㈽.卒業論文作成の手順



㈽−1 研究と論文作成

4年間の研究成果を他者に伝えるために書く論理的な報告書が卒業論文であるといったが,自分の設定したテーマの下に研究することと,研究成果を公表するために論文を作成することは,本質的に異なる作業である.ところが,多くの学生は両者を混同してしまい,意図せざる盗作に陥ったりする.まず,両者の違いをはっきり認識しよう.
研究は自分の興味が出発点である.自分にとっての疑問から興味が湧き,その疑問に対して答えを見つけようとするところが,研究の研究たるゆえんである.自分の疑問に対し過去の人はどう答えたか,現在の人はどう答えているのか,その答えで自分は満足できるのか,満足できる答えがなければ自分で答えを導けるかなどと検討していくプロセスの中で自分なりの結論に到達する.このプロセスこそ研究である.理想的には,これまで誰も十分な答えを出すことができなかった問題に対して,誰もが論理的には反対できない解答を与える作業が研究と呼ぶにふさわしい.それが理想である.しかしそこまでいかずとも,そのような解答に向かって思考を働かせるプロセス全体も研究といえるだろう.
このように,研究は基本的には自分本位に,つまり自分の興味に従って進んでいくものである.もちろん自分も納得し他者も納得して始めて,その研究成果は意義を持つのだから,論理的に欠陥がなく,かつその分野の研究者たちが使っている方法で到達した結論でなければならない.このような方法論上の制約はあるとはいえ(ときには方法論上の制約すら乗り越えてしまう画期的研究も出現するが),本質的に研究は自由である.自分の疑問・興味に導かれてどこへ行ってもよい.
それに対して,論文の作成は極めて不自由な作業である.自分の心の赴くままにペンを走らせたのでは,相手は全く理解してくれないし,研究成果と思っていたものが成果ではなくただの暴言・虚偽としか受け取られなくなる.先に,相手は不特定多数なのだから,卒業論文は論理的整合性を持たなくてはならないと述べたが,論理性は必要最低限の条件である.したがって,この条件さえ満たしていれば,誰もが自分の結論・主張を聞き入れてくれるはずだ,などと思ってはならない.不特定多数とはいえ相手は人間である.書き方が上手か下手かで研究成果に対する評価は異なってしまうのである.
論文作成にはそれなりのルールがある.ルールを無視すると誰も相手にしてくれなくなる.ルールを守りながら,その枠内で相手を説得し納得してもらう工夫をすることが大切である.昔は「起・承・転・結」というルールが重視された.諸君が大学に入学する以前に作文の時間で聞いたお話を思い出してくれればよい.だが今は「序論・本論・結論」という形式が一般的である.第㈵部㈽−6でメモ・要約の作り方を説明する際に,論文の構成について述べた.メモや要約を作るためには論文の構成をしっかり押さえておくことが大切だが,自分が論文を書く際の構成法もその作業の中で身につけることができる.説得力のある論文は,序論から本論を経て結論までの展開が実に見事である.本論を構成するいくつかの章(節)では必要な論点を余すところなく議論しており,批判を許さない展開・形式となっている.よい文献は,その内容・結論が重要なだけでなく,論文構成上の多くのヒントを与えてくれるので,その点にも注目して読んでもらいたい.

㈽−2 論文の流れ・研究の流れ(まとめ)

研究と論文作成は基本的に異なる2つの作業であるから,それぞれに別の流れを作ることが大切である.両者が一致するのは極めて限定的なテーマ(「xxの定理について」とか,「xxの理論」とかいったテーマ)の場合のみである.第㈵部㈽章で示した文献の要約に際して参照すべきである次のチャートが,論文の流れ・研究の流れをまとめたものと考えてよい.


     論文の流れ ←────────────→ 研究の流れ
                 ←─────┐  ┌────────┐
      序論:問題意識,全体構成     │  │既存の理論・結論│
         結論の意義         │  │  ↓↑    │ 現実(事例)
         これまでの成果・帰結    │  │著者の疑問・反発│   
                       │  └────────┘
      本論:分析方法(理論モデル)   │     ↓
          数理(数学的)モデル   │   反証例の探索
          計量モデル        │     ↓
          言語モデル        │   調査・検証・証明
         前提条件・仮定       │     ↓
           ↓           │   反例・命題・主張
         論理展開          │     ↓
          調査・検証・証明     │   ┌─────┐
           ↓↑          └───│論文の作成│
          反例・命題・主張         └─────┘
                            自己の主張の正しさを表現する
      結論:研究成果のまとめ           最適な論文の構成
         既存の研究との比較
         論文の限界と残された問題


研究の流れ・論文の流れをつくる際には次の点に注意しよう.
a.そのテーマを選んだ動機・問題意識を鮮明にする.
b.自分なりの結論・主張を明確にする.
c.結論を導くための手法・技法(モデル)確実にマスターする.
d.各章・各節の暫定的結論の関連を考える.
e.論文全体の結論を導く.
f.各章・各節の内容上の相互連関に気をつける.
→全体の連関を示すフローチャートの作成
以下の章で,研究の進め方ならびに論文作成の方法についてもう少し掘り下げて考えてみよう.


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