・東京地判平成20年7月4日〔プチホルダー事件〕  本件は、被告(株式会社しまむら)の販売した被告商品が、原告(株式会社ベストエバ ー)が製造し、原告(株式会社ベストエバージャパンージャパン)が販売する原告商品 (動物のぬいぐるみと小物入れを組み合わせた「プチホルダー」という名称のシリーズ商 品の一つであり、小物入れにプードルのぬいぐるみを組み合わせたもの)の形態を模倣し たものであり、不正競争防止法2条1項3号に該当すると主張して、原告らが、被告に対 し、不正競争行為に基づく損害賠償及び謝罪広告を請求し、また、被告が、原告ベストエ バーが著作権を有する原告商品の形態を模倣した被告商品を原告らに無断で販売、譲渡す る行為は、原告ベストエバーの著作権及び原告商品の日本国内における販売等につき独占 的な権利を有している原告ベストエバージャパンの利用許諾権を侵害する不法行為に当た ると主張して、原告らが、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。  判決は、不競法上の請求について、形態模倣を認めながらも「被告は、被告商品の購入 時にそれが原告商品の形態を模倣したものであることを知らず、かつ、知らなかったこと につき重大な過失はなかったものと認められる」として適用除外(不競法19条1項5号 ロ)に当たるとした上で、著作物性を否定して、請求を棄却した。 ■争 点 (1) 被告商品は原告商品の形態を模倣したものか (2) 原告商品の形態は商品の機能を確保するために不可欠な形態であるか (3) 被告は被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき善意かつ無 重過失であったか (4) 原告商品は著作権法により保護される著作物に当たるか (5) 被告による著作権侵害の成否 (6) 原告らの損害 (7) 謝罪広告の必要性 ■判決文 第4 当裁判所の判断 1 準拠法について  本件は、原告ベストエバーが大韓民国において設立された法人であるという 点で渉外的要素を含むものであるから、同原告との関係で準拠法を決定する必 要がある。  不正競争行為及び著作権侵害に基づく損害賠償請求の準拠法に関しては、法 の適用に関する通則法等に直接の定めがないため、条理により決するのが相当 である。上記法律関係の性質は不法行為であるから、法の適用に関する通則法 の施行期日(平成19年1月1日)後の行為については、同法17条により、 また、同法の施行期日前の行為については、法例11条1項(法の適用に関す る通則法附則3条4項により、なお従前の例によるとして、法例の規定が適用 される。)により、準拠法を決すべきであり、本件の損害賠償請求については、 原告らに対する権利侵害という結果が生じたと主張される我が国の法である民 法709条が適用される。  また、不正競争防止法に基づく謝罪広告の請求に関しても、法の適用に関す る通則法等に直接の定めがないため、条理により決するのが相当である。本件 では、謝罪広告の請求の対象とされた行為が日本国内で行われ、営業上の利益 の侵害も日本国内で生じたというのであるから、我が国の不正競争防止法が最 も密接な関係を有する地の法として準拠法になると解される。 2 認定事実  上記争いのない事実等並びに証拠(甲3の1ないし甲8、甲10ないし12、 14の1ないし8、甲15の1ないし4、甲16、18の1ないし4、甲23 ないし25、26の1及び2、乙3、4、6ないし8)及び弁論の全趣旨によ れば、以下の事実が認められる。 (1)ア 原告ベストエバージャパンの担当者は、平成14年2月28日、被告 のシャンブル事業部に所属するXと名刺交換を行い、同人に対し、原告ベ ストエバージャパンの商品が掲載されたカタログ等を交付した。 イ 原告ベストエバージャパンは、平成15年以降、毎年、被告に対し、原 告ベストエバージャパンの商品が掲載されたカタログを送付した。平成1 5年、平成17年及び平成18年に送付された各カタログには、プチホル ダーが掲載され、このうち、平成17年及び平成18年の各カタログには、 原告商品が掲載されていた。 ウ 平成15年9月2日から5日まで、東京ギフトショーが開催され、原告 ベストエバージャパンもこれに参加し、プチホルダーを含む生活雑貨等を 出展した。東京ギフトショーでは、出展社数が2250社、来場者数が1 9万人を超え、約30万点のギフト商品が展示された。  原告ベストエバージャパンは、同月4日、東京ギフトショー開催中に行 われたホームファッショングッズコンテストにおいて、プチホルダーにつ き、審査員特別賞を受賞した。東京ギフトショー開催中の各種コンテスト において受賞の対象となった商品の数は、原告ベストエバージャパンのプ チホルダーを含めると、合計19点であった。 エ 東京ギフトショーの開催中の状況のほか、原告ベストエバージャパンが プチホルダーについて審査員特別賞を受賞したことは、業界誌である「月 刊「Personal Gift」平成15年10月号に掲載された。また、同誌には、 原告ベストエバージャパンのライセンシー及び販売店の募集に関する広告 が、同原告の商品の写真とともに掲載された。 オ 原告ベストエバージャパンは、平成16年8月ころ、原告商品の販売を 開始し、現在までに合計330個の原告商品を販売し、その売上高は合計 19万0487円である。 カ 原告ベストエバージャパンは、平成18年1月22日、原告商品の写真 を自社のウェブページに掲載した。 (2) 原告商品の形態は、次のとおりである(以下、単に「A」、「B1」等 と表記することがある。)。 A 原告商品は、頭顔部及び胴体部からなる。 B1 頭顔部は、正面及び側面からみて縦に長い楕円形をしており、鼻部が 前方に突き出している。 B2 頭顔部は、正面からみて約下半分に顔面部を形成し、顔面部には、2 つの目と、鼻部の先端に鼻がある。 B3 目は、円形をしており、黒い瞳の部分と瞳の周囲を覆う茶色の部分か らなる。 B4 鼻は、黒く逆三角形をしており、鼻の穴を形成する丸い窪みが2つあ る。 B5 頭顔部は、正面からみて約上半分に頭部を形成し、頭部を覆う毛は、 顔面部を覆う毛とは異なる材質のものが使用されている。 B6 頭顔部は、正面からみて上下方向の中間付近から耳を形成し、耳は、 頭部を覆う毛と同じ材質の毛で覆われている。 B7 耳は、舌状に平らで細長い形態をしており、胴体部の肩部にかかるま で長い。 B8 顔面部の正面から下方には、口を表現した縫い目があり、この縫い目 は、顔面部の下方の側方から中央を通って、もう一方の側方にあり、正 面からみて「へ」の字になっている。 C1 胴体部は、円筒状になっており、腕と胴部に分かれている。 C2 胴体部は、上端に円を囲む形で腕があり、上端の正面で腕の先端を合 わせており、背面側の上端で頭顔部と連結されている。 C3 胴体部の上端の正面で合わせている腕の先端には、2本の黒い糸で手 の指が形成されている。 C4 腕は、チューブ状のものを丸く合わせた形態で、上端に縫い目がある。 また、胴部の背面中央部にある縫い目の左側で、腕と胴部の連結部に、 タグが付いている。 C5 胴部は、腕から下に連結されている。 C6 胴部の正面からみて下側には、2つの丸い足が付いており、胴体部の 背面中央部には縦の縫い目が、下端部には尾が付いている。 C7 足は、丸状をしており、つま先が上を向いていて、2本の黒い糸で足 の指が形成されている。 C8 尾は、楕円形をしており、胴部の背面中央部の縫い目の下端に付いて いる。 C9 底面は、胴部の下端が底部を丸く囲むように胴部と連結されており、 胴部の毛と異なる材質の布で形成され、底部の布と同じ色で接着用のマ ジックテープが付けられている。 (3)ア 被告は、「ファッションセンターしまむら」、「シャンブル」等、複 数の店舗を運営している。被告において、被告商品の仕入れは、「ファッ ションセンターしまむら」において販売する商品の仕入れ等を担当する複 数の部門のうち、インテリア、寝具等の仕入れ等を担当する部門が担当し た。同部門が1年間に取り扱う商品数は約12万点であり、その取引先の 数は合計138社である。  被告における商品の仕入れは、各部門に所属するバイヤーと呼ばれる者 が行う。バイヤーは、仕入先からの商品の企画提案を受け、販売する商品 やその販売数量、価格を決定しており、被告が商品の開発や企画に直接関 わることはない。  Xは、被告のシャンブル事業部に所属し、「シャンブル」において販売 する商品の仕入れ等を担当するバイヤーであった。「ファッションセンタ ーしまむら」において販売する商品の仕入れ等を担当する部門と、「シャ ンブル」において販売する商品の仕入れ等を担当する部門は、各部門を統 括する担当役員が異なる等、被告の組織上、別系統に属している。 イ 被告は、平成18年4月ころより、平成化成から合計123個の被告商 品を仕入れ、そのうち、平成19年1月20日までに合計112個の被告 商品を、「ファッションセンターしまむら」において、1個当たり390 円で販売した。 ウ 被告商品は、トーソーが企画、製造したものであり、平成化成は、トー ソーから被告商品を仕入れ、被告に販売したものである。 (4) 被告商品の形態は、次のとおりである(以下、単に「a」、「b1」等 と表記することがある。)。 a 被告商品は、頭顔部及び胴体部からなる。 b1 頭顔部は、正面及び側面からみて縦に長い楕円形をしており、鼻部が 前方に突き出している。 b2 頭顔部は、正面からみて約下半分に顔面部を形成し、顔面部には、2 つの目と、鼻部の先端に鼻がある。 b3 目は、円形をしており、黒い瞳の部分と瞳の周囲を覆う茶色の部分か らなる。 b4 鼻は、黒く逆三角形をしており、鼻の穴を形成する丸い窪みが2つあ る。 b5 頭顔部は、正面からみて約上半分に頭部を形成し、頭部を覆う毛は、 顔面部を覆う毛とは異なる材質のものが使用されている。 b6 頭顔部は、正面からみて上下方向の中間付近から耳を形成し、耳は、 頭部を覆う毛と同じ材質の毛で覆われている。 b7 耳は、舌状に平らで細長い形態をしており、胴体部の肩部にかかるま で長い。耳と頭部の連結部周辺にピンク色のリボンが付いている。 b8 顔面部の正面から下方には、縫い目があり、この縫い目は、顔面部の 下方の側方から中央を通って、もう一方の側方にあり、正面からみて 「へ」の字になっている。また、鼻部の下方に黒い糸で「U」の字に口 が形成されている。 c1 胴体部は、円筒状になっており、腕と胴部に分かれている。 c2 胴体部は、上端に円を囲む形で腕があり、上端の正面で腕の先端を合 わせており、背面側の上端で頭顔部と連結されている。 c3 胴体部の上端の正面で合わせている腕の先端には、2本の黒い糸で手 の指が形成されている。 c4 腕は、チューブ状のものを丸く合わせた形態で、上端に縫い目がある。 また、胴部の背面中央部にある縫い目の左側で、腕と胴部の連結部に、 タグが付いている。 c5 胴部は、腕から下に連結されている。 c6 胴部の正面からみて下側には、2つの丸い足が付いており、胴体部の 背面中央部には縦の縫い目が、下端部には尾が付いている。 c7 足は、丸状をしており、つま先が上を向いていて、2本の黒い糸で足 の指が形成されている。 c8 尾は、楕円形をしており、胴部の背面中央部の縫い目の下端に付いて いる。 c9 底面は、胴部の下端が底部を丸く囲むように胴部と連結されており、 胴部の毛と異なる材質の布で形成されている。 3 争点(1)(被告商品は原告商品の形態を模倣したものか)について (1) 上記2(2)及び(4)で認定した原告商品の形態と被告商品の形態とを比較 すると、両者は、頭顔部が縦に長い楕円形、胴体部が円筒状をしており、胴 体部の背面側の上端で頭顔部が連結されていること、胴体部の上端に円を囲 む形で腕があり、上端の正面で腕の先端を合わせていること、頭部や耳を覆 う毛の材質と顔面部を覆う毛の材質が異なっていること、黒い糸で手足の指 を形成していること、目、鼻、耳、足及び尾の形状や取付位置等の各点にお いて共通している。  そうすると、原告商品と被告商品は、個々の特徴的形状の多くが共通して おり、全体の形態もほぼ同一であるということができるので、両者の形態は 実質的に同一であるというべきである。  被告は、被告商品では口や手足の指を表現するものとして黒い糸が縫い付 けられ、また、耳元にリボンが付けられているのに対し、原告商品ではこれ らが存在しない点、頭と顔全体のバランスが異なる点、原告商品の底面のマ ジックテープが被告商品には付けられていない点において、原告商品と被告 商品の形状に相違がみられると主張する。 しかしながら、手足の指を表現するものとして黒い糸が縫い付けられてい る点は、上記2(2)のC3及びC7、同(4)のc3及びc7のとおり、両商品 に共通している形状であると認められる。また、その余の点は、両商品の相 違点であるということができるものの、いずれも些細なものであって、商品 の全体的形態に影響を与えるものではないということができ、両者の形態が 実質的に同一であると判断することの妨げとなるものではない。被告の上記 主張は、採用することができない。 (2) そして、上記(1)で説示したとおり、原告商品及び被告商品の個々の特徴 的形状の多くが共通しており、両者の形態は実質的に同一であるということ ができること、原告商品、被告商品ともに動物のぬいぐるみに小物入れを組 み合わせた商品である点で共通していること、上記2(3)イのとおり、被告 商品の販売が開始されたのは平成18年4月ころであり、原告ベストエバー ジャパンが自社のウェブページに原告商品の写真を掲載した平成18年1月 22日と近接した時期であること等の事情を考慮すると、被告商品は、原告 商品を模倣して製造されたものと推認することができる。 4 争点(2)(原告商品の形態は商品の機能を確保するために不可欠な形態であ るか)について (1) プードルのぬいぐるみに小物入れを組み合わせた商品の形態としては、 その組合せの方法や個々の部分の形状等により様々なものが考えられるから、 上記2(2)で認定したAないしC9の各形状から構成される原告商品の形態 は、プードルのぬいぐるみと小物入れの組合せであることから必然的に導か れる形態であるということはできないし、特定の効果を奏するための必須の 技術的形態であるということもできない。  そして、本件において、原告商品と同様の組合せを採用した他の同種商品 が存在することを認めるに足る証拠がないこと、胴体部が円筒状をしており、 胴体部の背面側の上端で頭顔部が連結されている点、胴体部の上端に円を囲 む形で腕があり、上端の正面で腕の先端を合わせている点等は、原告商品の 特徴的な形状であるということができること等に照らせば、原告商品の形態 が個性を有しないものということはできない。 したがって、原告商品の形態は、不正競争防止法2条1項3号の「商品の 機能を確保するために不可欠な形態」であるとは認められない。 (2) 被告は、原告商品は、既に市場で見られるいくつかの商品形態を組み合 わせたものにすぎないこと、動物のぬいぐるみと小物入れの組合せは、古く から販売されており、発想として何ら新しいものではないこと、原告商品と 同様の形態の小物入れは、10年前から販売されていること(乙2の1ない し4)から、原告商品の形態は、「商品の機能を確保するために不可欠な形 態」に当たると主張する。  しかしながら、不正競争防止法2条1項3号は、商品形態についての先行 者の開発利益を模倣者から保護することを目的とする規定であるから、同号 の規定によって保護される商品の形態とは、商品全体の形態であり、また、 必ずしも独創的な形態である必要はない。そうすると、商品の形態が同号の 規定にいう「商品の機能を確保するために不可欠な形態」に該当するか否か は、商品を全体として観察して判断すべきであって、全体としての形態を構 成する個々の部分的形状を取り出して個別にそれがありふれたものかどうか を判断した上で、各形状を組み合わせることが容易かどうかを問題にすると いう手法により判断すべきものではない。また、被告がその主張の根拠とし て提出する証拠(乙2の1ないし4)については、そこに掲げられている商 品が、原告商品の形態に類似しているものから、一部の形態が類似している にすぎないものまで様々であり、かつ、その販売の期間や販売の規模が明ら かでないことから、単に原告商品と類似する商品が市場で流通している事実 があることを示すにとどまり、原告商品と同様の形態の小物入れが市場に広 く出回っていたことを認めるに足りるものではない。被告の上記主張は、採 用することができない。 5 争点(3)(被告は被告商品が原告商品を模倣したものであることにつき善意 かつ無重過失であったか)について (1) 前記認定に係る事実によれば、被告における商品の仕入れは、商品の仕 入れを担当する部門に所属するバイヤーが、仕入先が行う多数の企画提案の 中から、特定の商品の企画提案を採用し、その販売数量や価格等を決定して 行うというものであり、また、被告商品の仕入れを担当する部門が1年間に 取り扱う商品数だけでも約12万点に及び、仕入先が被告に対して行う企画 提案の数も極めて多数に及ぶものと推測されることからすると、被告は、被 告商品の仕入れを行うに当たり、被告商品の企画や生産の過程に関与するこ とはなく、被告商品の選定やその販売数量及び価格等の決定のみを行ってい たものと認められる。また、上記の膨大な数量の商品すべてについて、その 開発過程を確認するとともに、形態が実質的に同一である同種商品がないか どうかを調査することは、著しく困難であるということができる。一方、原 告商品は、これまでの販売金額が合計19万0487円、販売数量も合計3 30個にとどまり、その宣伝、広告も、原告ベストエバージャパンのウェブ ページや商品カタログに写真が掲載されている程度であって、一般に広く認 知された商品とは認められないことからすると、被告は、被告商品を平成化 成から購入するに当たり、取引上要求される通常の注意を払ったとしても、 原告商品の存在を知り、被告商品が原告商品の形態を模倣した事実を認識す ることはできなかったものというべきである。以上によれば、被告は、被告 商品の購入時にそれが原告商品の形態を模倣したものであることを知らず、 かつ、知らなかったことにつき重大な過失はなかったものと認められる。 (2) 原告らは、被告のバイヤーであるXと名刺交換を行い、原告ベストエバ ージャパンの商品が掲載されたカタログ等を交付し、その後も毎年、被告に カタログを送付していたこと、平成15年9月に開催された東京ギフトショ ーにおいて出展したプチホルダーについて審査員特別賞を受賞し、そのこと が業界誌に掲載されたこと等から、被告は、被告商品が原告商品の形態を模 倣した商品であることを知り、少なくとも、知らなかったことにつき重大な 過失があると主張する。  しかしながら、前記認定に係る事実によれば、Xは、被告商品の仕入れを 担当する部門のバイヤーではないことが認められ、また、Xとの名刺交換か ら被告商品の販売が開始される平成18年4月ころまで約4年が経過してお り、その間、被告において原告商品の購入が具体的に検討された形跡は認め られないから、被告の一従業員であるXとの名刺交換及び同人へのカタログ 等の交付という事情のみでは、被告が原告商品の存在を認識し、又は認識す ることができたということはできない。また、上記のとおり、現在まで被告 において原告商品の購入が具体的に検討された形跡がないことに加え、被告 が取り扱う商品の数が膨大であり、被告が仕入先等から送付を受けるカタロ グの数量も極めて多数に及ぶものと推測されること、東京ギフトショーにお いてプチホルダーが審査員特別賞を受賞した際、原告商品は一般に販売され ていなかったこと、原告商品は平成16年8月から販売が開始されたものの、 (1)で説示したとおり、その販売金額及び数量等によれば、一般に広く認知 された商品とは認められないことからすれば、被告に毎年送付されたカタロ グの一部に原告商品が掲載され、また、東京ギフトショーにおいてプチホル ダーが審査員特別賞を受賞し、その事実が業界誌に掲載されたとしても、こ れらの事情をもって被告の悪意、重過失を基礎付けることはできないという べきである。原告らの上記主張は、採用することができない。 6 争点(4)(原告商品は著作権法により保護される著作物に当たるか)につい て  著作権法2条1項1号は、同法により保護される著作物について、「思想又 は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に 属するもの」と規定し、同条2項は、「この法律にいう美術の著作物には、美 術工芸品を含むものとする。」と規定している。これらの規定は、意匠法等の 産業財産権制度との関係から、著作権法により著作物として保護されるのは、 純粋美術の領域に属するものや美術工芸品であり、実用に供され、あるいは産 業上利用されることが予定されているものは、それが純粋美術や美術工芸品と 同視することができるような美術性を備えている場合に限り、著作権法による 保護の対象になるという趣旨であると解するのが相当である。  原告商品は、小物入れにプードルのぬいぐるみを組み合わせたもので、小物 入れの機能を備えた実用品であることは明らかである。そして、原告が主張す る、ペットとしてのかわいらしさや癒し等の点は、プードルのぬいぐるみ自体 から当然に生じる感情というべきであり、原告商品において表現されているプ ードルの顔の表情や手足の格好等の点に、純粋美術や美術工芸品と同視するこ とができるような美術性を認めることは困難である。また、東京ギフトショー において審査員特別賞を受賞した事実が、原告商品の美術性を基礎付けるに足 るものでないことは明らかである。したがって、原告商品は、著作権法によっ て保護される著作物に当たらない。 7 結論  以上によれば、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもな く理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴 訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 阿部 正幸    裁判官 平田 直人    裁判官 瀬田 浩久