障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

阿地知 進 (あぢち すすむ) 金沢大学大学院

■報告題目

障害者雇用 特例子会社と共同出資会社―太陽の家の活動の検証

■報告要旨

 障害者雇用促進法における諸制度の中で、ダブルカウント制度の問題点は、障害者の職能とは関係なく、手帳の等級で、雇用者数のカウントを、1人の雇用で2人雇用しているように数えるという点である。それを立案し、制度として運用している健常者にとっては、障害者の為に工夫し、納付金や調整金の動く、制度の根本的な部分の1つとして運用されている。しかし、当事者としての障害者にとっては、その成り立ちの最初から、望ましい制度とは方向が違うと感じられるものであった。そのような制度で、障害者雇用の促進が目的であるというが、多くのディスアビリティを障害者にもたらす存在ではないか。
 同じように特例子会社という制度もある。これも、大きな企業の雇用促進法の雇用者数を有利にカウントするもので、企業の事業主が障害者のための特別な配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、その子会社に雇用されている障害者を親会社や企業グループ全体で雇用されているものとして算定できるというものである。
しかし、障害者としての視角で考えるとき、特例子会社でも多くは非正規雇用で雇用され (健常者は、正規雇用)、作業内容は就労継続支援A型に近いもので、障害者の労働能力を正しく反映した、ディーセントワークとは程遠いものである。
 特例子会社での障害者の仕事は、名刺の印刷や清掃業務、あるいは、安い賃金での単純作業で、障害者を使う理由は、雇用促進法の法令遵守と安い労働力でしかない。
最近、農業分野での特例子会社というものも増えているが、その内容を見ると、工場で何かを製造するのと同じ考えで農業を捉えて、単純作業の安い労働力で、雇用促進法の法令遵守を目指すような方向としか思えない。(「農業分野における障害者就労と農村活性化−障害者施設における農業活動に関するアンケート集計結果及び特例子会社の農業分野への進出の現状と課題について−」農村活性化プロジェクト、研究資料第5号、農林水産政策研究所、平成24年10月など)
 特例子会社ではないが、大企業と障害者雇用の協力という面で、太陽の家の活動がある。太陽の家の設立が1965年で、特例子会社の法制化が1986年なので、20年も時間的にずれがあり、現在からは、50年も遡ることだが、継承すべき点はたくさんある。特に、太陽の家での障害者の能力というもののとらえ方に、50年も遡るものとは思えない斬新なものがある。
 太陽の家=共同出資会社ではなく、中に、ほとんどすべての障害者雇用の事業所を持ち、その1つとして共同出資会社がある。ソニー、ホンダ、オムロン、富士通、三菱商事など、日本の大きな会社の共同出資会社を、大分という場所に集めている。
 障害者を、デキナイ人と捉えれば、コストと効率という面から、経済学的には問題外ということになるが、中村裕博士(太陽の家の創設者)は、デキナイ人とはとらえていなかった。
「身障者の真の幸福は慈善や同情ではなく、彼らに働く機会を与えることである。今後とも雇っても損をしない身障者を要請するため、研究を続け報告するつもりである。」
「保護より働く機会を No Charity but a Chance!」
「被護者でなく労働者である。後援者は投資家である。」
「私は社会福祉のベースは単なる観念的・慈善的・宗教的なものでなく、あくまでも科学であると信じている。」
「足りないところは科学の力で」
 以上の語録にみられるように、中村博士は、作業環境を整えることで、十分働けると考えていた。さらに、「太陽の家の中では十分に働ける準備ができた人たちを、一般就労として送り出したのだが、人間関係その他でやめてくる人たちが見られ、それなら太陽の家で働ける場所をと、共同出資会社を立ち上げた」 (以上小田博道氏・太陽の家法人本部総務人事課・工学博士よりヒアリング) と聞いている。そして、「共同出資会社で働く障害者が、共同出資会社の社長になった例もあれば、働く社員同士が結婚し、住宅を持ったという話も何例かある」そうである。(徳田氏・太陽の家法人総務・脊椎損傷で車いすを使用している方よりヒアリング)
 太陽の家の示すものは、障害者が同じように大きな企業で働く場合でも、経営サイドの障害者のとらえ方が違えば、大きく結果が変わってしまうということである。
 ただ、太陽の家においても今日的課題ということでお話をうかがったが、「中村先生の時代は、ほとんどが身体障害者で、それに対応するような体制をとってきたが、近ごろは、精神障害者の数が増えてしまって、身体障害者の求人を東京方面にまで出している」(奥武あかね氏・太陽の家就業支援担当よりヒアリング)という事だった。
 この点は、障害者が、現場でどのような不都合があるかに、障害ごとの特性があることを示しており、精神障害者の特性を、職能としてはどう評価すればいいのかは、これからの課題である。