レジャー時空間計画論  
利用者の群集流動からみたレジャー施設の安全対策
 
 
大規模集客施設における群集災害の恐ろしさ
兵庫県明石市大蔵海岸で7月21日に開催された「明石市民夏まつりの花火大会」で、140人近い死傷者を死者11名、負傷者180人近い犠牲者を出した歩道橋事故は、群集災害の恐ろしさを再認識するものであった。
一つの歩道橋に大量の通行者が集中したことにより生まれた群集流動は、大きな圧力によって人々を押しやり、転倒させ、折り重って、圧迫死を引き起こした。この事故では体力的に弱い子どもや高齢者が犠牲になったが、たとえ大人の男性であってもその危険性は否定できない。密閉に近い空間で群集流動が滞り、酸欠で倒れたり熱中症と診断された人も多かった。
 コンサート会場に入場しようとしたファンが折り重なって倒れ重軽傷を負う、死亡するなど、群集流動によって引き起こされる事故は後を絶たない。海外のサッカースタジアムでは、数十人から100人以上の死亡者をだす大惨事もたびたび起こっている。多くの人を集めることに一生懸命で、安全対策にまでなかなか手がまわらないというのは言い訳にならない。
今回明石歩道橋事故は花火大会というイベント会場で起きた事故であるが、サッカー(削除)スタジアムやコンサートホールをはじめとする大規模集客施設においては、群集流動に配慮した安全対策が欠かせない。
だが、実際のスタジアムやホールをみると、群集流動施設設計時点で群集流動を科学的に予測評価する手法を適用していないケースや、群衆の行動特性に十分配慮しているとは思えないところが目立つ。
 
明石歩道橋事故の教訓
 明石市の事故は、最寄駅のJR山陽本線朝霧駅と花火大会会場である大蔵海岸を結ぶ連絡歩道橋(図表1)で起こった。市民夏まつりのフィナーレを飾る打ち上げ花火が、午後7時45分から8時30分までの45分間に打ち上げられ、その終了直後の午後8時40分頃の出来事である。
この歩道橋を渡って海岸に出て花火を見ようとする見物客の群集流動は、打ち上げ前からすでに動きが滞っていた。そして、その群集の中に、花火見物を終え帰ろうとする逆向きの群集が入り込もうとして大混乱となった。
 これまでに公開されている情報をもとに、この事故の原因となった群集流動の問題について整理してみた。
 誰もが第一に指摘するのは、会場設営上の問題として、まず海岸と駅を結ぶアクセスルートがこの歩道橋に限定され、極度に通行者を集中させたことである。
山陽本線と国道の間には山陽電鉄が走っている。800mほど離れた山陽電鉄大蔵谷駅から花火会場までは徒歩で10分以上かかる。しかし、1999年11月に朝霧駅と大蔵海岸を結ぶ連絡歩道橋が完成し、アクセスが非常に便利になったため、朝霧駅から大蔵海岸へは通常なら徒歩2〜3分で行けるようになった。
鉄道とならんで走る国道2号は、休日、非常に混雑するため、おのずと電車を利用する人が圧倒的に多くなる。こうしたことから、予想を大きく上回る人が会場に近い朝霧駅を利用した。
花火大会のようなイベント時以外はそれほど利用者が集中することはないので、歩道橋を2本つくることは予算上難しかったのであろう。だが、歩道橋以外にも、できるだけ複数のアクセスルートを設定して、それぞれ通行可能な範囲で利用者を分散させる努力は欠かせない。
 また、事故当日は、歩道橋を下りたすぐ先から露店が連なり、その通路幅が十分な広さでないため、歩道橋から人がはけるのを非常に悪くした。
歩道橋や通路、こうした露店の通りには、一定時間当たりに通行可能な人数、すなわちキャパシティがある。利用者のアクセスルート・回遊ルートを連続的にみながら、そのキャパシティのネックとなる部分をみつけ、バランスをよくするよう予め改善しておく必要がある。
 
群集災害対策を考慮した通路のつくり方
 次に、歩道橋そのものの問題である(図表2)。この歩道橋は当初、橋と階段が直線状に計画されていたが、歩道橋に展望場所を設けるため直角に曲げた位置に階段を設けたのだという。明石海峡大橋や海辺の風景など、展望場所として足を止めたくなるようなロケーションにあり、非常に魅力的な歩道橋であることは間違いない。
しかし、花火の打ち上げ場所がまさにこの歩道橋の展望場所の正面となっており、歩行者は花火を眺めるために歩くスピードが遅くなり、立ち止まる人も多く、それがスムースな流動を妨げる要因となった。早く花火が見たいため、ついつい焦り、先を争うようになり混乱に拍車をかけた。
花火の打ち上げ場所が歩道橋の正面から少しずれていれば、もう少し人が流れたという意見もある。展望場所からの視界を妨げ、混雑要因を一時的に取り除くことも一案である。
 また、今回ほど群集密度が高くなくても、群集流動に曲がりがあるだけで、曲がりの内側での歩行速度が極端に低下し、混雑の要因になる。たとえ一方通行であったとして、90度に曲がった階段の下り口で流れが滞ることは明らかである。
 ただし、こうした要素は複合的に関係しているため、安易に直線にすればよいかというとそうではない。花火が展望可能な状態のまま通路が直線で、その先が階段であった場合には、花火に見とれた見物客が階段で転倒し、群集流動におされた人が階段をなだれ落ちる危険性は高い。
 歩道橋本体の通路幅6mに対して、階段は3メートルしかないことも、群集流動を大きく滞らせた。通路にすぼまりがあると、ボトルネックで人が集中することは容易に想像できる。まして、その先にあるのが階段である。階段は、フラットな通路に比べて歩行速度が低下し、人と人の間隔が広がるため(削除)、一定の通路幅に対する通行可能な人数が落ちる。もし通路と同じ幅であったとしても、下りはじめる際のスピードダウンによって滞留は避けられないのである。
 早稲田大学理工学部建築学科渡辺研究室では、コンピュータ・シミュレーションによる事故現場の再現を試みた(図表3)。歩道橋の上を粒で表した人を歩かせてみたところ、3人/u(通路上に千八百人、最低限の快適水準)の場合、危険個所中心にして立ち止まる人が増え、曲がりのある危険箇所に集中している。そして、8人/u(通路上に5000人)まで群集密度を高めると、人は自ら移動できなくなり圧力で押し流され始める。主催者が想定した歩道橋の人口である約1800人の場合でも平均して3人/u、事故発生箇所付近ではすでにその倍以上の密度になっており、曲がりのあるこの箇所に立ち止まる人が集中している。そして、報道されている5000人程度(平均8人/u)まで群集密度を高めると、局所的には1u当たり10人を超える状態(満員電車の身動きできない状態)となり、人は自ら移動できなくなり圧力で押し流され始める。
こうした群集流動のことだけを考慮すると、できれば通路は直線状で、階段ではなくスロープとし、通路幅も一定にできるとよい。どうしても階段にするならば、通路幅に対して逆に階段幅を広くするくらいの配慮が必要になる。
群集流動のことだけを考えると、通路には曲がり、すぼまり、階段などの滞留箇所を設けないようにするべきであろう。ただし、群集流動に配慮した通路をつくる際には、人の量と空間の規模や配置とのバランスで考えるべきであり、そのために群衆流動シミュレーションは欠かせない。
 
群集流動のコントロールと適切な空間のセット
 さらに、警備など運営上の問題があったことはいうまでもない。通路を安全かつスムースに通行可能なキャパシティを超えないよう、通行規制はやはり必要であり、さらに、一方通行にするか、双方向であっても動線を明確に分離する必要があった。
花火打ち上げ30分前に歩道橋の入口に来た時には、人は流れており、危険は感じられなかったという証言がある。群集流動における人の流れは必ずしも均等でなく粗密があって、眺望、曲がり、すぼまり、階段などの要因によって局所的に滞留が起こる。今回の事故もまさにこの要因が集中する歩道橋の先端部分で起こっている。歩道橋の中央付近に誘導員が配備されていたにもかかわらず事故発生に気づいていなかったという報道もあり、群集流動における局所的で偏りのない全体的な監視の難しさを露呈している。
 先を急ぐ見物客を強制的に通行規制しようとすると、入口付近では比較的空いているため不満をいだき、警備員に対して暴行を加えることさえある。パニック状態になると誘導は機能しない。一人ひとりは善良な人間が、群集になると理性が失われ暴徒と化すのである。
また、それぞれの個人はきちんとマナーを守っていて、誰かが無理に押したという事実がなくても、群集流動においては事故が起こりやすいのである。
そのため、群集のストレスをいち早く察知し、先手を打つよう誘導しなければならない。そして、こうした難しい群集流動のコントロールと適切な空間がセットになってはじめて安全対策としての効果を発揮するのである。
 
群集の行動特性を知る
 群集流動をコントロールするためには、群集の行動特性をあらかじめよく知っておく必要がある(図表4)。
 まず群集流動は一定の密度(0.3人/u)を超えると「左側通行」になりやすい。動線が交錯するなど無理がなければ、歩行者の分離は左側通行に設定すると自然に流れやすい。この傾向は国や地域による微妙に異なり、たとえばアメリカは右側通行であるといわれる(削除)。
 次に、「近道行動」をとりやすいことである。できるだけ最短コースを歩きたいという基本的な欲求は強い。これは、物理的な距離が近いことだけでなく、時間距離が近いことも重要となる。比較的遠い迂回路を通っても所要時間が短いのであればそちらのルートが選択されるため、アナウンスなどの情報提供によって群集流動を分散させることが可能になる。
 たとえばスタジアムでのスポーツ観戦やコンサートの帰りには出口や通路が混雑するが、利用者がどの出口を利用するかといったことには近道行動が影響している。利用者はできるだけ最寄りの出口を利用するか、その出口を抜けて最終的に帰宅する方向に対して、最短のルートを選択しようとする傾向が強い。  
混雑を避けるため早めに出ていく、出入口から遠くに座っているほど自発的に退席開始時刻を送らせるなど自衛手段をとる利用者も多い。
 また、群集は「歩行距離が長いと分散する」傾向にある。比較的長い距離を歩くと個人差によって歩行者の分布が広がるのである。そのため、空間と空間を直接つなげず、比較的長い通路を設けて動線を意図的に長くすることにより混雑を少しでも緩和させることが可能になる。
 その他、群集流動を集中させないためには、自然な形で群集流動を分散させる工夫が求められる。大相撲の弓取り式や野球観戦におけるヒーローインタビューは退席時間を遅らせる効果がある。が、試合に勝った側のチームのスタンドでその効果が大きいのに対して、敗者側のスタンドではその効果が低い。そのため、それ以外の(削除)それぞれのイベントに対応したさまざまな工夫が必要となる。
 
安全・快適な群集流動の計画
 本稿では、火災や地震など防災災害時の群集流動に配慮した安全対策を取り上げていないが、群集の避難行動には「いつも使う出入口に向かいやすい」「もときた道を引き返しやすい」「人のあとを追いかけやすい」「明るい方に向かいやすい」といった傾向がみられる。
 群集流動は、できるだけ他の動線と交錯しないよう、明確に動線を分離することがコントロールの基本である(図表5)。場所によっては柵・ロープなどを使うと効果的であるし、看板、壁・床・階段などに方向を誘導する表示を付けることも有効である。また、混雑の状況を情報提供することも混乱を避ける効果が大きい。
群集流動により利用者に与えるストレスは、楽しい時間を享受することに対して大きなマイナス効果となる。利用者をもてなし楽しませるための四次元空間“レジャー時空間”の中でも、とりわけ大規模集客施設においては、群集流動に配慮した安全対策が大前提となる。
混雑時と平常時のギャップは大きく、群集流動の時間変化に対応する安全対策は非常に難しい。それゆえに、今回の事故をきっかけとして、改めて群集流動に対する安全対策を丁寧に見直してほしい。安全対策に万全はない。
 
謝意:
早稲田大学理工学部建築学科渡辺仁史研究室のメーリングリストにおいて、明石・歩道橋事故に関するOB・教授・在校生による熱心な情報交換が行われました。本稿はそのメールを大いに参考にしました。とりわけ渡辺仁史教授、OBの安留昌三さん、竹中工務店設計部の吉田克之さん、早稲田大学大学院博士課程の高柳英明さんに感謝いたします。この場を借りてお礼申し上げます。
 
参考文献:
(1)「スタジアムにおける避難解析に関する研究」(岸野綱人著、早稲田大学大学院理工学研究科修士論文、1995.2)
(2)「建築人間工学 空間デザインの原点」(岡田光正著、理工学社、1993.11)
(3)「安全計画T 安全計画の視点」(日本建築学会、彰国社)

 

 

図表1 JR山陽本線朝霧駅と大蔵海岸を結ぶ連絡歩道橋  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
図表2 群集流動が滞る通路の要因 

 

 

 

 

 

 

 

図表3 連絡歩道橋における群集流動シミュレーション
 
注意:黒い粒が立ち止まった状態。3.0人/u(通路上に1800人、最低限の快適水準)の場合、危険個所中心にして立ち止まる人が増え、危険箇所に集中している。これを8.3人/u(通路上に5000人)に設定すると自ら移動できなくなり圧力で押し流され始める。3人/uの場合、事故発生箇所を中心に立ち止まる人が集中している。これを8人/uに設定すると人は自ら移動できなくなり圧力で押し流され始める。
出所:早稲田大学理工学部建築学科渡辺研究室 高柳英明によるシミュレーション

 

図表4 群集流動の行動特性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図表5 明確な動線の分離