示とともに、本件ロックバンドのメンバー4人の写真が表示さ れている。同ページの最下段には、「Top | New Topics | Media | Live Tour | Live&Event | Profile | Discgraphy | Diary | Goods | Link | Mail」と いうリンク先が表示され、トップページから順に新着情報、テレビやラ ジオ、雑誌等のメディアでの活動情報、本件ロックバンドのライブツア ー情報、本件ロックバンドのプロフィール、CD情報(ディスコグラフ ィー)、日記、ファングッズ販売情報、関連サイトへのリンク、メール 送信先の情報が表示されるようになっている。このうちファングッズ販 売情報のサイトでは、被告商品が写真とともに表示され、注文できるよ うになっている(甲70、84、121〜129、乙79、80〔枝番 を含む〕、弁論の全趣旨)。 (カ)a 上記(イ)ないし(エ)に認定した事実によれば、本件ELLE商標は、 1945年のフランスにおける同名雑誌の発刊当時から使用されてき たという歴史を有し、我が国においても同名雑誌の刊行や多くのライ センスを通じてそのブランドが広く浸透しているということができ、 少なくとも本件ロックバンドが結成された平成10年当時には著名で あったと認めることができる。そして、一審原告は、「ELLE」ブ ランドを護持するため、一審原告がライセンスをする各種の商品に本 件ELLE商標を付して販売し、また本件ELLE商標を中軸とした 統一的な広告宣伝活動を展開していることからすれば、上記のような 「ELLE」ブランドの著名性は、縦に細長くそれぞれの文字の右端 が上下に長く伸びた特徴的な字体を持つ本件ELLE商標自体の著名 性と密接不可分なものとして展開してきたと認めることができる。 もっとも、「ELLE」との語はアルファベット4文字、称呼でみ れば「エル」の2文字という、極めて簡単な構成からなっており、し かも、その原義はフランス語としては極めて普遍的な代名詞(「彼女」 の意)であることから、我が国において「ELLE」を含む商標が被 服その他を指定商品として多数登録されているのが実情である。その 意味では、上記のような「ELLE」の歴史的経緯ないし特徴ある本 件ELLE商標を離れてその構成自体をみた場合、識別力が顕著に高 いものとは必ずしもいい難い側面がある。 b そこで本件における被告標章についてみると、本件音楽CDを除く 被告商品における被告標章は、いずれもほぼ同大・同色・同フォント で一連一体にまとまりよく表記してなるものであり、「ELLE」と 「GARDEN」との間に顕著な懸隔は見当たらず、これらを殊更に 分断して把握すべき外形的な事情も見当たらない。  また、前記のとおり、これら被告標章の現実的な使用態様は、骸骨 が刃物を振りかざしていたり、骸骨から血のようなものが滴り、その 下に血溜まりができているなどといったデザインと一体として用いら れ、あるいは頭蓋骨を意味する「SKULL」や罵る言葉である「S HIT」といった一般に嫌悪感を催させるような言葉とともに並記さ れていることが認められる。このようなデザインや言葉のイメージは、 女性向け、家庭向けの清潔なイメージを販売広告戦略とする「ELL E」ブランドのイメージとはおよそ重なる余地がないものといわざる を得ない(なお、「ELLE」のカタログや雑誌において、骸骨の姿 を主要なモチーフとして用いているロゴは見当たらない。)。その意味 で、被告標章ないしその現実的な使用態様から喚起される被告商品の 製造販売主体のイメージと、前記のような歴史的な経緯に立脚し、本 件ELLE商標とともに形成されてきた一審原告のブランドイメージ とは到底合致しないものというほかない。  そして、被告商品の販売方法についてみても、本件ロックバンドの 行うライブツアーの際に販売される場合は当該商品の出所の混同を考 慮する必要はないということができるし、被告ウェブサイトにおける 販売についてみても、購入に至るまでには複数のステップがあり、そ の中には同サイトが一般の被服等を販売するサイト、とりわけ一審原 告のようなファッションブランドの商品を販売するサイトではなく、 ロックバンドのファンサイトであると容易に気付かせるような表示が 随所に見られるのであるから、このような販売方法による場合であっ ても、これを購入しようとする者が当該商品の出所の混同を来す場合 があるとは容易に想定し難いというべきである。  これらに加え、本件ロックバンドそれ自体が我が国においてオリコ ンチャートで1位を獲得する程度に著名なグループであり、「ELL EGARDEN」という名称はそのような本件ロックバンドを表す固 有名称として平成10年当時から継続的に使用されていたという事情 も、出所の混同の有無を検討する際、無視することができない要素と いうことができる。 c 以上述べたところを総合的に考慮すると、被告標章は、それ自体の 体裁、その現実の使用態様におけるイメージ、実際の販売方法、著名 なロックバンドの名称として相当程度の期間使用されてきたという事 情等からして、原告登録商標ないし本件ELLE商標が著名であるこ とを考慮したとしてもなお、「ELLEGARDEN」という被告標 章を「ELLE」部分と「GARDEN」部分とに分断すべきものと 解することはできない。 d 以上を踏まえて、原告商標と被告標章の類否を検討する。  原告登録商標である「ELLE」のアルファベット4文字と、一連 一体として10文字のアルファベットからなる「ELLEGARDE N」との被告標章は、その文字数が明らかに異なるから外観が類似す るということはできない。  また、観念についても、前者はフランス語の代名詞、服飾等の著名 ブランドとしての「ELLE」ブランド等の観念が生じるのに対し、 後者は造語であり、本件ロックバンドを知る者にとってその旨の観念 を生じさせるほかは、特定の観念が生じることはない。  称呼については、原告登録商標である「ELLE」は、ローマ字読 みで「エレ」、「エッレ」、「エルレ」といった称呼が生じ得るほか、著 名な商標としての「エル」の称呼を生じるということができる。これ に対し、被告標章である「ELLEGARDEN」は造語であること から、本件ロックバンドを知る者にとっては直ちに「エルレガーデン」 の称呼が生じることになるほかは、一般的な称呼は生じず、せいぜい、 上記「ELLE」の称呼(「エレ」、「エッレ」、「エルレ」)と、これを 除いた部分である「GARDEN」の部分に「ガーデン」との称呼を 生じ、両者を併せた称呼として、「エレガーデン」、「エッレガーデン」、 「エルレガーデン」、「エルガーデン」といった称呼を生じることにな る。  以上によれば、両者は外観、観念、称呼のいずれにおいても類似す るということはできず、これに前記のような取引の実情を併せ考慮す ると、原告商標と被告標章とが類似するということはできない。 e これに対し一審原告は、ウェブ検索の特性や被告ウェブサイトの体 裁を挙げつつ、これらを経由した場合、被告商品と本件ロックバンド との関連性に気付かないで被告商品の販売されたサイトに到達する旨 主張する。  しかし、ウェブ検索はキーワードの設定いかんにより必要な情報以 外の種々雑多の情報がヒットされることになるというのは、ウェブ検 索を行う上での常識的事項に属するものというべきであって、仮に「E LLE」を検索した結果「ELLEGARDEN」のウェブサイトが 表示されたとしても、そのことから直ちに両者に何らかの関係がある と考えることは相当でない。また、仮に「ELLE」の需要者が本件 ロックバンドを知らずに被告ウェブサイトを見た場合、当該サイトと 「ELLE」とのイメージの違いは容易に感じることができるし、ま たそうでなくとも、ネット上で商品売買を行う場合、対面販売の場合 とは異なり一定程度のリスクを伴うこともまた、ネット上の常識とい うことができるから、ウェブ検索の結果偶然被告ウェブサイトを訪れ た需要者は、商品購入に至る前に商品の出所を確認するのが通常であ る。そのような観点から見ると、上記のとおり、被告ウェブサイトが 本件ロックバンドのファンサイトであることは1、2箇所クリックす れば容易に理解に達するのであって、この点においても一審原告の主 張するような懸念は観念し難い。したがって、一審原告の上記主張は 採用することができない。  なお、一審原告は、本件に「ポスト・セールス・コンフュージョン」 の理論を適用すべき旨を主張するが、前記のような被告標章の実際の 使用態様等に照らすと、採用することができない。 ウ 以上によれば、原告商標と被告標章とは非類似ということになるから、 一審被告による被告標章の使用が商標法2条3項にいう使用(商標的使用) に該当するかどうかについて論ずるまでもなく、一審原告の商標権に基づ く差止請求はいずれも理由がないことになる。 (2) 不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に基づく差止請求の可否 不正競争防止法3条は、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は そのおそれがある者は、その差止等を求めることができる旨を定め、同法2 条1項は上記にいう「不正競争」の定義を定めているところ、同項1号は「他 人の商品等表示…として需要者の間に広く認識されているものと同一若しく は類似の商品等表示を使用し」等と定め、同項2号は「自己の商品等表示と して他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し」等として いる。  一審原告の一審被告に対する不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号) に基づく本件差止請求は、被告標章が原告商標と類似することを理由とする ものであるが、前記(1)のとおり、両者が類似するということはできないの であるから、その余について判断するまでもなく、一審原告の上記差止請求 は理由がない。 3 音楽CDに関する請求について (1) 上記請求は、前記のとおり、不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号) に基づく差止請求であって、商標権侵害を理由とするものではない。  ところで、不正競争防止法3条(2条1項1号又は2号)に基づく差止請 求が認められるためには、上記各法条によれば、一審被告による音楽CDに 対する被告標章(10)の使用が「商品等表示としての使用」(同法2条1項1 号及び2号)に当たるほか、被告標章(10)と原告商標が「同一若しくは類似」 であり、かつ一審被告による被告標章(10)の使用により一審原告の「営業上 の利益が侵害」(同法3条)されることが必要である。  そこで、以下、上記要件の有無について検討する。 (2)ア 本件音楽CDについての被告標章(10)については、商品等表示としての 使用を認めるのが相当である。その理由は、原判決65頁11行〜66頁 2行のとおりであるから、これを引用する。 イ また被告標章(10)は、別紙「被告標章目録」記載のように、「ELLE GARDEN」の表示を敢えて2段にし、かつ、そのうち「ELLE」の 部分を大きく、「GARDEN」の部分を小さく表示しており、しかも、 当該「ELLE」の部分は、両端の「E」の部分が上下に長くなっている ものの、全体の印象としては本件ELLE商標に極めて類似したデザイン を採用しているものであるから、被告標章(10)の要部は、その余の被告標 章と異なり、「ELLE」の部分にあると認められる。  そうすると、本件ELLE商標と被告標章(10)とは、外観、称呼及び観 念において類似するといわざるを得ない。  そして、このように「ELLE」の部分が突出して目立つような体裁の 商品等表示が音楽CDに付されて使用されていた場合、たとえ本件音楽C Dのミュージシャンの名称が「ELLEGARDEN/エルレガーデン」 であるとか、本件音楽CDを制作した者の名称が別途表示されていたとし ても、被告標章(10)に接した需要者は上記ミュージシャンらとの関連性を 直ちに理解するものとはいい難く、むしろ当該音楽CDが一審原告又はこ れと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品で あると誤認混同するおそれがあると認められる。 ウ 上記イに述べたところからすれば、一審被告による被告標章(10)の使用 により、本件ELLE商標についての権利者である一審原告の営業上の利 益が侵害されるおそれがあると認めるのが相当である。 エ 以上によれば、音楽CDに関する一審原告の差止請求は、不正競争防止 法3条、2条1項1号又は2号のいずれについても、被告標章(10)を付し た音楽CDの使用等の差止め及び抹消と、被告ウェブサイト目録記載のウ ェブサイトにおける広告表示につき予防請求としての差止めを求める限度 で理由がある。 4 結論  以上によれば、当審における拡張後における一審原告の本訴請求のうち、T シャツ・リストバンド・ステッカー・タオル・帽子・スコアブックに関する請 求(商標権侵害、不正競争防止法3条〔2条1項1号又は2号〕)についての 差止請求部分はすべて理由がなく、音楽CDに関する不正競争防止法3条(2 条1項1号又は2号)に関する部分は、被告標章(10)を付した音楽CDの使用 等の差止め及び抹消と被告ウェブサイト目録記載のウェブサイトにおける広告 表示につき予防請求としての差止めを求める限度で理由がある。  よって、これと異なる原判決は上記のように変更することとし、仮執行宣言 は相当でないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 中野 哲弘    裁判官 森  義之    裁判官 澁谷 勝海