早稲田大学政治経済学部砂岡研究室「砂岡和子家頁」

異文化遠隔交流 ミス・コミュニケーション学習支援プログラムの開発

脱ナショナルなコミュニティー「アジア学生会議」

「アジア学生会議」は過去14年間にわたり東京・ソウル・北京・台湾の大学間を遠隔システムで結んだオンライン対面型の異文化実践授業です。グローバル化で再編成された脱ナショナルなアジアンコミュニティーをカリキュラム上で擬似的に創出することに成功しています(全「討論テーマ一覧」参照)。本学生会議では一貫して中国語・韓国語・日本語など東アジアの最大接触言語でありながら、大学講義やキャンパスで活かされる機会の少ない複数言語を使用し、協調的コミュニケーションと自律的学習者を育みます。多言語、多地域、多機関間で学部レベルの国際共同授業を実施することで、将来にわたり日本がアジア諸国と友好的な地域関係を維持するため、持続的対話の場を拡げることが必要です。教育の大衆化段階に到達したアジア各地に居住する潜在的異文化理解者との対話と相互信頼を積み重ね、外交や軍事に次ぐ文化的安全保障の基盤とすることが目標です。
砂岡和子@早稲田大学政治経済学術院 2012年11月14日

2013年1月13日PM2時 NHKBS1放送予定 第154回特別授業[早稲田&北京大学 どうなる!日中関係]

[討論テーマリスト]

2011年5月12日北京大、淡江大と語る四川大地震三周年と東日本大震災学生遠隔会議

 

ミスコミュニケーション学習支援プログラムの開発
研究代表者: 砂岡和子(早稲田大学・政治経済学術院)
研究費補助機関:独立行政法人日本学術振興会 科学研究費補助金
研究種目:基盤研究(B)課題番号:  19320087
研究期間: 平成19年-平成21年   科研報告書 

               

研究目的

過去8年間、早稻田・慶応・北京大・清華大・台湾師範大・韓国高麗大と実施中の6大学学生TV会議の録画データに基づいて、アジアン・ミスコミュニケーション・データベースを構築する。交流録画の観察と分析に基づき、ミスを許容するコミュニケーション観に立って、双方から異文化接触障害を可視化できるコーパスを作成する。文字テキスト中心の言語研究や情報処理研究に対し、音声、動画シーンと同期してコミュニケーション障害を検索参照可能な学習プログラムを開発することで、非言語的要因を含めより直感的にミスコミュニケーションが交流活動に与える影響を分析し、かつ相互にコメントを加えられるシステムを目指す。コーパスは最終年以降、個人情報保護と版権処理を行い、インターネットで一部コーパスを公開する。プログラム開発にあたり現有の自然言語処理研究とその技術を応用し、多言語の壁を乗り越え、異なる思考の相互理解を促進するために必要な言語処理技術の検証を行う。

研究チームの陣容

共同研究者:(平成19年、20年連携研究者)保坂敏子(日本大学総合科学研究所) 研究補助員: 河内彩香(早稲田大学日本語教育研究科)、山口真紀(東京工業大学)
海外研究協力者:俞敬松YuJingsong(北京大学・School of software and microelectronics・講師)

データ分析協力:(株)アイアール・アルト(IR-Advanced Linguistic Technologies Inc)

研究経過

平成19年
1) 録画データ整備とコーパス用データの分析
ミス・コミュニケーションコーパス構築に向け、過去6年間(実施期間は8年間)の早稲田大学国際遠隔授業録画約80回分を、開催期日、テーマ別、録画媒体、専門家による談話分析データの有無、参加者学習歴データの有無などに基づいて整理した。開催期日、テーマ別リストは砂岡HPに掲示中。
平成19年は初歩的談話分析データのある録画を優先してコーパス用の分析を開始した。2007年4月現在、中国語会議4本、日本語会議5本をそれぞれ北京大学と早稲田大学、日本大学により録画前処理および書き起こし作業を完了している。2008年度録画分から参加者全員へ録画承諾書を依頼し、公開用コーパスとして版権処理に備えている。

2) ミスコミュニケーションの研究
アジア6大学学生交流が実り多い活動として継続発展するには、主に以下の障害を解決してゆかねばならない。
2-1 多言語の壁を乗り越える
2-2 異文化概念の違いを明確にする
2-3 意見の相互交流を活性化する
それぞれ必要な支援を以下のように設定する。

2-1 多言語の壁を乗り越える
a  会議用語(6大学学生TV会議では中国語と日本語)の言語レベル向上支援
過去、砂岡および劉松(早稲田大学国際情報研究科)、比企静雄(早稲田大学名誉教授)が開発してきた、L2教育支援のための各種中国語CAI学習ツールの教育利用を促進する。

b マルチリンガル言語翻訳ツールの利用
多言語サービス基盤「言語グリッド(Language Grid)」に加盟、インターネット上の言語資源(対訳辞書など)や言語処理機能(機械翻訳など)を組み合わせた多言語交流の試みを行う。http://langrid.nict.go.jp/jp/index.html

c 言語コミュニケーション能力向上支援
円滑な異文化コミュニケーションのために言葉の理解が占める比重は、母語話者同士のそれに比べてはるかに高い。アジアン・ミスコミュニケーション・データベースの構築は、異文化対面交流時に発生するミスマッチを可視化し、相互に注記を加えることで、次回以降の障害回避を支援する。このため過去の討論映像の分析に基づき、ミス・コミュニケーション発生箇所にアノテーションを施したコーパスを構築している。
しかし異文化交流の障害は多面にわたるため、われわれの提案するアノテーションは固定した基準ではなく、討論参加者が相互にコメントを注記する互注方式とする。将来にわたり、より多くのデータ観察と分析結果を蓄積し、逐次修正を加え、利用者のニーズに応じ選択可能なアノテーションシステムを開発する。
外国語学習者(NNS)が母語話者(NS)と対話を行う際の障害は、言語的、非言語的要因に大別できる。この中でも、我々は言語行動と近隣関係にあり、言語コミュニケーションと情報を相互補完することで理解可能な、身体言語〔bodylanguage〕、待遇表現〔politeness〕、ポーズやフィラー〔filler〕、談話方略〔Communication Strategies〕などの非言語的伝達手段の分析を主に行う。語彙や語法情報と異なり、沈黙や言いよどみ、しぐさや態度などなどの副言語的、非言語的交流障害は、非母語話者にとって自覚が難しい。中国語や日本語の自然発話中の非言語的要素の運用に関しては十分なデータがなく、テキスト解説だけでは克服方法の提示が不十分で外国語教育への応用が困難である。

平成19年はこのうち、NNSの非流暢性ポーズとフィラーの使用について分析に着手した。NNS学習者は言語能力の限界から、発話を短く区切り、かつポーズを多用するため、NSにとって聞きずらく、否定的な発話印象を与えることが多い。NSとの円滑なコミュニケーションを図るには、学習者が発話つなぎの処理方法を把握することが極めて重要である。我々は大規模日本語話し言葉コーパス(CSJ)を参照し、聞き手に肯定的に受け止められる日本語のフィラーとポーズが聞き手の印象に及ぼす影響を分析している。その結果、自発性が高く、肯定的な印象得点が高いフィラーの使用状況を解明できれば、外国語教育への応用が期待できる。  

2-2 異文化概念の違いを明確にする
アジア6大学学生交流会議では、同じ語彙や表現を使用していても、民族や母語により異なる概念を背景に討論しているため、焦点がかみ合わないケースが頻出する。表層的な語句単位の翻訳に止まらず、多言語間の概念の相違を表記する言語ツールの開発が求められる。砂岡は平成19年より北京大学LiuYang が開発するSUMOやChinese-Japanese WordNet作成に協力してきた。今後、Francis Bond氏(独立行政法人情報通信研究機構NICT)や林良彦(大阪大学大学院言語文化研究科)の指揮のもと、アジア研究機関の間でWordNet多言語オントロジーデータの交換を促進し、英語、中国語、日本語、韓国語などアジア言語間の多言語オントロジーを構築、Multi Lingal Consept Dictionaryの作成によって、外国語学習と連携した言語支援を目指す。

2-3 意見の相互交流を活性化する
言語力を強化し、相手の異文化概念を理解できたとしても、双方が本音で意見を交流することがなければ、矛盾の解決や心のインフラを構築できない。過去の6大学学生TV会議を振り返っても、対面討論の場だけでは双方が十分に自己の意見を表明できず、会議終了後に初めて真意を発見し、コメントを寄せるケースが多出する。遠隔TV会議を一過性に終わらせず、意見を相互交流し継続討論できる場を設定することが、会議の活性化と、その成果を社会活動へと発展させる鍵と考える。
本ミス・コミュニケーション学習支援プログラムは、過去データに基づいたコーパス情報資源を提供する以外に、新規録画を使用し、分析ツールを含めプログラムをカスタマイズして、自己グループで相互アノテーションが可能な学習支援システムをインターネットで公開することを目標とする。

3) コーパス構築と公開用ツールの開発

動画への注記、検索、ネット上での送受信に配慮し、北京大学Yu Jingsongと砂岡が以下の各種ツール開発とプラットフォームの設計を準備し、コーパスの公開を目指す。

①DVD-Video、RrmvbのMpg断片分割とWavファイルの分離ツール
②録画音声無音区間の自動分割ツール(認識率70%-90%)
③北京大学Yu Jingsongと砂岡が研究目的に合わせてELANをカスタマイズし、Tierの自在作成、動画音声テキストの多言語相互注記が可能なMulti Annotation Programを開発
④コーパス管理用プラットフォーム
⑤教育用プラットフォームの建設準備

平成20年 
昨年度に続き自ら開発した作業用ツールで、交流録画素材に対し以下の障害分析を進める。
1 録画中の発言のテキスト書き起こし作業
2 ポーズ、Fillerなどの半自動抽出とラベリング
3 2の素材に人手でミス・コミュニケーション要因をアノテーション。
4 3の注記の統計と分析
5 学習プログラム用データベースの構築
6 5の効果検証
7 一般公開用学習プログラムの作成準備

本年度から原録画の書き越し作業をそれぞれ中国語は北京で、日本語は日本国内で外注作業を委託し、平成19年分と合わせ、平成20年度は日本語20本、中国語15本の計35本、約40時間のコーパス化を目指す。並行して昨年来開発中の分析用ツールを一部修正する。既存の大規模言語コーパスや言語周辺知識資源との連携にも力を入れ、専門家による交流障害アノテーションの種類の決定と分析を進める。2008年度夏季から2009年3月までに、本研究経過と分析結果に関する研究成果を国内外の学会で発表し、関連研究者との意見交換を行う。年度末には一般公開用の創作学習プログラムの制作に着手する。

平成20年 科研報告書  参照

関連論文(準備中)