フジテレビ「たけしのコマ大数学科「結び目理論」」
オンエア:2012年7月16日(月)25:23から25:53まで(関東広域圏)

上記番組に出題・出演しました。
番組では、具体的な解法を中心に解説がなされました。
ここでは、位相幾何学(トポロジー)の観点から解説します。



ではまず具体的な解法を図示しておきます。





番組中にも解説がありましたように、レベル1で2回、レベル2で4回、レベル3で8回と2のべき(2を何回かかけたもの)になっています。
ではレベル4では16回になるのでしょうか。はい、そうです。
問題の回数は「連続変形」によって変わらないものです。つまり、知恵の輪の形を少し変形しても、答えは同じなはずです。
先ずは次の図をご覧ください。



上図のように、変形しないはずの金属部分を変形させて考えます。
(マイナスの数や虚数など、現実世界では存在しない、起きないと思うことを自由に思考することが数学の素晴らしさだと私は思っています。)
金属部分を図のように順次縮めて、そのかわりに点線部分を延ばします。
すると、最後の状態では8回横切ればはずせることが簡単に見て取れます。
すると、一つ前の図でも、少しゴムひもの動きを迂回させれば8回ではずせることが分かります。
(番組であった手錠の縄抜けと同じで、「迂回すること」が基本テクニックです。)
さらにその前の図になると、だんだん考えるのは難しくなりますが、8回ではずれるはずです。
次のように考えてもよいでしょう。最後の図でゴムひもをはずす際にゴムひもが通過するところを考えます。
下図のようにこの軌跡は曲面のようになっています。



このときこの曲面と点線部分は共有点を8点持ちます。金属部分を変形し戻す際に、この曲面をゴム膜のようにぐにゃぐにゃ曲げていきます。
すると最初の問題の図においても、絡まっているゴムひもとはずれているゴムひもをつなぐ、ぐにゃぐにゃに曲がった軌跡があるはずです。
実際にその軌跡の図を描くことは難しいかも知れませんが、とにかくその軌跡は点線部分と共有点を8点持っているはずです。
ということは、このぐにゃぐにゃの軌跡に沿ってゴムひもを動かせば、点線部分を8回横切ることではずせるはずです。

同様に考えれば、レベル4では16回になることが分かります。このように「連続変形」によって変わらない性質を探求するのが位相幾何学(トポロジー)で す。
結び目理論は位相幾何学の一分野で、今回の知恵の輪の問題は、結び目理論の一分野である空間グラフ理論の問題であると云えます。

これで、8回ではずれることが分かりました。では、7回以下でははずれないのでしょうか。はい、そうです。
そのことは、以下の論文で証明されています。(クリックするとpdfファイルが出て来ます。)

TOPOLOGICAL INSIGHTS FROM THE CHINESE RINGS
JOZEF PRZYTYCKI AND ADAM SIKORA

上記論文では群論と呼ばれる代数学の理論を使って証明してあります。
今回、コマ大に出題させて頂くに当たって、7回以下でははずれないことを自分なりに証明しようと考えてみましたところ、
被覆空間論を使った図形的な別証明を発見しました。
被覆空間のちゃんとした説明はここではしませんが、
サーキットでカーレースをするときに、周回遅れの車がトップを走っている車と同じところにいるように見えるけれど、
実際には違う世界を走っているように(周回遅れはどいておくれ!)
円周状のサーキットを引き伸ばして、直線上にして考えるのが被覆空間の考え方です。

知恵の輪のうちの一つの輪を固定して考えて、その輪を1回くぐったら別の世界に出ると考えます。
そう考えて図を描いてみると数学的帰納法がうまく使えます。
(一つレベルの下がった知恵の輪が2つ出て来て、レベルが一つ上がると2倍になることが分かります。)
それで本当に8回必要なことが分かります。
その際に数学的帰納法の最初のステップに現れるのが、Hopf linkと呼ばれるものです。
このHopf linkがはずれないことは、例えば絡み数と呼ばれるものを使うと証明出来ますが、結び目理論を勉強すると最初に習うことです。
番組中の「ベンハー飲み」はHopf linkの状態になっているのではずれなかった訳です。
手錠の縄抜けでも、手と手錠の間の隙間を使わないと、Hopf linkの状態になっているのではずれません。




専門家向けのノートですが、被覆空間を使った証明のpdfファイル(1.4MB)を置いておきます。

Site-specific Gordian distances of spatial graphs

追記:プレプリントを作成しました。(2017年3月)
https://arxiv.org/abs/1703.09440

今回この証明を思いついたことで、私自身「美しき数学の世界」を感じることが出来ました。
ロケにお越し頂いたコマ大チームの皆さんはじめ関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

尚、結び目理論については検索するといろいろ出て来ますのでお試し下さい。
番組中で紹介された領 域選択ゲームについても出て来ると思います。


まとめ「答えは2のべきになるべきよ。」

おまけ

戸部さんに出張命令が出ました。
「アメリカに飛べぃ!」
解説:渡米がかかっています。

谷山公規非公式プロフィール

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