東アジア複言語コミュニケーション・データベースの構築

2010―2013年度日本文部科學省科學研究費補助金〔基盤(C) 課題番号:22520445 研究代表者:砂岡和子

研究概要:日本語と中国語、韓国語と英語など、東アジア地域で急速に拡大する複言語による話し言葉コミュニケーションの実態について、主に日本国内の教育研究機関・Global企業・自治体での実態調査を行い、実践例を録画分類してデータベースを構築する。定量・定性分析に基づいて複言語コミュニケーションのメカニズムを学術的に解明し、有効性が検証できた実践例を一般公開すると同時に、複言語コミュニケーションの未来を展望するシンポジウムを開催する。各国の言語政策に訴えることで、東アジアにおける複言語交流の普及を促進する。

研究背景 国際交流の拡大と情報通信技術の高度化により、東アジア地域でも中国語と日本語、韓国語と英語など複言語によるコミュニケーションの機会が増大している。日本社会の多言語化現象は指摘されて久しい[国立民族学博物館多言語化現象研究会フォーラム“多言語化する日本社会-理想と現実-”2009 年6 月]。多言語接触による複言語コミュニケーションは東アジアで先行し、筆者が12年間にわたりアジア6大学間で組織してきた遠隔ビデオ会議[科研基盤B (H14~H17)]では、東京・ソウル・北京・台湾の各接続地点で、母語と外国語を使い分けた発言を頻繁に観察できる。筆者は「アジアン・ミスコミュニケーションコーパス」を構築し[科研基盤B(H19~H21)]、東アジアで現在進行中の多言語化の特色①地政学的に近隣の諸言語と政治文化的に優位な英語を加えた複数言語の対等な使い分け、②交流相手との協調的コミュニケーション方略発揮の結果であることを報告してきた[砂岡和子2009年研究業績No5,6,8,10,11,12]。
日本・中国・韓国など東アジア諸国は、母語しか話せないモノリンガルの比率が高い非英語植民地圏であったが、近年域内交流の急拡大に伴い、近隣地域の外国語との接触が増えた。複数言語を協調的に使い分けるコミュニケーション行動は、実質的で調和を重んじる東アジアの言語交流方式といえる。昨今、英語優先の外国語政策下にも拘わらず、日本の大学での第二、第三外国語の履修希望者は80%に上り、環太平洋圏を主に、海外留学や生活体験を持つ高校生が半数を越える時代になった[砂岡和子2009年研究業績No3,7,12] [高山緑他「世界の言葉とつき合うための導入教育」慶應義塾大学日吉紀要45(2009年)]。今後、複言語使用は確実に東アジア全域に波及すると予測できるが、現実認識と総合調査が遅滞し、移民行政やGlobal企業の雇用対策の足かせとなっている[日本企業の中国におけるコミュニケーション活動に関するアンケート調査結果,財団法人経済広報センター編,2009 年6 月]。数種の言語自動翻訳ソフトを組み合わせ多言語交流を行う試みに砂岡も参加するが[京都大学Language Grid:http://www.langrid.org/index_j.html]、機械翻訳の精度は限定的であり[福岡大学理学部主催「機械翻訳研究の課題と新方式の展望」シンポジウム開催趣旨2009年10月]、人間対人間のコミュニケーション能力に遠く及ばない[砂岡和子2008年研究業績No18]。
本研究は、こうした現実に鑑み、国内外言語教育や政策に関わる第一線の人材と人智を活用し、ソフトパワーによる複言語ディスカッションの手法を提案する。学術的研究の基礎資料を収集するため、始めに複言語コミュニケーションの実態調査を実施してデータベースを構築し[図1参照]、定量・定性分析を行い、データを公開して衆智を集め、複言語コミュニケーションのメカニズムを解明する。各国の言語政策担当者に複言語コミュニケーションの有効性を示し、東アジアにおける複言語交流の普及促進に寄与することを目標とする。

研究目標 教育機関や企業、行政など、複言語・多言語教育の実践者と活動機関の連携を強化して、日本語と中国語、韓国語と英語など、東アジア地域で急速に拡大する複言語による話し言葉コミュニケーションの実態について調査を行う(H22)。実践例を録画記録してデータベース化し(H22-23)、平行して対話プロセスの評価基準と類型化のモデルを策定する(H22-23)。有効性を検証できた実例をYouTube動画などWebサービスで一般公開し(H23-24)、データベース資源の点検と拡張を行う(H24)。最終年、Global企業や教育、行政機関に呼びかけてシンポジウムを開催し(H24)、複言語コミュニケーションのメカニズム解明を目指すと同時に、各国の言語政策に訴え、東アジアにおける複言語交流の普及を促進する(H24)。 [図2]「本研究の進め方」参照。


                       

                     
[図1] (DB見取り図)                  [図2] 研究進行予定図