障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

渡邉 儀一 (わたなべ よしかず)  東洋大学大学院

■報告題目

スポーツの当事者研究についての方法論とその可能性についての考察

■報告キーワード

当事者性、言説、方法論

■報告要旨

 研究者自身は聴覚障害者であるが、健常者のスポーツ活動に参加する中で聴覚障害者と健常者との間に、双方がそれぞれに理解困難な部分を持っていることをかんじてきた。これはスポーツ活動を展開していくための障壁となっており、スポーツ活動だけでなく、日常生活や一般社会においてもこの障壁を取り払っていくことが、双方にとってよりよい活動となるばかりではなく、お互いを認め合うことにもつながっていくと考えられる。
 スポーツ場面における障害者と健常者の関係性については、これまでほとんど論じられることはなかった。仮にそうした議論がなされたとしても、そこでは健常者が如何に障害者を理解していくのかといった一方的な健常者の側の解釈が提示されるのであって、障害者が抱く思いや、障害者と健常者がお互いに歩み寄るような視点は提示されることがなかったからである。
 そこで本研究では、障害者の目線から健常者のスポーツに参加する障害者の認識を如何に明らかにしていくのか、その方法を検討する。具体的には聴覚障害者が健常者のスポーツに参加するときの問題点と健常者のスポーツに参加してくる聴覚障害者の受け入れ態勢と意識についての実態を把握し、健常者の目線による研究が多い中で聴覚障害者のスポーツの現状と問題点を把握する必要性があることを当事者の立場から明らかにすることにある。この目的を果たすために、特に聴覚障害者の認識については、研究者も当事者側に位置することを利用し、当事者的視点からの記述と分析をおこなう。また、当事者の視座で当事者経験の言説化と理論化を目指すための方法論を検討する。
 ところで、スポーツにおける当事者とは、二重の側面を持っている。一つはスポーツをおこなう側の人間であるということ、もう一つは障害者であるということの二重性である。こうした意味においては、当事者研究は重層的な研究段階を持つのではないかと考えることができる。さらにスポーツを対象とする当事者研究は、スポーツという活動の中に障害者と健常者の両方が位置づく中で発生する障害者側の視線による理解や解釈に注目することで、これまで見落とされていた別のサイドからのスポーツ活動を捉える試みでもある。